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  3. かつきさんのレビュー一覧

かつきさんのレビュー一覧

投稿者:かつき

819 件中 16 件~ 30 件を表示

スピードと決断、機動力、柔軟性を身につけた企業が強い

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

東日本大震災の後、街から人が消え
経済がストップしたかのようでした。
そんななかで、いち早く動き、対策を立て
売上を回復したサービス業13社の取り組みを
紹介しているのが本書。

特に被災地の南三陸町の南三陸ホテル観洋は大変でした。
建物が津波の被害を受けずにすみましたが
従業員の家、車、家族が被害にあったり
同じ町の人びとは壊滅的な打撃を受けています。

そんななかで手を差しのべながら
経営を続けていくと決心します。

それには創業50年の間に
すでに津波の被害を受けたことがあり
その教訓――海を恨まず、また一からやればいい――が
活かされていることに強さを感じました。

そのほかの会社も震災直後から冷静に状況を分析し
スピードをもって打てる手を打ち、
機動力と柔軟性を発揮しています。

ある程度の規模の企業ばかりですので
従業員を別の施設で働かせることができたり
食材を回すことができたりといったメリットはあるものの
倒産していく企業が多いなか
これだけ頑張れることがあるのには感嘆します。

どこに力を注ぐべきか、経営者として判断力が
問われる、大きな決断は勉強になります。

特に従業員を解雇しない決断しているのが特徴。
社長の報酬はゼロにしても、従業員の生活は守る会社には
従業員も心に感じるものがありますよね。

さらに普通の時に顧客と強い関係を築けていて
そのお客様たちがいち早く戻ってきてくれたことも大きい。
これも今すぐにできることでしょう。

がんこフーズの社長の、人口が減少した日本の
「40年後の世界」を見ることができ
「売上が減っても利益をキープ」するモデルを
確立することができた、というのも先見の明ですね。

去年3月の売上が毎月、現実になる日がくることを
頭に置いて働かなくては――と思いました。

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紙の本蜩ノ記

2012/02/20 16:41

清廉潔白な能吏には、嫉妬と陰謀の落とし穴

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

しみじみいい話。

清廉潔白な能吏、戸田秋谷は、7年前、
江戸で、藩主の側室お由の方と一夜を過ごし
その小姓を斬り捨てたことで切腹を申しつけられます。

しかし、その頃、御家の家譜作りに取り組んでいたため
その編纂期間10年を猶予され、藩の田舎に蟄居。

そこへ、城中で喧嘩騒ぎを起こした檀野庄三郎が
切腹を免れ、家老の命で秋谷の目付としてやってきます。

庄三郎もまた家譜作りを手伝いながら
秋谷の人柄に惹かれ、その家族の温かさや
睦合いに心を穏やかにしていきます。

秋谷の不遇の身が嫉妬と陰謀によって
貶められたものであることが明らかになるのですが
いかにも有能で真っ直ぐな気性であるがゆえの
落とし穴にはまり込んでいます。

九州の小さな藩内の出来事だからこそ
身近に感じられます。どこにでも、誰にでも
起こりうる、どうしようもないこと。

しかし、そうなっても秋谷は淡々と仕事を進めるだけ。
諦めではなく、今やるべきことに集中しているように
感じられます。ただそうやって生きるのみが
彼ができる最大のことであり、幸せなのでしょう。

またこの話は、息子郁太郎の成長物語。
友人の源吉を通して、人として学び、
終盤の、友人のための大立ち回りはスカッとします。

この源吉がまたいい子。真っ直ぐで努力家で頼もしい。
農民とはいえ、将来は楽しみ……と思わせます。
もうひとつ、いい話がうまれそうなのに、彼も……。
これは著者にひどいじゃないと文句を言いたい。

己の力ではどうしようもないものの前に
秘して語らず、態度で示す。
しみじみ日本人の心。

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紙の本歪笑小説

2012/02/16 16:58

リアルとユーモアの境目に笑ってしまう

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この「笑」シリーズは初めてだったが、
読んでこなかったことを後悔した。

