河崎秋子さんの『愚か者の石』とぜひセットで読むことをオススメします
2024/08/09 07:07
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
一冊の本を読む。
その内容に刺激されて、また別の本を読む。
そんな読書を、書評家の岡崎武志さんは「ふくらむ読書」と呼ぶ。
この吉村昭さんの『赤い人』は、まさに「ふくらむ読書」によって読むことになった一冊。
その元の本は、河崎秋子さんの長編小説『愚か者の石』で、
河崎さんの作品の参考文献の一冊にあげられていたのが、この『赤い人』だった。
小説の参考文献に小説が使われることに、少し驚き、『赤い人』を読んでみた。
『赤い人』は小説というよりも、記録文学というジャンルになるのでしょう、
その書かれている内容は多くの資料に基づいていて、
吉村昭さんの文学に対する姿勢を強く感じる作品になっている。
『愚か者の石』に描かれた北海道に創設された監獄の明治初期から大正にかけての有り様を
吉村さんが実に淡々と描いていくのだが、
囚人たちの手によって北海道が開拓されていく姿は、壮絶さゆえに胸に迫るものがある。
さらには、看守と囚人との敵意が凄まじいまでの殺戮を生んでいく姿も
吉村さんの筆は感情を押さえているがゆえに、
読書の醍醐味にまで持ち上がっている。
河崎さんの『愚か者の石』は小説として面白いが、
実は吉村昭さんの『赤い人』は事実がもつ揺るがない面白さといっていい。
なお、この『赤い人』は、1977年11月に刊行された作品である。
北海道開拓の犠牲になった囚人たち
2019/06/02 13:30
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投稿者:ニック - この投稿者のレビュー一覧を見る
囚人の労働力を北海道開拓に利用すべし、過酷な労働により死んだら死んだでそれもよし、とする明治新政府の方針のもと、厳寒の地で強制労働を強いられた囚人たちの壮絶な物語を描く。明治維新というものが徳川から薩長への政権交代に過ぎず、政治犯となった旧幕府側の人々が、近代国家と呼ぶには程遠い監獄制度の中で犠牲になっていったことを知る。北海道の成り立ちについての関心も深まった。
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投稿者:a - この投稿者のレビュー一覧を見る
囚人による北海道開拓史で、囚人とはいえ同じ日本人にここまで非人道的に強制労働させたとは。また、朝鮮半島から連れてこられた人たちには、どんな酷いことだったのか、しっかり覚えておかねばなりません。
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投稿者:蒙古卵麺 - この投稿者のレビュー一覧を見る
北海道の広大な原野はいつ誰がどのように開拓したのか、などとは何も考えずに北海道観光をしていた自分がなんだか恥ずかしくなってしまいました。集治監の設置と運営に尽力した月形潔の執念にも圧倒される思いでした。
淡々と描かれた重い歴史
2016/11/08 10:21
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投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
吉村昭らしい淡々とした筆致で描かれた重い歴史の物語である。
この作者は、感情を直接語ることなく、事実や状況を淡々としかし詳細に記述することにより、読者に訴えかけている。森鴎外の晩年の作品にも似た作風。小説としての面白さより埋もれた歴史の重さを感じた作品である。
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投稿者:七無齋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
主に明治政府に反抗した者を北海道の開拓に強制的に行わせた監獄での物語。ここにも闇の歴史が潜んでいた。歴史に埋もれた事実を解き明かす。
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囚人による北の大地の開拓。知識としては知っていたつもりだったけれど、あまりにも壮絶。網走あたりの話は聞いたことあるけれど、この本の舞台の月形なんて、札幌のすぐ近く。今の国道12号線のあたり、平坦に見えるけれど、百数十年前までは、人も入れないような地域だったのね。
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本書は、1977年に単行本として発刊されたものの新装作品です。いつもながらの膨大かつ緻密な資料渉猟を礎とした高密度の内容ですね。
タイトルの「赤い人」は囚人のこと。北海道の原野の開墾に徴集された囚人たちと看守との壮絶な軋轢・闘いを描いています。同様に囚人を対象にした吉村氏の作品としては「破獄」があります。「破獄」の方が物語性には富んでいますが、こちらは、より峻烈な事実を幾重にも積み上げた重厚な記述です。
国道12号線をはじめとする今の北海道の幹線道路の礎が数多くの囚人たちの峻烈な労役により築かれたという事実は、本書を読んで初めて知りました。
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・これまた吉村昭のノンフィクション・ノベル。北海道の開拓にここまで囚人が酷使されていた事に驚く。また壮絶の一言。完全に人権意識なんてものはなくて、 - もちろん明治期の日本に現代と比較するような意識が無いのは当然だけども - 囚人は使い捨てにしていい、と読み取れるほどの扱いでたったの百年前にここまで社会が成熟するってことにも驚いた。
