自分の居場所を作り上げた人たちのお話
2018/11/23 17:43
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:miyajima - この投稿者のレビュー一覧を見る
先日読んだ岸正彦の「質的社会調査の方法」で紹介されていた学者の代表的著作ということで読んでみました。
沖縄ではじめた科研費の研究をきっかけに知り合った女性のうち、キャバクラで働いていたり援助交際をしながら生活をしていた10代から20代の女性の生活史。
「裸足で逃げる」というタイトルですが、家族や恋人たちから暴力をうけて生き延びるためにその場所から逃げ出して、自分の居場所を作り上げていくお話ということに由来。
本書に登場するシングルマザー全員がパートナーであり子供の父親である男性との関係を解消した後、慰謝料も教育費も一銭ももらわず、単身で子どもを育てることを強いられていました。スーパーやコンビニよりも時給が高いキャバクラで働くことで生活費を得ていました。沖縄のキャバ嬢たちは「母」でもあったというわけです。
本書について著者は前書きで「調査の記録」とも「物語」ともしていますが、基本的に本書は「物語」だと思います。彼女たちの受けてきた暴力はすさまじいものですが、その通りだと思う一方で、登場人物たちの多くは「自分の居場所を作り上げ」た人たちばかりなので、基本的にハッピーエンディングだったりそれを示唆するものだからです。だから読後感は決して悪いものではありません。
その中で印象に残ったのは沖縄の非行少年の文化。先輩を絶対とみなす「しーじゃー・うっとう(先輩・後輩)」関係の文化。先輩から金品を奪われ暴行を受けても後輩は大人に訴えることはない。そして学年が代わり自分が先輩になると今度は後輩に同じことをする。そして学校の先生も面倒見がいい教師でも体罰をふるっている。つまり暴力が常態化する中で育つ子供たちは、成長すると暴力をふるうことが当然だと思うし、暴力を振るわれた方も愛されているから暴力を振るわれていると思い込もうとするから逃げるのが遅れる、というもの。
それともう一点。DV法は2004年から施行されてはいたものの、配偶者からの暴力に限られていたため、同棲に過ぎない場合には警察に訴えても門前払いをされていたという点。同棲の場合にも対象が広がったのは2014年から。暴力を振るわれて怪我をして乳飲み子を抱えて警察に逃げ込んでやっとシェルターを紹介されたという本書の事例を読むとそれも遅きに失したなという感想。
すべての大人に。
2017/12/13 00:20
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投稿者:haruka - この投稿者のレビュー一覧を見る
子どもをとりまく現状を本当に知っている人はわずか。大人になるチャンスを奪われた子どもが子どもを産み育てる。日本中で起こっていることだけれど、目を覆ってみないようにしている大人がたくさんいる。その一人が自分だと気づかされる一冊。著者の上間さんの活動に心から敬意を表したいと思います。
知っている人の横顔を見るような気持ちになった
2022/10/31 15:50
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投稿者:amisha - この投稿者のレビュー一覧を見る
読もうか読むまいか、散々迷った挙句手にとった。
大学教授という肩書きから、論文のようなものを想像していたのだったが、まったく違った。ドキュメンタリー、ノンフィクション、そしてウチナーグチの会話がふんだんに盛り込まれた物語だった。文章が公開されること、多くの人に伝えるためには、おそらく、この様式でないと難しかったのではないか。人生の過酷な局面を当の本人たちは隠したい、忘れたいとおもいつつも、誰かに語ることでしか癒えない部分がある。彼女たちの傷を晒すのではなく、社会課題として受け止め、どう乗り越えていくかを考えてもらうための一冊に仕上げた著者の力量に圧倒される。
格差社会・負のスパイラル
2019/04/24 16:01
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投稿者:ごり - この投稿者のレビュー一覧を見る
沖縄での少女たちが、出産、DV,シングルマザー、体調が悪くてもキャバクラ勤めなどで生活をしていかなければないらないなど、苦しい日常から抜け出したくても抜け出せない実情に胸が痛くなった。
今の若い女性の中には、華やかという理由から興味本位でキャバクラにお勤めされる方もいらっしゃるのかもしれませんが、一方では生活のために子供のために働かざる負えない少女たち、男性や大人に傷つけられ裏切られ居場所がなくなっても、心や身体が傷ついても、いつかは幸せな生活をしたいと頑張る少女たちもいる現実。
登場した少女たちが幸せな、今以上の幸せな生活ができることを祈るばかりです。
整理されない言葉=現実に寄り添う
2022/12/06 14:26
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
沖縄在住の社会学者の著書。暴力にさらされた若い女性たちの聞き取りをまとめたものだが、よくある学者の聞き取り調査や論文といったものとは一線を画している。
著者が学者という専門性を持つひとりの人間として、少女たちと共に生きた時間をそのまま記録したような一冊だ。