文芸書の本当の意義、文学賞のランク分け、
作家への夢など現実問題を抉りながら読ませる。
伝説の編集長獅子取の身を捨てた戦法、
自作の映像化、美人編集者の褒め殺しに
舞い上がる新人作家など、笑わせ、読ませ。

先輩作家のご機嫌に振り回されつつも
付きあい方を学び、
唐傘ザンゲがちゃんと成功への階段を上り
熱海圭介もおぼつかないながらも地を固めつつある。

二人の執筆に対する姿勢が分かれていて
女性問題もそんなふうにクリアしていくのが
なんとも、リアル。

玉沢義正という先輩作家がいいアドバイスを
唐傘ザンゲやその恋人に言うんですが
その後、彼は日本ミステリ作家協会の理事長であることがわかる。
ええ! それって自分のことじゃん?

「文学賞創設」ではジンときちゃった。
賞は頑張ったご褒美だよね。

最後の書籍広告まで笑わせてくれる、力の入れよう。
手を抜かないってこういうことなのね。

おお、直本賞獲ったんだ! よかった。
元子さんのお父さんも喜んでいることでしょう。
目に浮かぶようだ。

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不穏な空気を跳ね返す天真爛漫な夢

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ほとんど偶然に6年3組になった3人の子どもたちを語り手に、
爽やかな友情を描きます。

ところどころ、大人になったクラスメイトの挿話が挟まれます。

すぐに担任に告げ口をする女の子は
頼れるキャリアウーマンに。

勉強のできた男の子は、やや情けない医者に。

酒屋の男の子は、父親がコンビニに業態変換したことに
少々淋しさを覚えながらも経営者として。

構成はよくあるパターンですが
登場人物同士がほのかな繋がりが見えてくる趣向をほどこし
おやっと惹きつけられます。

彼らが子ども時代にはきっぱりと別れを告げて
成長してるのがいい。面影が全くなさそうに思えます。

ところが、担任の要重吾郎の挿話によってそれが覆されます。
さらに、この先生の卒業メッセージと合わせて
担任のおおらかな、そして広い視野を絡めます。
脇役なのに光っていて、いい味。

この大人の挿話もタイミングよく挟まれるので
そんな大人になったか! と感心してしまう。

学校ではうさぎ殺害事件、地域ではピストル強盗事件など
凶悪事件が相次ぎ、語り手の3人――ジュンペイ、ヨータ、
水沢さん――は巻き込まれていきます。

裏山に廃棄された剥げたビートルを秘密基地にしながら
子ども時代の天真爛漫な夢を育みます。

特に水沢さんにとって、その期間が子ども時代の
唯一の楽しい時間となり、その心情を想うと切ない。

ラストはのびやかで明るい話に仕上げ、読後感もいい。

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ふつうのごはんをマクロビでつくると……プラス甘酒や酒粕を利用したレシピ

10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

千葉県香取郡「発酵の里 神埼」の寺田本家の蔵人なかじさんと
奥さまでマクロビオティックの料理家南智美さんの
「みなみ屋さん」のレシピ。

麹や酒粕を使ったレシピかと思ったら
普通のマクロビオティックのレシピ+玄米甘酒や
ぬか漬け、もろみなどのレシピ。

レシピもカレーライス、親子丼、クリームシチュー、
餃子、回鍋肉ならぬ回鍋麩、酢豚ならぬ酢麩太など
普通の食卓に並ぶメニュウなので作りやすい。

でもぜひ玄米甘酒からつくる塩甘酒や
甘酒コチュジャン、甘酒ねぎソースを使った
レシピに挑戦してみたい。

甘酒ねぎソースを作ってみましたが、おいしいです。
八宝菜やキャベツ炒めの調味料としても活躍しそう。
さっそく使ってみます。

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紙の本海岸通りポストカードカフェ

2012/02/06 16:55

葉書の距離感と、人と人のクッションとなるカフェ

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

横浜海岸通りにある、
ポストカードが壁一面に貼ってあるカフェ。
タイトルと設定から想像すると
若い女の子の恋と友情の話の
オンパレードになりそうだが、
そんなアマアマベタベタな展開ではない。

