- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
紙の本
猛スピードで母は
2005/11/18 11:52
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ろびん - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本はタイトルに惹かれて、手に取った。
「サイドカーに犬」「猛スピードで母は」の二作。
どちらも子ども目線で語られていて、あの頃のもやもやした感情を少し思い出した。大人が気づかない不安感や、ある種のあきらめや、逃げ場がないような閉塞感や。
子どもだった頃は、そんな気持ちを言い表す事なんてできなかったわけだけど、もしタイムマシンで昔の私に会いに行ったら、この小説と同じようなことを喋るかもしれない。
子どもって、今思えば、とても小さい世界で生きてる。自分の周りのごくごく限られた場所と、限られた人たちの価値観の中で生きてる。疑問も持たずに。
「子どもの可能性は無限大」なんてのは、大人になってから思う話で、子どもの頃はそんな欲もなかったように思うな。
と、主人公的子どもに感情移入しながら読んでいたのだけど、大人になった、しかも女の私は、「母」や「洋子さん」の気持ちもわかってしまうんだ。
なんとなくせつないけど、親子だって、それぞれ別の人生を歩んでいるわけだからね。ほんのひととき共有できる時間は、お互いに気持ちよく過ごせたらいいな。
表紙のイラストも魅力的だったけど、小説の中の「母」とは、イメージが違った、私は。
紙の本
家族との距離感
2010/03/04 11:54
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:坂田チップス - この投稿者のレビュー一覧を見る
同じ方へ併走しながら、ちゃんと一定の距離がある。この小説には、家族の距離感が描かれている。ちょうど、サイドカーに乗せられている者と運転者との関係で。
『サイドカーと犬』
母の家出をきっかけに、知らない女・洋子さんがやってくる。主人公は彼女の傍らでひと夏を過ごす。
人も自分も傷つけるような恋には覚悟がいる。洋子さんがかっこよくて潔いのは、その覚悟の上に立つ強さをもっているからかもしれない。
『猛スピードで母は』
父親がおらず、母は女手一つで少年を育てている。恋人らしき男性が現れたり別れたり、あっさりした男前な母親との日々を、少年の視点で淡々と描いている。
ガソリンスタンド、保母、借金取り、など母は不可解な仕事を選ぶ。不器用な生き方を選んでいたとしても、少年は並び立って見守るしかない。母もまた、少年がいじめに遭ったことを知っても、並び立って見守るだけだ。そこにべたべたした馴れ合いはない。年齢の大きい小さいは関係なく、個と個が互いに独立し、自分の責任で生きている。
いいことばかりではない、胸のうちにタバコの煙がくぐもっているようなほろ苦さもある、でも、憧れのフォルクスワーゲンに出会っただけで幸せにだってなれてしまう。
ハードボイルドだ・・・と思わずつぶやきたくなった小説。
紙の本
大人に成りきれない大人が
2020/10/13 00:01
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
人生を達観した子どもの目線から映し出されていく2編です。過去へとドライブしていくような、郷愁の味わいがありました。
紙の本
そろそろ、な気がする。
2005/02/24 23:25
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ざれこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
芥川賞受賞の表題作「猛スピードで母は」と「サイドカーに犬」収録。
芥川賞選考会で某選考委員がこのタイトルに難色を示していたらしいが、
私にはどちらも恐ろしくセンスのいいタイトルに思える。
すごく読みたくなる気がしません? 私だけ?
