無意識を揺さぶるイマジネーション。SF作家、J・G・バラードの世界

最初期の短編15作が収録されています。破滅の予感ただよう退廃的な世界観、音響彫刻や詩作コンピュータが生み出す幻想的なイメージ、睡眠機能を除去されて、あるいはプールの底に謎の模様を刻みながら精神を崩壊させてゆく登場人物たち。全編、SFの可能性を切り拓かんとする若きバラードの想像力が躍動しています。

初期の代表的長編小説です。不倫相手の人妻を追ってアフリカの港町にやってきたサンダース医師。そこで彼が目にしたのは、片腕が水晶のように結晶化した水死体でした。光と色彩をまき散らしながら、人も自然も呑み込んでウイルスのように広がってゆく結晶化作用。その恐怖とまばゆいまでの美しさが、めまいのような読後感を残します。

自動車事故のエクスタシーに憑かれた男、ヴォーンの夢はある映画女優と絶頂の瞬間に衝突死すること。彼との出会いが、語り手バラードの倒錯的なエロティシズムを目覚めさせます。自動車というテクノロジーは人間の欲望に何をもたらしたのか？執拗に描かれる事故とカーセックスに、読者の潜在意識もまた揺さぶられるでしょう。

ほしい本に追加

バラード自身の戦争体験をもとにした長編小説です。舞台は中国・上海。11歳の主人公ジムの裕福な生活は、日本軍の突然の侵攻によって終わりを迎えます。両親との離別、戦地と化した大都会での孤独な彷徨（ほうこう）、そして捕虜収容所へ。戦争がもたらす飢え、暴力、死、人間のむき出しの本性が、少年の目を通して冷徹に描かれています。

エッセイや書評を集めた一冊です。文学や映画、科学、昭和天皇、コカ・コーラなどテーマは多彩。いずれもバラードの鋭利でシニカルな切り口が光ります。なかでも「SFが探求すべきは内宇宙だ」と語るSF論、その内宇宙のビジョンに大きな影響を与えたシュールレアリスム絵画論は、彼の作品を深く味わううえで必読です。