一瞬に永遠を感じる短編タイムトラベル小説

収録作『時間飛行士へのささやかな贈物』。国家的なタイムトラベル実験中に、爆発事故が起きた。時間飛行士は自分たちの事故をすでに知っている。なぜなら・・・。ザ・SFっぽいのかと思いきやそうではなく、やりきれない運命に果てしなさをおぼえる情緒的な作品です。

ある日突然、11月7日を繰り返すことになってしまった女子大生の話。読んでいて自分まで時間の中に閉じ込められているような、世界の不気味な静けさを感じます。リプレイヤー同士で集まって安心したり、逆に恐ろしかったり・・・。他の作品も、タイムトラベルではないものの「閉じ込められる系」で面白いです。

表題作ではなく収録作『酔歩する男』がタイムトラベルもの（ごめんなさいこちらは長さとしては短編ではなく中・長編です）。脳の時間を司る器官を破壊すれば、意識の中でタイムトラベルが可能になる、という発想が興味深いです。悪夢的・哲学的な時間SF。

『秋の牢獄』『玩具修理者』と、角川ホラー文庫が2冊続いたところに、とってもおちゃめなタイムトラベル短編を。私が知る中でもっともかわいらしいタイムマシンの使い方が登場します。思わずニヤニヤしてしまう短いお話。

最後に収録されている『海酒』がちょっぴりタイムトラベルっぽい作品です。文章から浮かぶ美しい情景のなかに、踏み入れると二度と戻ってこられないような危うさも感じます。ザ・タイムトラベルではないのですが、すっかり私が主催しているタイムトラベル専門書店の定番本となっています。