考えさせられました
2020/05/29 18:10
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投稿者:広島の中日ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
20世紀初頭、アメリカで蔓延した感染症、腸チフスにかかった家政婦、メアリーさんの数奇な人生を取り上げた本です。
メアリーさんは離島に長期間隔離され、自由を取り戻すことなく死去。死後も「チフスのメアリー」と揶揄されるなど、さながら悪魔扱いされてきた事が如実に記されています。著者は世の中がメアリーさんをここまで悪者扱いするのはいかがなものか?と読者に問いかけています。今、新型コロナウイルス感染症が話題ですが、メアリーさんの数奇な人生は「明日は我が身では?」と思うと背筋が凍りつきました。本当に考えさせられる内容でした。
紙幅が140ページと、新書としてはかなり薄いです。文章の行間隔も広くとってあり、気軽に読めるように仕上がっています。若い人たちにも読んでほしい1冊です。
大衆迎合的なジャーナリズムによって産み出された「チフスのメアリー」という言葉が彼女自身から切り離されて独り歩きする恐ろしさ。私たちは自分の感覚的な物の見方だけで人を評価して良いのか。
2020/08/06 15:58
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投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は科学史・科学思想史の日本人研究者。「チフスのメアリー」と呼ばれていた女性、100年前のアメリカで、腸チフスのキャリア(腸チフスに感染していながら本人には自覚がない)として初めて特定され、37歳以降ほぼ生涯隔離されてしまった女性である。この本を読んで驚いた。当時、この「メアリー」以外にも数多くのチフスのキャリアが存在していたにもかかわらず、彼女だけが生涯にわたり公衆衛生局によって自由を奪われ、隔離されたのだ。それはなぜだったのか。著者は丁寧に、「メアリー」の背後にある社会的事象、感染症に対する人間の恐怖心がどんなふうに社会に生じるかについて紐解いていく。個人の自由と社会の多数を守るための犠牲について、「メアリー」の物語はたくさんのことに気づかせてくれる。
レッテルを貼っておしまいか?
2020/05/08 21:28
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投稿者:名取の姫小松 - この投稿者のレビュー一覧を見る
アメリカ合衆国に実在した女性メアリー・マローンを紹介しながら、当時偏見の目で見られ勝ちな立場であったこと、ほかにもチフスのキャリアの男性がいたにもかかわらず、メアリーほど厳しく扱われなかったことが語られている。
十代向けとはいえ現在の状況からいって、大人も読んで一考すべきだ。
繰り返される過ち
2020/07/08 09:25
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
19世紀末に失意のうちに亡くなったひとりの女性が、21世紀に甦ってきたかのようです。感染者への偏見や差別を、如何にして防ぐのか考えさせられます。
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投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
腸チフスのキャリア、無症状の保菌者、という理由で、37歳からの人生がこれでは……。理不尽すぎます。しかし、現代とて、いろんな病気の偏見はあるわけで……。そう思うと……。
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今から100年ほど前のアメリカで、腸チフスの健康保菌者(キャリア)という理由で30年近くもの間、隔離生活を強いられた女性がいた。市民への感染を防ぐために保菌者を隔離するということは、一見ごくまっとうな政策に思えるけれど、私がここから連想したのは、日本で行われていたハンセン病患者の隔離と、やはり日本の薬害エイズ訴訟で顔も名前も伏せていた(公表できなかった)エイズキャリアの人たち。悪いのは病魔であって、その「人」ではないはずなのに、その人の自由が奪われ、人生が狂わされていく社会って…。あまりにも難しい問題ですが、やさしく静かに問いかけてくれる一冊でした。
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チフスのキャリアであったことから自由を奪われる生活を余儀なくされた「チフスのメアリー」ことメアリー・マローンという一人のアメリカ人女性の生涯をたどり、科学と社会の間で引き起こされる問題に読者の思索を導こうとしている本です。
おそらく著者がめざしているのは、ソンタグのエイズ論などと同じく、「病」という表象が私たちの社会においてどのように機能するのか、という問題を若い読者に考えさせることだったのではないかと想像するのですが、本書を読んだ限りでは、読者は個人の自由と社会全体の安全との相克いう制度的なレヴェルの問題で理解してしまうのではないかという印象を拭えません。
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公衆衛生関係ではよく出てくる、症状はないが病気にかかっており菌を持っている、「健康保菌者」の料理人であったために雇い主やその家族を次々にチフスに感染させていった、「チフスのメアリー」についての本。
チフスという病気についての説明や、彼女がいた当時の時代背景の説明などに多少の専門用語が使われているが、この本のメインはメアリーの人生であり、全体的に読みやすく平易な言葉遣いだと思う。
「迷惑なキャリア」「無知なキャリア」の代名詞ともなっている「チフスのメアリー」がどう生き、どう死んだのかを(多少は著者の解釈も混じっているが)「一人の女性」として書いている。どんな人にも一人ひとりの人生があり、ニュースで「連続殺人犯」と紹介された人物をそのまま冷酷な殺人鬼だと思って誹謗中傷を投げかけて良いのだろうか、という疑問も抱かせる。
