人間の多様な感情が表出した、奥深いストーリーが堪能できるサスペンス小説

さまざまな境遇を抱えた女性が暮らすシェルターで、絶大な信頼を得ていた小野先生が火事で命を落とします。しかし、遺体は別人であることが後に判明。本物の「先生」はどこへ？調査が進むうちにある「女」が浮上してきます。心に深い闇を抱えた人間が無償の愛を受けるとここまで人格が変わってしまうものなのか、と唖然とするはずです。

23年前の夏、12歳の尚は「俺の父親、ヒトゴロシなんだ」という言葉と謎の記号を残し、同級生の相馬の前から突然姿を消しました。その後刑事になった相馬は同じような記号が残された誘拐事件を担当し、興信所の鑓水、修二の力を借りて事件を追うことになります。尚が失踪した本当の理由に切なさが募ります。

父を亡くした幼い章子のもとに、30歳の章子から手紙が届きます。その手紙に救われ、返事を書く10歳の章子。さらに章子には追い打ちをかけるかのように不幸が襲い掛かるのですが、彼女はもがき苦しみながら幸せな未来を夢見て必死で生きようとします。読後には怒り、悲しみ・・・さまざまな感情が胸に去来しているはずです。

2人を殺害したとして逮捕された男は証拠不十分で無罪となります。被害者たちは自らの手で復讐を果たそうとするのですが、互いを思いやる気持ちが複雑にからみ合い、事件は哀しい結末を迎えます。愛するがゆえに心に闇を抱えてしまった人間の哀しさが描かれています。物理学者・湯川学を主人公にした、おなじみ「ガリレオ」シリーズの一冊です。

麻美の恋人・富田のスマホを拾ったのはハッカーの浦野でした。麻美を気に入った浦野は富田のスマホから抜き取った個人情報を利用し、巧妙な手口で麻美に近づきます。そこに、被害者女性にある共通点が存在する連続殺人事件がからんでゆき・・・。ただのサスペンス小説では終わらない、奥深い余韻を残す一冊です。