ポストカードだからこそ伝えられる言葉の数々が
連作短編の物語になっている。

恋人時代に通ったポストカードカフェに
飾られる自分の葉書。
しかし、今の嫉妬深い彼女が見つけたら――。
という話だけが、推測するに若い世代の物語。

10数年前に卒業した生徒から
ポストカードカフェ経由で届いた葉書。
顔も名前も思い出せない生徒だが、
しかし教師を忘れていないのが心に痛い。

30年以上前に失踪した夫からの葉書を待つおばさん。

疎遠になった娘へ72枚の葉書に想いを綴る、認知症の父親。

意外にも中高年のポストカードストーリーなのだ。
さまざまな立場の人の綴る葉書の言葉はサラッとしてる。
が、その葉書を書くまでの心の揺れは大きい。

ポストカードカフェを離れて、失踪した夫サイドの話もいい。
風俗に身を落とした女の子が、弟に送る葉書など
ほんと、葉書の距離感が二人を結びつけるのがわかる。

いいといえば、生徒と教師の話が縦軸になっているが
すでに年数を経て縁が切れてしまったといってもいい関係、
そしてその真相から生み出される距離感は
ポストカードカフェというクッションがあるからこそ、
そして葉書だからこそ復活する縁だ。

重みはないが、葉書だからこそ伝わることもあると
小説は語りかける。


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紙の本東京ヴィレッジ

2012/02/01 16:46

なんの取り柄のない30女の生きる道

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

おもちゃ会社に勤める33歳の明里は、
会社が大手ゲームメーカーに吸収合併される噂に動揺する。
同時に大規模なリストラが始まるようだ。

一方、青梅の実家には、見知らぬ夫婦が
半年以上にわたって居候し、怪しげな商売を始めている。
叔母や幼馴染みから心配の電話が入るが
明里自身がそれどころではない。

しかし、同期の恵や7年越しの恋人の郁人に
背中を押され帰ってみれば
怪しげな夫婦はにこにこ愛嬌があり、口八丁手八丁で
とても一人では太刀打ちできない。

お人好しで、自分で考えたり行動したりできない
両親と姉夫婦は、その夫婦の言うがまま。
家の増築まで始めている。
おそらく夫婦の部屋になるだろう。

明里は東京生活を守りたいが(明りに言わせれば
青梅は東京ではない)、リストラされれば厳しい。
しかし、実家にもう居場所はない。

この夫婦が怪しげそのもので
その過去が少しずつ明らかになっていく。
案の定、後ろ暗いことが次々と出てくる。

しかし、そのツキや頭の回転の良さ、笑顔、
テンポのいい言葉の数々がだんだん彼らの武器に思えてくる。
明里も徐々に活路を見いだす。

経済危機や大震災、リストラなどに揺れる日本社会で
逞しく生きる術は、なにも力任せばかりではない。
清濁を併せ飲む技を見せる。

なんの取得もないアラサーにだって生きる方法はあると
強く背中を押す小説。


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紙の本今日もごちそうさまでした

2012/01/30 16:37

肉派最右翼の旬のごちそうさま

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

肉派最右翼を名乗る角田光代の食べものエッセイ。
毎日三食きちんと食べる彼女だからこそ書ける、
普通のごはんのこと。

春は筍、山菜、新玉ねぎ、アスパラ、新じゃが。
夏はとうもろこし、ナス、ゴーヤ、枝豆、オクラ。
秋はサンマ、栗、里芋、マツタケ、きのこ、鮭。
冬はさつま芋、白菜、れんこん、蟹、ふぐ。

肉の話題が多いのですが、
季節ごとに編集されているのがいい。
それも彼女が旬のものをスーパーではなく
肉屋や魚屋、八百屋で買っていて、
その季節にしか食べられないものに目がないから。

