飲み屋のカウンターに座って1人静かに読みたくなる（飲みたくなる）本

アルコールという液体を通したら世の中はどのように見え、精神はいかに揺らぐのでしょう。依存症に陥り緊急入院した主人公の闘病生活を科学的に見つめながら、醒めた眼で人や愛や物ごとについて語ります。入退院を繰り返した著者の体験をベースにした、生々しくてどこか感傷的なストーリー。吉川英治文学新人賞受賞の傑作です。

札幌・ススキノで便利屋探偵を生業としている「俺」を主人公とする、異色のハードボイルドシリーズの短編集です。しょっちゅう危ない目に遭いながらも、夜ごと行きつけのバーで何事もなかったように1人の時間を過ごします。飲むのはウイスキー、ときどき胃薬。人を見つめる眼は鋭く辛辣だけど、どこかやさしくもあります。

小学校の同窓会の3次会。列車が遅れて同窓会に間に合わなかった同級生を、男女5人が路地奥のバーで待つお話です。40歳を迎えた彼らのそれぞれの来し方への追憶を織りまぜながら、それにしても「田村はまだか」と待ち続けます。田村ははたして来るのか、来ないのか。短編と思いきや連作になっている、そのストーリー構成も見事です。

東京・三軒茶屋の路地裏にひっそりと佇むバー「香菜里屋」。そのマスター・工藤は、店に夜な夜な集う客たちの持ち込む難事件を鋭い洞察力で読み解いていきます。美味しい創作料理に舌鼓を打ちながらも、明かされる謎のほろ苦さに味わう手も一瞬止まります。わが町にも香菜里屋がほしいと、読後には願っているはずです。

飲屋街の端っこにある小さな「めしや」が舞台。営業時間が深夜0時から朝の7時頃だから、客はそこを「深夜食堂」と呼びます。メニューはわずかでも、頼めば強面のマスターが何でも作ってくれます。ビール、酒、焼酎しかないが、豚汁定食で一杯もオツ。長い夜のお供には、旨い酒とほっこりするコミックが意外と合います。