ままならない体で物語り、生きる。重度障害について考えさせられる文学

重度障害者の著者による作品としては、史上初となった芥川賞受賞作。著者・市川沙央と同じ障害を持つ主人公の釈華は、健常者のように妊娠と中絶を果たすという野望のためにある行動に出ます。ユーモアやスラングでみなぎる生の側面と、痛覚や命の選別が切実な死の側面の狭間で、呪いと祈りの双方がにじむ傑作です。

2016年の相模原障害者施設殺傷事件から着想を得た小説です。運動・発話能力をもたない「きーちゃん」の密やかな心理が、ひらがな主体の繊細かつ哲学的な文章で綴られています。一方、介護士の「さとくん」はきーちゃんたちとどう過ごし、何を考え、犯行に至ったのか・・・。社会への洞察を促されているような小説です。

長年、隔離政策と国民的な差別の対象であったハンセン病。その罹患者である北條民雄が、自身の療養所生活に基づいて綴った私小説です。軽症者として、己の未来ともいえる重症者を介護する絶望と、無私の心で介護に取り組む患者・佐柄木の強く澄みきった生命観に圧倒されます。作中の最後の言葉に、心が震えるはずです。

文学者、正岡子規は肺結核から脊椎カリエスという不治の病を患い、34歳でこの世を去りました。六尺（約1.8メートル）四方の部屋でさえ『広過ぎる』ほど、骨の激痛に苦しみ横たわるほかない生活。それでも写生や食道楽、数々の社会論考、そして口述筆記でも続けた創作の数々。壮絶にして鮮やかな命を知る最晩年の随筆です。

世界文学の金字塔としてよく知られた本書を重度障害者となった青年の小説とすると、どう読めるでしょうか？理解もできないまま、変容した肉体に戸惑い歯ぎしりするザムザ氏。気遣いだけでなく恐怖や倦厭（けんえん）で彼を疎んじ、隔離する家族。障害者文学として捉えると、読後感が変わるかもしれません。