食って季節と結びついているな~と
改めて感じる。

自分の食生活ともリンクするので
エッセイの中の角田光代に、頭の中で語りかけてしまう。

素麺に薬味はつけるが、その他に合うおかずは?
と問われれば、「茄子味噌!」と間髪いれず答える。

角田さんも「茄子と挽き肉のピリ辛炒め」と答える。

わたしはマクロビアンなので
肉を自分で調理することはほとんどないから
このメニュウはないけど
茄子を炒めたものという点ではいっしょ。
素麺のさっぱりさに、茄子炒めは合う合う。

そんな感じに一つひとつのうちごはんを紹介し
自分の食遍歴について語る。
子どもの頃の偏食を30歳くらいから徐々に克服してきた
という角田さんは、実は料理上手。
巻末に「私のごちそうさまレシピ」として
れんこんだんご、かぼちゃグラタン、洋風鰹、
ねばねば五色丼、鳥チャーシュー、茄子入りギョーザのレシピ付き。

餃子に茄子。作ってみたい。

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紙の本日々のおしゃれ

2012/01/25 17:08

ナチュラルな美意識

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

内田彩仍さんのおしゃれと日常、旅を追う一冊。

そのマメさには頭が下がります。
コーディネートノートをつけ
アイディアを出し続けたり、
その日に着た服のお手入れはかかさず、
衣替えには4日かけます。

特に洋服のリメイクがすごかった。
無地のスカートに刺繍をしたり
古くなった服の襟を裁断したり。

特に革ボタンにつけかえるのには感心しました。
ボタンをつけかえれば、たしかに服が高級になります。
でもクリーニングのたびに、外してつけて……。

できません……。

それからブラウスやチュニック、スカートの裾上げはいいですね。
背の低い人の場合、どうしても重くなりがち。
こういうのはその人にあう微妙なバランスがあるし
ナチュラルな服の場合、それがとても大事になります。
自分にあう丈に直すとグッとオシャレ度があがります。

さらに内田さんのおしゃれのポイントも
背の低い人向きです。
ロールアップ、ウエストマーク、ボトムのボリューム。

さらにエプロンも毎日、コーディネートしているのには
驚きました。
ここまで徹底できません。

着まわし術にもページを多く割いています。

「ごろごろするのが苦手」という内田さん。
そんな性格だから、こんなにも手間をかけられるんですね。
服だけじゃなくて、食、家、おでかけ、旅。
すべてに自分の美意識が向いています。

でもそれがナチュラルなところに憧れます。

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普通の人のロールモデルからの転落にもめげない強さ

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

郵便不正事件でキャリアを断たれそうになった
厚生労働省の官僚村木さんによる
女性が仕事を続ける上でのアドバイスと
逮捕、拘留、裁判、無罪判決までを綴った本。

彼女の生い立ちから仕事につくまで、
そして労働省(当時)に入庁してからの仕事論が本の半分を占める。

「普通の人のロールモデルになりたい」という彼女が明かす仕事論は
キャリア官僚だけに通用するものではなく、どんな仕事にも共通する。
奇をてらったものではなく、今まで書かれてきたノウハウとあまり変わらない。
だからこそ等身大でまねできる。
また女性の上司というよりも、「調整型の上司」としての考え方を記す。

そんな彼女が事件に巻き込まれ、逮捕、拘留、裁判、無罪判決まではドキドキ。
彼女は常に冷静に対処する。パニックに陥らないのはすごい。

無罪を証明することをあきらめず、検察の意地悪な質問や
作られたストーリーに屈しない彼女のなかの芯は
人とのつながり、前向きに考える力、家族の存在。
それは仕事で活かされてきた彼女の資質でしょう。

普通の人でも仕事をすることで得られる人との繋がり、キャリア、ポジティブシンキング。
それを再認識させてくれる。

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紙の本ワナビー

2012/01/21 17:16

ネットアイドルに仕立てられた顛末

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ネットの視聴者参加ゲーム「イリンクス」で
一種のネットアイドルとなった枯神。
しかし、トラブルがあったらしく
そこに至るまでを、ブログを立ち上げて語る。