2編とも子どもの視点で描かれてます。
「サイドカーに犬」は、小学生の姉と弟がいる家族、
母がある日大喧嘩して出て行き、すぐに洋子さんという謎の女性が
晩御飯を作りにくるようになります。カッコいい自転車を颯爽と乗り回す洋子さんに
姉は次第に懐いていきますが。洋子さんは父の愛人でした。
そんなことを、大人になった兄弟が思い出話として語る、そんな話。
「猛スピードで母は」は、離婚して一人で慎を育てる母を、慎の視点で書いたもの。
母がつれてきた新しい恋人は、今度は慎も懐けたのだが、しかし彼はある日を境にこなくなり…
母は車をぶっ飛ばして、督促の仕事をして、かっこよく生き、息子に弱みを見せない。
そんな二人の日常を描いたもの。
なんていうんだろ、子どもがいても男と女なんだな、って当たり前のことに気づきます。
大人は大人でじたばたしていて、懸命に生きてる、その不器用さが、子どもの視点で描くことで違ったものに見えてくるというか、そんな感覚の小説。
子どもと大人の距離感も素敵です。
小学生に「私たち友達よね」と言う洋子さん、保母さんになってすぐ辞めて、子どもに「あんたみたいな子ばっかりで楽しいかと思ったのに」と愚痴る母。彼らの関係はなんだか対等で、こんな風に子どもと過ごせたら楽しいんだろうな、なんて思ってしまいます。そして、子どもはそんな対等なつきあいを楽しく思いつつも、自らは体験していない大人の世界のいろいろを感じて哀しくなったりしている。
淡々とした日々をそういう関係で繰り返す、とても温かい2編です。
そして、描かれている女性達が不器用なりにかっこよく生きていて、
なんだかとても素敵でした。
「サイドカーに犬」の最後、結婚はそろそろ?と聞かれたときの、
「何か、他のことがそろそろなんじゃないか」って独白、気に入りました。
彼女は洋子さんの面影を思い出し、自分は洋子さんみたいに懸命に生きたころがあったろうか、なんて考えますが、それはそのまま私の感想でもありました。
私にも、何かが「そろそろ」であってくれたらなあ。
紙の本
猛スピードで母は
2002/07/26 14:26
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:らふ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「サイドカーに犬」と「猛スピードに母は」の2編の小説で構成されている。
「サイドカーに犬」は「小4の夏休みは母の家出」という事件で物語の「幕」
が切って落とされた。
そして7月の終わりに突然「ようこ」さんが家に現れてから物語は急展開して
いく。
おもしろいと思ったのは、母が「禁止」していたことが「ようこ」さんが
来てから「いくつものタブーをやぶること」になったのであるが、それを
薫がすんなりと受け入れたところがシンプルに描かれていることだ。
薫の「母」と「ようこ」さんに対する思いが交互に描かれていて興味深い。
また「離婚」という言葉が出てくると暗いイメージがあるにもかかわらず
なぜかそういう雰囲気がない。不思議な気分だ。
「猛スピードで母は」は「私、結婚するかもしれないから」といい、
猛スピードで軽自動車を抜き去ったり、10台のワーゲンをすべて先導
するなど男勝りな母の姿がコミカルに描かれていてよかった。
いずれの作品も文章はシンプルだが、なつかしい言葉がてできて楽しめた。
紙の本
かっこいい「母」
2002/07/17 03:04
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:えんじゅ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「サイドカーに犬」「猛スピードで母は」の2編。
ダメダメ男に惚れて、逃げた奥さんの後にやってきた「洋子さん」。
離婚し、実家に頼らず、息子を一人で育てる「母」。
どっちも女性が、かっこいい。特に「猛スピードで母は」。こんな母になりたい!と思った「母」はきっと多いだろう。離婚後も、なかなか気に入る仕事がなかったり、結婚したいと思う男性にはふられたりと、もう少し楽な生き方も出来るだろうに、それを良しとしない生き方を選んでしまう一人の女性。それが、息子視点の、近すぎず、離れすぎないスタンスで語られる。
自分の人生だから、妥協も譲歩もしたくない。結婚して「いい妻」になることを求められたり、子育てして「いい母親」であることを求められたり、普通に生きていくためにどうしても押し付けられる価値観と結局相容れられなかった自分。そんな女性が、一人で背筋を伸ばして立っているそんな感じに、読んでいて憧れた。
息子と母が、長い旅を一緒にしている仲間みたいな感覚で、互いに甘えない関係なのもいい。
ラスト、「幸運の印」のワーゲンを見送った後で、くわえタバコで、アクセル全開にして、強引にそれを抜き去ってしまう「母」は、やっぱりかっこいい。
紙の本
浅野温子さんへ
2002/05/08 23:46
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
もし僕が映画とかTVのディレクターだったなら、知人のコネを使いまくって、著者の長嶋さんに連絡をとるだろう。そして、映像化の話をする。「作品、読ませていただきました」「いい作品でした。感動しました」「勿論、主演のお母さんの配役も考えています。スノウタイヤを交換したり、男に振られたり、公団住宅のはしごも昇ったり、ええそりゃあもう、男まさりといいますか、それでいて哀愁があって…」「誰…?と、聞かれても、これは企業秘密でして」「ええい、先生だからいいますと、浅野温子しかいません。彼女で決まりです」そこまで話し終えたら、目が覚めた。読んだ人、それぞれがくっきりと映像にできるなんて、近頃珍しい作品かもしれない。そう思いません、浅野温子さんも。
紙の本
あっさりこってり
2002/02/17 00:36
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みっち - この投稿者のレビュー一覧を見る
この作品は、母子家庭で一人っ子の少年の話です。
さすが芥川賞という感じでしょうか、話の途中にユーモアを折りまぜ、最後まで飽きさせないものでした。
猛然と生きる母親と繊細かつ冷静な目をもつ少年の様子が描かれており、こころが温まりました。しかし、べたべたとしたものではなくほどよい距離感のあるこの親子関係には、とても好感が沸きました。現代の核家族のありかたを考えさせられる作品です。
紙の本
王道にふさわしい
2021/12/04 23:07
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:せきた - この投稿者のレビュー一覧を見る
あまり起承転回の起伏がなく淡々と続くが、ささいな、ちっぽけな日常の語りを綴るのがまさに王道小説かもしれない、とも感じる。
不思議と懐かしさを覚える描写が多く出てきて、アルアルと思えるような言語化が読者を嬉しくさせる魅力があると思える。
いそうでいない文体、手法で面白い作家さんです。
紙の本
思い入れのあった出来事やモノが大事にされている
2003/03/03 00:32
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hybird - この投稿者のレビュー一覧を見る
表題作を含め短編2編を収録。
この著者は思い入れのあった出来事やモノを大事にしている——というのが読後の感想。そんなモノが作品全体に鏤められている。2編とも、子供のように振舞う大人の女性(母親など)と、大人のような目線の子供が、対比して描かれていて、子供の目線で見た世界が、あっさりとした文体で語られている。子供の繊細な感情が、全体を通して底辺に流れており、それがこの作品の魅力であろうか?
