「文芸界のドン・ファン」吉行淳之介が描く、いびつで妖しい恋愛小説

男女のさまざまな関わり合いのかたちを綴った5編を集めた短編集です。実直な男と娼婦との切ない恋や、不倫願望を持つ青年の危うい心情、性を意識した少年の戸惑いなど、艶めかしいテーマをドライな筆致で描いています。どの話も著者独自のスタイルを強く感じられ、肩ひじ張らずにさらりと楽しめます。

早逝した父親の影響力に悩ませ続けられていた男が、ふとしたきっかけで関係を持った女性との歪んだ性に溺れていきます。妻子ある主人公が、とある少女に乞われてその姉を誘惑しますが、彼女の尖った性癖に惹かれてしまい・・・。かなりショッキングですが、繊細な表現のおかげで上品さすら感じます。吉行淳之介の代表作のひとつといえる小説です。

妻を亡くした中年の小説家と3人の女性の関わりを細やかに描いた長編小説です。同性愛者のはずの女性をはじめ、それぞれ異なる個性を持つ女性との性の営みが淡々と綴られています。時折挟まれる奇妙なエピソードが物語に摩訶不思議な奥行きを与えています。吉行淳之介の真骨頂が発揮された一冊です。

生粋の色事師だった父親のあとを追うように、女性との交わりのために自己研鑽し続ける男の姿をおもしろおかしく描いた、ユーモアたっぷりの教養小説（ビルドゥングス・ロマン）です。生真面目にエロスを追求する主人公が、かなり笑えます。吉行淳之介の特徴でもある際どい性描写満載ですが、かなり軽妙な筆致で描かれているため、湿っぽさがなく気楽に読める娯楽作です。

離婚経験のある中年小説家と、同世代の恋人がいながら小説家と関係を持ってしまう女子大生の関係性を描いた恋愛小説です。失禁から始まるいびつな恋の物語ですが、友人同士というには親密すぎて、恋人同士というには淡白な年の離れた男女の触れ合いが、しだいに心地よくなってくることでしょう。