過去の出来事と自分の感情がわかりやすく描かれる。
しかも彼の「いい人」ぶりに共感し、好感を覚える。

枯神は一般的な二十代後半の男性で
家を結婚する弟に追いだされる形で一人暮らしを始め
深夜のコンビニアルバイトで生活している。
容姿も頭も至って普通。

ただし、彼はゲームよりも人に気を使い、思いやり深く優しい。
そのためにゲームのルールを逸脱してしまう。
それもあからさまではなく、日常のなかでも
常に一般人が選択させられる小さな手助けや
アクションのようなもの。

この「いい人」につけこんでくるのがイリンクスの社員で
枯神担当者のアイスブルー(枯神がつけたあだ名)。

ネットに限らず、マスコミにありがちな
演出とやらせの境界線を枯神に歩かせる。
枯神のアイスブルーの善と悪は
誰もが立場が違えば、どちらにもなりうる程度であるのが
よりリアル。

最後のどんでん返しが不要。
彼の告白だけで十分に読ませる。

ただアイディアのおもしろさ、ストリーテラーとしての資質、
文章のうまさは発揮されたデビュー作。
次作も楽しみです。

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紙の本夢の花、咲く

2012/01/20 09:41

朝顔同心興三郎と安政の大地震

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

松本清張賞をとったデビュー作『一朝の夢』続編。
朝顔の栽培だけには才能がある、
ぼんやりとした中根興三郎が
植木職人・八十助殺害事件を追う。

朝顔仲間の吉蔵の娘のお京と将来の約束をしている
同僚の岡崎と事件を追ううちに
安政の大地震が起こる。

新聞連載を単行本にしたので
おそらくこの地震は偶然の一致なのだろうが
地震後の人びとの様子を読むにつれ
東日本大震災と重ねずにはいられない。

食料配布、御救い小屋の設置、怪我人の施療などは
炊き出し、避難所、緊急医療施設などと
簡単に結びつく。
この時代は町の人びとの暮らしを守る奉行所が
緊急の際にも駆り出されたのも初めて知る。
警察と役所を兼ね備えていたんだな。

炊き出しや甘いもの、お酒、布団、着物などの差し入れをする
大店も出てくる。ここに興三郎の亡くなった兄の許嫁で
今は材木問屋の後妻に収まっている志保が登場する。

興三郎は、兄が亡くなったために破談になったことや
その後の志保の身の振りについての悔恨を抱き続け
それを志保に伝えたいと思いながら伝えられない。
不器用な彼だが、それはそれで優しく実直な人柄があらわれる。
気丈な志保の生き方も、つい弱みを見せるところもいい。

反面、「皆が皆、立ち上がる力を持っているわけではない」
「命が助かった自分に罪悪を感じる者さえいた」と
弱い人々を描いていく。

後の河鍋暁斎が、地震にことよせた風刺画の鯰絵を描き
人心を掌握し、それが新たな事件解決へと繋がる。

震災のような時には役に立つ仕事、
役に立たない仕事がはっきりとし
それにより儲ける者、仕事をなくす者も明らかになる。

朝顔作りなどというのは、不必要なものの筆頭で
ましてや花を競わせる愚の骨頂がより明らかになるのに
好事家は珍しい朝顔の種に群がる。

(ただ、現代では花が人を慰めることもあり
その意味合いはやや違う)

ともかく、江戸の人びとと幕末の揺れる国、
そして興三郎の屈託を一つひとつ解き放っていく。
今、読みたい時代小説のひとつ。


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大宰府に追いやられた瑠璃姫をめぐる王朝ミステリー

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『千年の黙』『白の祝宴』に続く源氏物語シリーズ3冊目。
玉鬘(葛)から若菜までを執筆する紫式部と
その周辺を描く王朝ミステリー。

