人間の醜さを全肯定する。直木賞作家・西加奈子の隠れた名作

生きづらくて苦しい。そんな思いを抱える女性が登場する物語を8つ収録した短編集です。女性ならではの苦しみを救う数々の「おまじない」は、苦しみをあるがまま肯定し、そっとやさしく包み込みます。まじめだからこそ悩んでしまう現代の女性たちの背中を押し、新しい世界に踏み出す勇気をくれる一冊です。

誰かを死ぬほど好きになったことはありますか？そして、もしその恋が「許されない恋」だったら？本書は5人の家族と、1匹の犬・サクラをめぐる家族の物語です。人間の中に潜む愛、性、死の狂おしいほどの美しさと残酷さに打ちのめされます。にもかかわらず、ラストは幸せのあまりため息をついてしまう不思議な小説です。

アダルトビデオ会社でモザイクかけの仕事をするOL・池井戸花しすのモットーは、誰にも嫌われないように生きる。そんな花しすの趣味はレコーダーで他人の会話を録音して、何度も聞き返すこと。その趣味が思わぬ方向で彼女を救うことに・・・。つまらない毎日の積み重ねこそ人生であり、それを忘れてはいけないと感じる一冊です。

舞台は大阪ミナミの繁華街。「オカマ」同士のあらゆる交錯。誰だって幸せでいたいのに人間は傷つけあうばかりでいつも苦しい。貶め合い、悪意であしらっていくことでしか生きられない闇を感じる物語です。そんな表題作のほか、収録作「タイムカプセル」では正義のために殺人を犯す人の致し方なさを突きつけられます。

『きりこは、ぶすである。』という鮮烈な一文で始まる小説。社会の「かわいい」に縛られ、自己存在意義を見失ってしまった主人公のきりこは、黒猫のラムレス2世に触発されて自分を変えることを決意。「ただ、そこに在ることの難しさ」をありありと描き、それでもなお生きることを肯定するラストは圧巻です。