・それとやたらに破獄囚が多いことにも驚く。完全武装の看守の前でも脱走する当時と、最低限の人数の看守の前で規律正しく凄く現代の囚人の違いがとても興味深い。それは法が社会に浸透したということなのか、前者は生きて帰れる見込みが無いため逃げたのか、それとも現代の囚人は必ずしも凶悪ではない(犯罪の大衆化のようなもの?)からなのか。
・高熱隧道とともに吉村昭自選集で読んだ。有馬四郎助が少し出てきたので山田風太郎の「地の果ての獄」にも樺戸集治監が出てきたことを思い出した。愛の典獄って触れ込みだったけど現実の有馬は囚人を日露戦争に出役させる提案をしたってことに仰天した。
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樺戸集置監の開設から閉鎖までのノンフィクションです。
樺戸集置監とは北海道の石狩川上流地域に設けられた現在の刑務所のような施設で,開設時(明治14年開設)の紆余曲折経て北海道の開拓を担い,時代の流れによってその役目を終えます。
囚人と看守の互いに敵意に満ちた関係は,開設から閉鎖までずっと続き,特に脱走囚があまりに多かったことに,そして,脱走囚はあっさり殺害されていたことにも驚きました。
その背景には,明治維新によってその立場を追われた武士が,一方は国事犯として,一方は看守として同一施設に混在していたからなのだろうと思いました。
最後は五寸釘の寅吉の最期で終わります。
僕の中で吉村昭ブームが起きそうな予感がします。
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樺戸監獄などを描いた作品 いつものように、主観を排した筆致なのに、引き込まれる
網走監獄を見学した際の思い出がよみがえった
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明治時代の北海道開拓のお話。
時代の変わり目で収監囚人数が増えたことと北海道開拓の必要から、刑が重い囚人が本州から移送され開拓に従事したそうです。(させられたそうです。)
当時、刑期は囚人にとっての懲戒の意味が強く、なおかつ国益に貢献すべしということで、未開の地の劣悪な環境下で農地開墾・道路建設・採鉱をして命を落とす人が多かったのですが、囚人数が多く収容施設が追いついていないので一石二鳥であると政府内でもされていたそうです。
監獄則を変え、その流れを止めたのが司法大臣清浦奎吾さん。
彼の功績は計り知れない…
そして時が経ち、北海道の開拓事業も落ち着き、明治の動乱が昔の話になった頃、北海道の監獄は過去の迷惑なものとして閉鎖された。
あの時代は何だったのかな?とすごく切ないです。
北海道に赴く時は、そんな気持ちを忘れないようにします。
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「札幌の歴史を知るために」みたいなポップが付いてたのでつい買ってしまった。ノンフィクションはあまり好きではなく、途中で読むのを断念してしまうことが多いのだが、これはすんなりと読めた。
かと言って内容が楽しいとかそういうことでは決して無く、むしろ冷え冷えとしている。北海道開拓の時代の話なので気候も冷え冷えだし、作業に駆り出される囚人(赤い服を着ている)=赤い人たちが本当にゴミのような扱いをされて次々と死んでいく。今では考えられないような人権のなさ、使い捨てられっぷり。
話の半分は囚人の苦しみを描いていた気がする。しかし、別に非人道的な行為を責めるための小説ではなく、淡々と事実を述べていくだけ。囚人はほとんどが重い罪を犯したために投獄されている。同情する余地はない。それでも、極寒の冬の中、靴も靴下も履けずに雪の中、開墾作業に勤しみ、凍傷で指や手足を失い…などを読んでいるとつい同情してしまう。
北海道にまだ県があったり、戦争が起きて看守が徴兵されて行ったりと、歴史も欠かせない要素なので、囚人の脱走事件などと上手くからめて説明されており、歴史苦手な自分でもそれなりに理解が出来る。
今我々が普通に使っている道は囚人たちの屍のもとに成り立っていると知ってしまうと、今後は札幌周辺の道を見る目も変わりそうだ。
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「赤い人」とは、明治時代の囚人の代名詞(目立つように赤い服を着させられていた)。
明治時代に北海道開拓のために重労働に就かされた囚人たちをモチーフにした歴史小説。
厳しい自然の中での重労働は開拓におけるただ同然の労働力でしかなく人権の概念はない。
吉村昭の真骨頂である目を背けたくなるような描写は心に強く迫る。
このテーマは歴史の秘部・裏側を描くものであるが、歴史を学ぶことは正しく知ることから始まるべきものであり、北海道の歴史を正しく知る意味でも一読の価値あり。
北海道という利権を巡る薩長のつばぜり合いも興味深い。
以下引用~
・(江戸時代の日本と違い)欧米では古くから囚人に労役を課すことが常識化していたが、それは囚人を獄舎にとじこめておくだけではなく国益に利する利用すべきという合理的な考え方にもとづいたものであった。金子は、欧米の刑罰制度を学ぶ、囚人の労役活用を基礎とした囚人対策に共鳴し、北海道開拓にその方法を採用すべきと判断したのである。
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2014.10.20 〜 27 読了
北海道開拓と切り離せない囚人の強制労働とその獄舎、集治監の盛衰物語。何といっても囚人の死亡数の多さと逃亡率の高さに驚かされる。全国の死刑囚、無期刑囚、重犯罪囚を全て北海道に集めて道路開鑿、農地開拓、炭鉱労働に当てるとは何と大胆な。北海道の主要道路開発はその囚人たちの凄まじい犠牲の上に成し遂げられたことがよくわかる。月形村の名称が最初の獄舎である樺戸集治監の初代典獄・月形 潔からとっていることを始めて知る。おぼろげに覚えていた五寸釘寅吉のエピソードも詳しく書かれている。