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芥川竜之介が直木賞を獲ったら
2017/11/02 16:06
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
岩波文庫版の芥川竜之介(岩波書店は芥川の名前は竜の字をあてる)作品では、『今昔物語』や『宇治拾遺物語』を題材にした王朝物は二冊編まれている。
そのうちの一冊で、収められているのはタイトル通りの四編である。
まず「羅生門」。芥川の作品でも有名なものだが、おそらく誤解があるのは黒澤明監督による同名の映画タイトルがあまりに有名だからだろう。
ただし映画は芥川の「藪の中」を映画化したもので、この作品とは関係ない。
けれど、この「羅生門」も読み応え十分な短編である。
人間の業の恐ろしさがうまく描けている。
次の「鼻」は夏目漱石に絶賛されたといわれる短編。
おそらく多くの人が一度は読んだことがあるだろう。
長い鼻に悩まされていた主人公ではあるが、ある方法で短くなった途端に他人の目が今まで以上に気になり、元の長い鼻に戻ると安堵するという、人間の愚かな性を描いて今読んでもちっとも古びていない。
そういう人間の愚かさは「芋粥」でも同じだ。
貧層な男がお腹いっぱい芋粥を食べたいと念じながらもいざそれが実現してしまうと身をひいてしまう。食べたいと念じていた時分がもっとも仕合せだったことに気づくなんて、夢ばかり追い続ける私たちにも同じことがいえる。
そして、「偸盗」。
芥川竜之介といえば純文学の代名詞のように言われているが、この作品を読むと直木賞だって獲れるのではないかと思ってしまうくらい、活劇場面などは読ませる。
こういう作品だって書けるのだと見せつけているようなものだが、芥川自身は好きではなかったようだ。
芥川の「基本作品」に見る芥川のシティ・ボーイ性
2010/03/16 08:22
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:analog純 - この投稿者のレビュー一覧を見る
新聞だったか何かで読んだんですが、教科書から夏目漱石、芥川龍之介の小説教材が姿を消した、と。
もちろん全ての教科書からそれらが一斉になくなったわけではないでしょうから、これで一気に漱石・芥川の小説を読む授業機会が失われたわけではないと思います。
また、これも昔からよく言われていることですが、教科書に載ったりするから面白くなくなるのだ、と。授業なんかで、たどたどしい手つきで「腑分け」みたいなことをするから、その小説はつまらなくなってしまうのだ、と。
確かに、森鴎外なんかは『舞姫』が教科書に載っている(載っていた?)せいで、すっかり敬して遠ざける作家になってしまったような気がします。
『舞姫』もしっかり読めば、とても色っぽい面白いお話だ(同棲していた女性が妊娠したと分かったとたんに捨ててしまう話ですから)と言うことに気がつくんでしょうが、いかんせん、あの擬古文は、ちょっと辛いですよね。
お弁当を食べた後の、午後の授業の辛かった事を、何となく思い出します。
さて芥川の基本中の基本『羅生門』です。
あと、芥川の基本といえば『蜘蛛の糸』『杜子春』『トロッコ』あたりでしょうかね。
でも今挙げた三作が、まぁ、中学校までであるのに対して、『羅生門』は、高校教科書でしたよね。
今回、この短編集を読みまして、なるほどね、と少し納得しました。
『羅生門』と『鼻』、デビュー作と、有名な漱石の激賞小説ですね。
今回、ちょっと気合いを入れて読んでみましたが、なるほど、若い芥川の才気に溢れた作品だなと、とても思いました。
芥川は、かなり自信があったんじゃないかと思います。
例えば梶井基次郎の『檸檬』が、その時代、とても「バタ臭い」小説として読まれていたように、この王朝物語の「パロディ」は、とても都会的でハイカラで、そして優雅だと感じました。
そして、なぜ『羅生門』が高校生向けなのかということですが、『鼻』も含めて(あるいは『鼻』のほうがより強く)、これらの小説には、かなり強い「ニヒリズム」が見られるように思います。
これは、人間の心理、ということは、人間の存在そのものに対する、かなり根深いニヒリズムだと感じました。
一種の「緊急避難」状況下での、それでも骨絡みになっているエゴイズムのいやらしさですかね。
こういうものをずっと見続けねばならない精神には、ちょっと息のつけるところがないんじゃないでしょうか。
まさか、デビューしたての芥川に、晩年の自らの状況が予測されたとは思いませんが、まさしく彼の小説作品には、最後の『歯車』あたりまで、一本の線に連なっているように思いました。
一方、『偸盗』ですが、これはこの短編集の中で最も面白かったです。
ここには、作品がもっと膨らんでいく可能性を持っていたであろう、複数のストーリーの絡み合ったおもしろさがあります。
ただ、どうなんでしょう。ちょっと、「根元的」な話なんですが、芥川は、本当に長編小説が書けなかったんでしょうか。
あれだけ、短編小説についてはあらゆる技巧を駆使した芥川に、長編小説が残っていないと言う事実が、それを物語っているとは思いますが、うーん、「書かなかった」んじゃないですよね。(まぁ、両者にさほど違いがあるとは思いませんが。)
