紙の本
混沌と平穏の間
2004/05/19 23:22
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
女性に人気のあるエッセイストというだけでほんとはなんかイヤなのだけど、長編「アド・バード」や本書、やや最近に出た「みるなの木」といった一連の作品群は面白いので仕方ない。
本書連作短編集などの共通の舞台になっている世界は、何か大きな戦争の起きた後ということらしい。いつ頃のどんな戦争なのかは明らかでない。ただ世界を破壊し尽くす大きな戦争で、文明は廃虚を残して失われ、そしてどうやらバイオテクノロジーの暴走が起きたらしい。その結果、海は汚泥となり、動物や植物はみな奇怪な形態となり人々を脅かすようになっている。
生物達の変形は、「アフターマン」のように進化の過程の説明もなく、まったく唐突に放り出されるので、環境に応じた淘汰の成りゆきか、本当に遺伝子の異常なのか分からないままでストーリーは進み、ますます異世界感は増大する。
生物達の異形とともに特徴的なのは、それらのネーミングや言葉遣いのセンスの、なんちうの、キッチュな感じっていうのか、が醸し出すものが、実にイイ!のだ。例えば、油脂水母(あぶらくらげ)、ヒラヌルトゲトゲ藻、三足踊豆、地名が阿古張湾、総崩川、灰坊市、といった具合。人名は百舌、灰汁(あく)、捨三など。可児なんて名前が出てくるのは、舞台が名古屋近辺なのか、湾の多い地形だし。
このいっさいが崩壊したような世界でも、法治局や北政府なんてのも登場して、また町があり商店があり、なんらかの秩序をここの人々は指向しているようでもある。旧世界のテクノロジーの残滓もかろうじて使いこなせる人がいる。それでいて盗賊ありゲリラあり戦闘ありで人もぼろぼろ死ぬ。登場人物達はそれを悲観するでもなく、ただ黙々と生きているようだ(人によっては饒舌ではある)。ただその黙々さ,死も餓えも油まみれの体も粛々と受け入れて生活する姿に平穏を感じてしまうのだ。
各作品はそれぞればらばらのようでいて、話を重ねてくると、意外なつながりが現われてきたりして、読む方は、ああこれはあの時の、という具合にニヤリとしてしまう趣向も楽しい。それは荒廃した世界の中であるからこそ、懐かしい人に会った時の安堵感も強く働いているのだろう。
紙の本
『BLAME!』のファンは要チェック
2002/05/30 04:04
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投稿者:トリフィド - この投稿者のレビュー一覧を見る
椎名誠氏の本はまったく読んだことがなかったのだが、『BLAME!』
がこの作品の影響を受けているとのことで興味をもって読んでみた。
こんなおかしな世界を今まで逃していたとはと歯軋りすることしき
りである。
文明が崩壊した未来世界。油泥に覆われた海。酸性雨が降りしきり、
重装甲の巨大なトラックがつっ走る。欧米のSFでも良く見る光景だ。
しかし出てくる名前が詰腹岬(つめはらみさき)に蟹割街道(かにわ
りかいどう)、定吉に捨三に漬汁屋と来た。なんとも脱力させてく
れる、親しみのある泥くさい世界である。
ハードSFなコミック『BLAME!』を好きな人は、影響を与えた作品と
してチェックしておきましょう。
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椎名誠のSF小説の中で一番好き。
大きな戦争後の世界、無政府状態で治安が悪化する世界。
島田倉庫には変わった品物(時には人)も運ばれてくる。
椎名誠独特の言葉が現実に似て非なる世界観を彩る。
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2007.11.07 何もないところからこんな世界を創るなんて、本当に椎名誠はすごいと思う。登場人物も魅力的。個人的には漬汁屋が気になる。
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エッセイのイメージが強い椎名誠のSFをはじめて読んだ。
これは独特の世界観がたまらないですね。聴いた事の無い単語(造語)が山ほど出てくるのだが、不思議と脳内映像が感化されるネーミングで、登場人物が生き生きと動く。
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椎名誠の超常SF小説(シーナワールド)。「戦後」の荒廃した異様な世界が舞台となっている。現在の生活に対して異様なSF世界を対置的に描くことで、現在の生活が見えてくることもある。圧倒的なシーナワールドがあった。次は大作『アドバード』を読むことにする。
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椎名誠 SF 三部作の一つ。アド・バードに衝撃を受けたので、読んでみた。