暴力にさらされた少女たちは考えや思いを、たぶん上手に言語化できない。それゆえに書かれていることは読みにくいのだが、その分、上手に言葉で飾ってごまかすことのできない現実が浮かび上がっている。
夜の街の衝撃的なリポート
2020/07/12 09:12
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
美しい海や島のイメージが強い沖縄の、負の一面を取材しています。暴力や搾取に虐げられた女性たちの、支援に乗り出した人たちに僅かな希望を感じました。
ジャッジしない著者、ジャッジしたくなる私
2019/09/12 18:09
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投稿者:Conviviality - この投稿者のレビュー一覧を見る
低評価レビューがあることに驚き、その文言に更に驚いた。
その方々が「無理」とか「共感できない」と呼んでいるのは、紛れもない現実で、その現実から目を逸らしたくなるのはわかるが、それをもって本書を低評価しているところにショックを受けた。
本書は「裸足で逃げる女の子たち」をジャッジしないばかりか、DV夫や彼氏さえ殆ど裁かない。しかし、前者を後者から護るための手助けは厭わない。
なんでこうなるんだろう、とか、こうすればいい、とか、随分安易な「アドバイス」したくなったとしたら、安全地帯にいる評論家に過ぎないことを自覚した方がいいかもしれない。私は、少なくともそう忠告されたような気さえしたのだ。
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ブログ更新:『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』上間陽子
「聞く」態度は、次にそれを「編集」する欲望を呼び起こすが、著者はその会話の核心部分をテープ起こしそのままで再現する。現代の沖縄の若者のスラングであったり、突飛な連想であったり、微妙な間であったりが再現されることで、地の文とは独立して「当事者性」が読む者の優位性から守られる。
http://earthcooler.ti-da.net/e9385202.html
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沖縄県の平均所得は47都道府県中最下位の210.2万円と、306.5万円の全国平均に対して大きく落ち込んでいる(内閣府・平成25年度県民経済計算)。失業率、DV発生率なども高く、離婚率も全国ワースト。統計が見せる沖縄の姿は、牧歌的な南の島のイメージから遠く隔たっている。
この島で育った教育学の研究者・上間陽子は、12年〜16年まで、風俗業界やキャバクラなどで働く女性たちの実態をリサーチするために、継続的なインタビューを敢行。4年間のリサーチの成果として『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版)を上梓した。本書に収録された様々な女性たちのインタビューを読めば、DV、虐待、援助交際など、この島が抱える現実が見えてくる。「私たちの街は、暴力を孕んでいる。そしてそれは、女の子たちにふりそそぐ」上間は、育った島の姿をこのように表現する。
では、その「暴力」とはいったいどのようなものだろうか? 本書の中から2つの例を見てみよう。
兄からいつもひどく殴られて育ってきた優歌(仮名)は、16歳で妊娠して結婚、17歳で男の子を出産した。しかし、子どもが生まれると、夫は優歌に対して暴力的になる。目の前でつくった食事を捨てられ、仕事着を洗うと舌打ちされ、洗い直しを命じられる日々。そんな生活に嫌気が差し、優歌は夫と離婚した。優歌がひとりで子どもを育てていたにも関わらず、ユタの「一族に問題が起こる」というお告げから、8ヶ月になる子どもは夫の家族に引き取られた。
実家に戻った彼女は、キャバクラの体験入店などを行いながら暮らしていく。しばらく経ち、5歳年上の男性が彼女の恋人になったが、彼はDVの常習犯だった。周囲の反対を押し切り付き合った優歌は、些細なことで怒鳴られ、殴られながらも男性との子どもを妊娠。しかし、恋人は働いていた店の金と模合(メンバーが一定のお金を出し合い、順番に給付し合う頼母子講のようなシステム)の金を持ち逃げして、街から消える。彼は、他の女も孕ませていたのだった。優歌は、キャバクラで働きながらひとりで子どもを産んだ。
街に戻ってきた男は、優歌の兄に謝罪し、5万円を詫びとして支払った。彼にとって、謝罪する相手は、孕ませた優歌ではなく、先輩である優歌の兄の方だった。優歌は今も、ひとりで子どもを育てている。
優歌よりもさらに悪質な暴力にさらされているのが、翼(仮名)だ。
彼女が幼いころに両親は離婚。母親に引き取られた翼は、スナックのママを務める母から、ネグレクト(育児放棄)されて育った。ご飯も作ってもらったことのない彼女にとって、「母親の味」の記憶はない。
高校に進学しなかった彼女は、友達の誘いでキャバクラ嬢になる。16歳になった頃、7歳年上のボーイと付き合うようになり、2ヶ月で妊娠。不安はあったものの、彼女は結婚し、出産することを決意する。しかし、結婚すると夫はその態度を一変させる。生活費を家に入れず、翼が不満を言えば、暴力をふるい、馬乗りで殴る蹴るの暴行を加えた。その暴力は、鼻が折れて、眼が開かなくなるという壮絶なものだった。出産後、翼はすぐにキャバクラに戻ったものの、夫からの暴力で顔に傷ができると、仕事��休まなくてはならない。そんな翼を見て、男は「お前が悪い」と自分の行為を棚に上げて罵った。