「放っておくと多数の人間を感染させ、病気にする人間」の自由を、「多数の人間の健康」のために拘束するのは正しいのか。私は仕事上、正しいと思う。
しかし、どの程度拘束するのか。拘束される彼、彼女たちはそれぞれ別々の人生を歩み別々の考えを持つ一人の人間であるのに、一律に取り扱っていいものか。
そういったことを考えさせる。
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2006年にひっそり初版がでていた作品がコロナ禍のいま読むべき本として緊急復刊。健康保菌者(無症候性キャリア)という存在が発見された百年前、公衆衛生学的に注目の的となって過酷な生涯を送ったあるアメリカ女性の実話を通して、個人の自由や尊厳と伝染病と闘う社会の福祉とのせめぎあいを考える。この本では一人の普通の女性が曲折を経て「病魔」「毒婦」というわかりやすい象徴となってしまった経緯を多方面から丁寧に検討しているが、医療/研究の進歩もさることながら、本人のもともとの属性や巡り合わせ、そして新聞のようなメディアがどうとらえ扱うかが、ひとの人生や社会における立ち位置に少なからず影響してしまうのだということを改めて理解でき、そうしたことを意識して自分の周囲やニュースに接することを促してくれる。
腸チフス菌のような感染症への恐怖心(最終章ではエイズの例も)を抱えて生きざるをえない生き物としての本能と共同体がそれをどう受け止め制御していくかという一事例だったけれど、感染症に限ったことではないあらゆる「個人の想像の範囲から外れうる」多様な事情を抱えた人々とどうつきあっておりあっていくかというテーマだと思った。
それにしても、14年前にこの本が出た頃は、なにをきっかけにこのテーマで出版することになったのだろう? 当時は余りそういうことに気が付かなかったけれど、狂牛病や鳥インフルエンザあたりをめぐって多少そういう懸念が生じていたのだろうか。
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住み込み家政婦として働くメアリーは料理が上手く信頼される女性だった。ところが彼女が住み込み先を変えるたびにその家からチフス感染者が出て・・・。19世紀の後半に生きた「チフスのメアリー」と呼ばれる女性の物語が、コロナの時代を生きる私たちにたくさんのことを問いかけてきます。今読んでおきたい一冊。
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「チフスのメアリー」症例がステレオタイプ化されてゆく過程をていねいに追ったモノグラフ。今回のコロナウイルス禍をうけて再版されたようだが、たしかに、いま読む意義は大きい。内容はポイントを押さえ、深いが、プリマ—新書のフォームで平易かつ簡潔、コンパクトにまとめられている。
二〇世紀初頭、アメリカ。移民のお手伝い女性メアリーが、チフスキャリアである可能性が判明し、自由を制限されて隔離される。当時の公衆衛生的状況もあいまって、キャリアであることがスティグマ化され、患者がひとりの個人であるという事実が消えてゆく。
これをみてなんとなく思い出すのは、最近のラノベなどで見かける著名作家などを用いた歴史改変的なフィクションのアイデアである。ラノベに限らず、政治家などを戯画化・物語化する演出も同じだろう。実在の人物をキャラクター化して面白がる、エンタテインメントとして消費するというメカニズム。
実在の人物が存在しているということが分かっていればよいが、通常、大衆はメディア上に現れたイメージをホンモノだと思い、好き勝手に消費してゆく。現実のその人物の生き方と、メディア上のイメージの乖離がおそらくは本書の一つのテーマになっている。
物語化・ステレオタイプ化の誘惑は大きいし、特に大衆・マスメディア社会にとっては強力なルアー(疑似餌)であることが再認識される。
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チフスのメアリーは無自覚の感染者。今回の新型コロナウイルスのことをあてはめて読んでしまう。この本では無自覚の感染者が決して悪ではないって言っている。ゼロ号患者についても色々かんがえさせられた。個人の自由をしばって隔離するなら補償が必要だってことも納得する。メアリーは普通の女の人だったと思うから。
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「チフスのメアリー」が気になって読みました。
1人の女性がある日、腸チフスのキャリアの可能性を告げられる。
自覚症状はないので、女性は戸惑い、混乱する。
検査への協力を拒否したことで、捕らえられ、長い時間を監禁された環境の中で暮らすことになり、そこで人生を終えることになる。
公衆衛生の観点と、個人の自由という観点と。
腸チフスのキャリアは彼女1人ではなかったのに、なぜ彼女だけが長期間監禁されることになったのか。
そこにある社会的な背景。当時の、世間の眼差し。
新型コロナの感染予防対策が求められる今、1人の人を「人」としてみることの大切さを改めて考えさせられました。
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非常に読みやすい一冊だった。
無症状ながら、腸チフスのキャリアとして恐れられたメアリー。彼女を生涯のほとんどにわたり隔離したことは正しかったのか、を問いかけるノンフィクション。
研究が進むより少しだけ早く、かつ有名になってしまったために、これほど隔離されてしまったメアリー。もう不運としかいいようが…。それで済ませてはいけないんだけど。でも調理にかかわる仕事についてはいけないと言われたのに、それ破っちゃダメだよ。
いまの日本で広まってほしい一冊。
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20世紀初頭でも、もし無症状の保菌者に感染リスクの多い仕事につかないように強制するならそれなりの補償をすべきだ、といった論調もあったことや、メアリーの隔離に対し人権の立場から抗議の声をあげる弁護士がいたことに少なからず驚いた。翻って今のコロナの現状を見てみると、この100年人の意識はあまり変わっていないのではないかという気がする。国の対策も過去から何も学んでいないのではないか。今この本が再販された意味は大きい。