帯には「家族の求心力が失われている時代に、勇気を与えてくれる」と記載があるが、私はそんな印象を全く受けなかったが……
また、過去の日常の断片を綴っただけで、芥川賞を受賞してしまう現状のブンガクに寂しさを感じるのも私だけ?
興味のある方はドウゾ。
紙の本
母の女の部分を子供は見たくない
2002/06/02 11:51
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:がんりょ - この投稿者のレビュー一覧を見る
母親・息子の2人の家庭の日常と波瀾を描いた作品。
奔放に生きている母親の,女の部分を息子は見たくないと思いながらもあきらめている。しかし,好きなようになっている母の足枷に自分がなっているかも知れないと考えはじめたとき,母子の関係が微妙に変わっていく。
芥川賞受賞作品でもある。
紙の本
猛スピードで母は
2002/02/14 13:45
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ポンタ - この投稿者のレビュー一覧を見る
今期芥川賞受賞作品。この人の書き方には特徴があって、ある種もう完成されたかのような書き方である。べつにそれを評価するわけではないが、とにかく作品が安定してるし、読ませる力もある。ただ、少し力不足ではないかと思わせるところもあるが、それはこれからよくなってゆくのでしょう。
紙の本
しんとさせるところと、たらんと流すところの巧さが、くいくいっとくる。若い男の人のやわらかさが出ている
2002/04/04 22:15
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:片岡直子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
感受性の帯には、いくつかの種類がある。好きな批評家が、私が一度も感動したことのない人の文章について、「今まで一度も良いと思ったことがない」と、きっぱり発言していた。そういうことは度々あることなので、やはりなあと思う場合がほとんどだけれど、帯は、時々ねじれることもある。本書に関する、不評の書評を、いくつか目にした。そこには、私の嫌いな評者もいたけれど、好きな評者もいたので、少しだけくらくらした。
それとは別に、いつも、感想を聞きたくなる年長の詩人は、長嶋さんや、お父上とも、知り合いとのことで、長嶋さんの文体について、骨董屋さんをしておられる「父親譲りのもの」と、知り合いならではの独自の見解を話してくれた。
本書には、タイトル作品の他に、「サイドカーに犬」も収められている。あっさりしているけれど、しんとさせるところと、たらんと流すところの巧さが、くいくいっとくる。 読んでいるうちに、書き手が女の人みたいに思えてくる。
反対に、登場する人は皆、男の子っぽく思えてしまい、私の場合、「サイドカーに犬」の薫は、途中で女だったのかと思った。そして、その時は、本当にこういう女の子がいるかな? と思ったけれど、読み進むうち、確かに、女の子の薫がそこにいると思えた。
以前、ここで書いた、鈴木清剛さんのように、若い男の人のやわらかさが出ている。
若い男の人の文章なら皆、やわらかくて良いかというと、そうではなくて、恋愛に関して表面的な人の文章は、どう転んでも読めない私なので、同じ芥川賞受賞の男性でも、恋愛の描写の気分が、まるで合わない人もいて、ただ、エッセイだけを書いていれば良いのにとか、女性を登場させるのをやめたら良いのに? と思ってしまう人もいるなかで、真正面からそこにつっこまないで漂う長嶋さんのやり方は、うまいと思えた。 (bk1ブックナビゲーター:片岡直子/詩人 2002.04.05)