親からの虐待、夫からの家庭内暴力のほか、レイプ、援助交際など、少女たちが直面する暴力の数々は想像をはるかに超えるものばかりだ。彼女たちのインタビューをした経験を、上間は「予想していたよりもはるかにしんどい、幾重にもわたる困難の記録」だったと振り返っている。唯一の救いは、本書に登場する少女たちがみな、自分の子どもたちを愛していることだろう。せめて彼女たちの子どもは、そんな暴力とは無関係に育つことを願ってやまない。そのためには、多くの人々がこの暴力の実態に目を向けることが不可欠だ。
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沖縄。女性。DV。沖縄の女性たちについて。提言するわけでなく非難するわけでなく、ただ、どういう状況なのか伝えてくれる。読みながら、女性に暴力をふるってしまう男性側に寄り添った人が書いた本ってないかな、読んでみたいなと思った。
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丹念な取材に頭が下がります、オキナワだけの問題ではないのかもしれませんね、確かにオキナワはシングルマザーが多いと言われていますが… しかもDVも多いと… いわゆる「内地」では覆い隠されているものが、オキナワでは表に出ているのかもしれません。 オキナワでは いわゆる「カルト」団体、怪しげな宗教団体が跳梁跋扈しているのが見えてくるのも オキナワならではのことかもしれません
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少し基礎統計を調べればわかるが、沖縄は所得格差が極めて大きい。その背景にはシングルマザー比率の高さがあり、実際に離婚率も顕著に高いのであるが、本書では沖縄の若年女性が「裸足で逃げ」ざるを得ないような状況になぜ追い込まれるのかを、女性たちへの丹念なインタビューで明らかにする。
著者は、女性たちの声に丹念に耳を傾け続ける。おそらく、彼女たちにとって、そうして自身の話を聞いてくれる人はこれまで非常に少なかったのではないだろうか。それゆえ、著者と女性たちの間には次第に親密さが構築され、徐々にそこから聞きだされる話も生々しいものとなっていく。なおかつ、本書の凄さは、著者が女性たちの話を聞きながら、そこに一切の「解釈」や「指導」のようなニュアンスを含めることなく、ひたすらに話を聞き続けて寄り添い、自然な形で手助けをするその姿勢にある。これには教育学の研究者、ソーシャルカウンセラーとして活動する著者の高い職業的プロフェッショナリズムを感じざるを得ない。
自身も含めて、これを読んだ多くの人は沖縄の貧困の問題の一端がこのような形で顕在化している点に驚かされるはずである。そして、その歴史的経緯からリベラルなはずの沖縄で、一方ではこうした女性問題に目を背けてきて沖縄県政の怠慢にも疑念を感じることだろう。
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2007年に全国の小学校中学校ではじまった全国学力・学習状況調査において、沖縄県は最下位になり、それからはその対策と称して、家庭で「早寝早起き朝ごはん」をさせようという運動が起こった。
その運動は、学テの出来不出来が早寝早起きという習慣や朝ごはんの摂取と関係しているとみなして、点数を上げるために、子どもを早寝早起きさせて、朝ごはんを食べさせることを親へ要求するものとなった。そのとき、試験の点数と生活習慣が関連しているという単なる相関を示すデータが、早ねと早起きをさせて、朝ごはんを食べさせれば成績があがるという、原因と結果を示す因果関係のように間違えて解釈され宣伝された。また、よく指摘されている「早寝早起き朝ごはん」は、単なる経済格差・貧困の疑似相関ではないかとという検証も、沖縄では十分に行われることはなかった。(p69)
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小説じゃなくて現実ということに、嫌な気分になりました。インタビューを受ける側にも最大限に配慮した姿勢は、メディアスクラムのマスコミとは一線を画します。それだけに、全体的(構成・時系列・音声の文書化)に、もう少し読みやすくならなかったものかと。危険とは言え、なんとか暴力を奮った側の声も載せて欲しかったのです。
あとがきによると、沖縄固有の問題との印象を受けたのですが、ならば、その根拠にも言及して欲しかったのです。
P47 生活保護の申請:支援団体に頼るとか、もうちょっとやりようがあったのでは。行政も、医療でいうと「総合診療」みたいなのを作って、こまったらまずココへな部署があるといいのですが。P101の警察の保護拒否といい、弱者には冷たいのが日本の実体です。
キャバクラやキャバ嬢に変な偏見が起きないことを望みます。
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感傷的な書き口と説明不足がところどころ気になるものの、著者の訴えかけたい沖縄の実情が胸に残る。ひと昔前ならまだしも、自分より10歳も下の女の子たちの話なんだよなぁ。上さんは、そんなん沖縄ではいまさらの話さーって言ってたけど