アドバード同様、舞台は近未来のシーナ・ワールドを舞台にした連作短編集。北政府の侵略におびえつつ、油泥に覆われた海とともに生きる人々の生活を描く。微妙な継がりを保ちつつも、それぞれに独立したストーリーは、わずか 7編ながら、その背景にあるシーナ・ワールドの無限の拡がりを想像させる。しばし、シーナ・ワールドでの暮らしを堪能。
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我が家の本の中で唯一の作者サイン本。
某大学の講演会にて。
その日たまたまバッグに入っていた、
ボロボロでカバーすらない「武装島田倉庫」を持ってサインの順番を待つ夫。
明らかに幾度も幾度も読み古されたそれを見て、
黙って他の方のピカピカの新刊本にサインを続けていた、椎名先生が声をかけてくれました。
とても思い出深い出来事です。
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名作「アドバード」それに「水域」とおそらく同時期の世界(北政府との最終戦争が終わった後の荒廃した世界)を継承するいわゆるシーナワールドSF三部作のひとつ。
その中でも私が最も気に入っているのが、コレ。
シーナマコト氏が紡ぎだす摩訶不思議な言霊に思いっきり酔いしれることができる人ならお薦め(そういう人は既に読んでいるだろうけど)
ただし一見さんお断り。
好き嫌いがハッキリと分かれます。
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椎名誠SF三大作の一つ、と。
おもしろいんだよ。何が、って言われると困る。
油を降らせる、なんてゾッとする発想。
やっぱりすごい世界観。
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「武装島田倉庫」椎名誠
SF。いわゆるシーナワールドってやつです。油泥色(?)。
SF3部作の3作目。
本作は7編からなる短編集です。全て共通する世界観のもと、闘う男たちの物語。個人的にはこれが全てのシーナワールドの根本にある作品かなあという印象です。
舞台は近未来、戦後の荒廃した地球。異常進化した生物達や、古今東西入り混じった武力が支配する世界。もうこの設定だけでファンにはたまらないと思うんです。
「武装島田倉庫」が他の2作と比べて特筆すべきところは、もちろん短編集という形態に因るものなのですが、起承転結がはっきりしていて物語世界の場面転換のテンポがよいところ。また、その作品群が互いに巧妙に絡み合っているところも何度も読み返して楽しめる点です。
もちろんどの短編も互いに独立しているので(最初と最後だけはつながっているので別)、気が向いたときに少しだけつまみ読みするのにもってこいです。実際自分はちょっと目がさみしくなったときに手が伸びる作品の筆頭です笑
そういえばもう慣れっこになってしまったので考えたこともなかったのですが、椎名さんのSFは、全く導入がないんですね。読者は突然この異常な世界に放り込まれて、全身に力いれながら生きぬかきゃいけない(ちょっと大げさかな?)。それでもいつのまにかのめりこまされている状況と情況にはまったら、もうシーナさんの虜です。
是非!是非身近にもっと椎名党を増やしたいなと思う今日この頃。
もちろんためらうことなく星5つです。
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読んだのは、ずっと昔。椎名さんのSF3作の一つ。どうしても評価したく、あえて登録しました。読んでは売ってる椎名さんの本の中で、大切に残している一冊です。
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文明崩壊後の世界で力強く生きる人々を描く短編集。椎名誠さんの書いた小説の中では一番面白いと思う。
ウゾウゾと動く虫や、名状し難い生物や、大戦争後の混沌とした世情や、極限まで汚染された海などが、鮮烈なイメージとして重量級の重りとなり、バーン!と読み手に叩きつけるような世界観がある。「名前でイメージさせる世界観」という手法を私はこの小説から学びました。
読んだことのない世界を読みたい人にオススメ。
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初めてSFに触れた本。
最近漫画化しましたね、面白いわよ。
多分、荒廃しまくった未来の日本だと思う場所のお話。
どっちかっていうと北斗の拳みたいな世紀末。
物資が少ない世界だから、倉庫も武装しなきゃいけません。
ああ、後鉄とコンクリートの上で寝ると死ねるわよ。
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あぁ、ああの世界だ。シーナワールドだ。面白かったーーーー!始終きたない油でドロドロってどんな気持ちなんだろうか。北政府の世界は、こんなに化学兵器の影響を受けていないんだろうか。想像が膨らむ。ネーミングも個性的で良かった。