自分を愛してくれない人を好きになった人に捧げる、もどかしい恋愛小説

初恋相手のイチに10年間片想いを続ける26歳、ヨシカの妄想が炸裂した恋愛小説。想い続けた末、脳内に「イチ」を召喚するという特技まで身につけたヨシカですが、彼女に想いを寄せる男性が現れ・・・。非現実と現実の恋愛、どっちを選ぶのが幸せなのか。「好かれない」世界から「好かれる世界」へ、ヨシカが救われるラストも魅力的です。

マモちゃんのためなら仕事も辞め、すべてを放り出せる。そんなテルコの異常なまでの一方通行な愛が切なく痛々しい小説です。しかし、多くの方は読み進めていくなかで、テルコの一貫した姿に深い感銘を受けることでしょう。好きな人を好きでいて何が悪いのか？と考えさせられます。

傷つくことを恐れて恋愛を遠ざけてきた夏目香織、32歳。一枚の絵画を通じて出会った「間島昭史」に惹かれてしまった香織は、ただひたすらに彼に会い、触れてみたいと思うようになります。恋愛における負けは「好き」から逃げること。壊れるほどに誰かを愛さなければたどり着けない、ラストの光景は秀逸です。

推しを推すことに生きがいを感じている、あかり。自分を知られなくてもいい、推しが画面上に現れるだけで幸せだった彼女が目にしたのは、推しの芸能界引退報道。端から交わることを求めず、見つめるだけでエクスタシーを感じる推しへの愛情が、ときに美しく、ときにむごい。21歳の作家、宇佐見りんによる芥川賞受賞作です。

顔にアザがあることで恋愛を遠ざけてきた大学院生のアイコと、そのアザをめぐる映画を撮る監督・飛坂逢太との間に生まれた恋愛関係。しかし、飛坂の自由奔放な在り方に、アイコは徐々に自分の価値を見失っていきます。傷ついた女性が、外側からではなく自らの力で救われていくプロセスが読者の心を救ってくれます。