ブックキュレーター映画批評家 寺本郁夫
途方もない小説
海に鯨が住むように、陸に象が住むように、圧倒的な威容を誇って屹立する小説が存在します。質、量、発想、叙述、構成の上で想像を絶する巨大な小説。その中でも、読み始めたら止まらない……どころか、加速度的に文字を追いかけてしまうリーダビリティのある作品を、今回はご紹介いたします。
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二つの世紀を生き続け超人的な存在に変容していく主人公たちが、ニューヨークを「正義の都市」へと創り変えていく……。読んでいてくらくらして来るマジックリアリズムの傑作。あっ気にとられる展開のニューヨーク市長選、運河をふさいで出現する山のような巨船、都市を包む業火といったガジェットに目を瞠(みは)ります。摩天楼の屋上に住む富豪の娘の圧倒的な魅力が、この小説の読者を迎え入れる門になってます。
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西部開拓史時代のインディアン討伐隊を、なんとも凄まじい筆致で描いた小説。暴力と殺戮の渦巻く地獄の世界を言葉にするのに、コーマック・マッカーシーくらい相応しい作家はいないでしょう。頭の皮を剥ぎながら先住民を狩っていく一行の残虐さを、地平線まで広がる大きな風景が見つめていて、ヒューマニズム以前の原始の営みを見せられているような畏怖を覚えます。
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死の島 上
福永 武彦(著)
小説家志望の主人公が二人の女性の間で揺れ動く三角関係の恋愛を、三人それぞれの視点で描きつつ、そこに主人公の夢の世界やら彼の書く小説世界やらが入り交じります。加えて、現在に過去の場面が挿入され、錯綜した時系列がジグゾーパズル様に組み上がっていく。主人公がどっちの女性をとるかという葛藤が、ラストの驚愕の仕掛けを呼び込み、それが原爆投下以降の現代人の魂の空洞という主題を浮き上がらせる、超絶技巧メタ小説。
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宇宙船の乗組員を務めるのが全員気の狂った文房具。そんな舞台で繰り広げるスラップスティックコメディを読んでいると、笑いながらアタマがおかしくなっていく感覚に落ちます。しかもそれは小説の第一部にすぎず、第二部では鼬(イタチ)族の支配する惑星の文明史を描くという、さらなる想像力のビッグバンが待ち受けている。さて、第三部では何が起こるのか……?80年代の筒井康隆は、まったくもってとんでもない作家でした。
ブックキュレーター
映画批評家 寺本郁夫映画批評家。80年代の季刊『リュミエール』に映画批評を発表。以来、TOWER RECORDSの『intoxicate』、『映画芸術』に映画批評を寄稿。映画の批評とはその映画の独自性を発見すること、および、その批評を通して映画とは何かを発見することと信じる映画原理主義者。さらに、映画批評は単に映画を発見するのみでなく、映画を表す言葉を発見しなければならないと信じる批評原理主義者。座右の銘はメルロ=ポンティの次の言葉。「(『語る』という現象において)話し手は語るに先立って考えるのではない。話す間に考えるのですらない。語るということが考えることなのである。」映画も読書も雑食性。好き嫌いなく食べます。
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