『偸盗』はとても面白い小説でしたが、しかし読み終わるとどこか不十分で、いわゆる「短編小説の悲しさ」みたいなものを感じました。
例えば芥川と同時代人(少し芥川の方が後輩)で、「ライバル」でもあった谷崎潤一郎を、ここに比較すると、その差は明らかです。
『偸盗』の登場人物、「太郎・次郎・沙金」の三角関係に近いものを描いている谷崎作品に『卍』がありますが、ストーリーの展開において、谷崎の二枚腰・三枚腰、粘りに粘って、読者を次々に欺きながら強引に進めていくあの「粘着性」が、芥川には見られません。そんなところ、芥川は都会的で繊細で、そしてとても淡泊です。
この作品は、芥川自身、素材については気に入っておりながら、作品としては不満足なものとして改作の意志を持ちつつ、生前の全集には未収録であったと。
しかし、その意志が実現されなかったと言うところに、芥川の一種、「悲壮感」の漂う人生の佇まいがあったような気がします。
最後に残った『芋粥』ですが、これは、全体の作りが少しいびつな感じがして(例えば、利仁の扱いや狐の扱い)、余りよく分からなかったです。
テーマが、「望みは叶わないうちが華」というだけでは、少し弱いと思いました。
やっぱり、こういう作品に★を付けるのは、違うかなって思っちゃうわけですよ。五つつけるのも嘘だし、だからって三つというのもね。というわけで薔薇色の解決
2004/05/12 20:38
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「王朝末期の都を舞台に、盗賊、役人、貴族などが描き出す人間模様。『今昔物語』『宇治拾遺物語』に素材を得た作品集」王朝物語。改版されたせいで、古い活字が苦手な私には、とっても読みやすくなった。
荒廃する都の、羅生門の楼上で繰り広げられる人間の浅ましい生き方「羅生門」、四年九月。瓜のように垂れた長い鼻をもつ禅智内供と、それを嘲笑う周囲の人々の心「鼻」、五年一月。芋粥が食べたくてしょうがない五位、彼の願いが叶う日が「芋粥」、五年八月。沙金という名の女を巡る盗賊の太郎と次郎の兄弟の確執が、盗みの最中に炎となって燃えあがる「偸盗」、六・四・十二。
巻末には絵入りの注と、中村真一郎の短いながらも必要十分な解説がついている。特に、作品の依頼のようすなどは、各短編の最後についている日付を見ながら読んでいると、何となく腑に落ちてくる。ただし、その意味や「偸盗」だけは表記が異なる点については、一言、説明なり注が欲しかった。15編ある芥川の王朝物語、初期の作品がこの一冊。のこりはもう一冊に纏められているという。
小説については、今更言うまでも無いような有名なものばかりだけれど、私個人は初めて読むもの、あるいは全く記憶に残っていなかった作品もある。ともかく「羅生門」の文に驚いた。どうも夢枕獏『陰陽師』の平易な文で、王朝ものを読むのが日常的になっているので、芥川の文章がこんなにも硬質だとは思わなかった。また、英語が混入しているのも、かなりショック。全体として、かなり新鮮な印象だ。
で、どうしても違和感が残るのが、芥川竜之介という人名表記。巻末の注で、「常用漢字を使用」と書かれているが、何でも常用にすればいいというものでもないだろう。旧漢字を新漢字には分る。しかし、人名についてのそれ、特に常用漢字への変更は、文化の破壊と同じ事ではないのか。
特に、この「竜」という字だがなんとかならないものだろうか。「龍」という漢字がごく日常的に使われている現在、その字面のイメージが、両者では余りに異なる。人名、地名などではその画数も選択の重要な要素であるはず。それを、当人の了解無しに変更するなど、あまりに酷い。村上竜に渋沢竜彦、いったいどこのドイツだと思わないのだろうか。
新版ということで、名前についていえば、過去の全集の広告もふくめ「竜之介」で統一されていることは、見事としか言いようが無いけれど、やはりおかしい。こういう例をみると、いっそ旧仮名遣い、旧漢字のほうが正しいのではと思う。法律の、読むものを愚弄するようなカタカナ表記と、常用漢字。出版界は言論の自由を守る、文化を守るという気概を持っていないのだろうか。
文庫本
2022/05/01 15:18
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投稿者:ないものねだり - この投稿者のレビュー一覧を見る
有名な岩波文庫。どこので読んでも芥川龍之介。紙の本でも電子書籍でも。今の時代になって、よりそれを教えられる。価値の変わらない部分が、作家の作品。
「鼻」はやっぱり面白い
2019/01/18 22:38
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
何十年ぶりに読み返した。「今昔物語」「宇治拾遺物語」などに素材を得たもので、芥川王朝物と呼ばれている。久しく会っていない中学時代の親友が昔、「芥川の『羅生門』を読むぞと意気込んで読んでみたけれど、大したことがなくて拍子抜けした」と言っていたことを久しぶりに思い出した。私も中学時代に同じような感想を持っていたかもしれないが、読み返してみると、やはり芥川は面白いということを再認識した。「羅生門」については、その友人も、ひょっとすると私も、もっと映像的なおどろおどろしい怪奇ものを期待していたのかもしれない。あのころは、「犬神家の一族」がヒットしていたころだから、それも仕方がないのかもしれない。