源氏物語の謎を丁寧に拾い集め
それをきれいに解き明かす。
昔読んだ記憶がバシバシ甦ってきて
心地よさにひたる。

今回の大きなミステリーは
「若菜」に出てくる「瑠璃」姫について。
女性はあだ名や局名、官位で登場するのに
なぜ、瑠璃だけは本名なのか。

道長がこっそりと匿う、やんごとなき身分ながら
日蔭者の瑠璃姫。
彼女の幸せを祈る香子(紫式部)の策略が光る。

さらに突然身罷った一条帝から三条帝へと
帝位が引き継がれるものの、
道長とは全く相いれない三条帝が
失脚していくまでを見事に描く。

道長の長女彰子は一条帝の妃、
二女の妍子は三条帝の妃、
三女の威子は後一条帝の妃、
四女の嬉子は後朱雀帝の妃という
道長の栄華が成立する。

道長は、野心はあるものの、実は小心者で
この頃にはそれほど政略を巡らせたわけではなく
賢き彰子という娘に恵まれたこと、
皇子が順調に生まれたこと、
時の運が大きかったことなど、時代の読み解きもおもしろい。

前作までの道長とは印象が変わり、
また香子にしてやられることもあり、
なんだか親近感がわいてしまう。

この間に、身罷った一条帝の娘、修子に仕える童の糸丸が、
その日の食料を確保するだけで精一杯の童、秋津と知り合い
この時代の庶民や農民の怨嗟の声も伝える。
それは香子にも届く。

これは宇治十帖で漂う仏教思想へと繋がるのだろうか。

また、源氏物語の瑕疵に至るまで
香子に言い訳させ、さも本当のように思わせる。
思わず、笑ってしまった。
次の作品にも期待してしまう。

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紙の本脱原発社会を創る30人の提言

2012/01/17 09:24

小さな社会と政治、グローバルな経済へのシフト

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

東京電力福島第一原子力発電所の事故後
脱原発について深く考えなければならないと思いました。

それまで漠然と「原子力発電をやめなければ」と思っていましたが
この事故後、果たして本当に原子力発電に頼らない日本社会、
日本経済が可能かどうかを考えました。

原発については賛否両論あり、現実的に原発がないと
日本の工場が成り立たないのではないか。
工場が稼働しなければ日本経済は、日本人の雇用は
どうなるのだろうと思いました。

しかし、本書を読んで、そんなものは
原子力発電の危険性の前には小さな問題だと感じられました。

まず、コストの問題。
原発は安いというのは、思い込みでしかない。
実際に大島堅一氏が「脱原発の経済学」で
そのコストを算定し直しています。

また、エネルギー政策を新しいエネルギー源――
多くは自然エネルギーへのシフトは
やるかやらないかの問題であること。

その新しい自然エネルギー下の日本は
やや電力が小さいので
少しずつみんなが節電を意識するようになります。
そのためには時間帯で電気料金を高下していく。

なによりも産業用電力の料金体系の見直しです。
これは節電の時に知りましたが
多く使えば電気料金が下がる、
というおかしな料金体系であることが
いちばんの問題でしょう。
コストカットをしていない企業はないのですから
これによって電気をムダに使うことになります。

そして、脱原発のいちばんの問題は
利権や政治絡みの問題で、一筋縄にはいかないこと。

これは国民の声で変えていくしかない。
政治家は自分の特権にしがみつく。
それを特権として認識させないのは
国民の意見は脱原発が大半で、脱原発を唱えなければ当選しない
というところまで追い込むしかないでしょう。

このフクシマの事故後、日本は変わるチャンスです。
小出裕章氏が「少欲知足のすすめ」と提言されていますが
小さなエネルギーでまかなう社会をつくること。
もう高度経済成長期の日本はありえない。
その幻想から離れること。

事故があってもなくても、日本企業はアジアや世界へ目を向けて
グローバルに活躍しなければ立ちいかないところまで
きていたのです。

これからは小さな日本の社会と政治、
そしてグローバルな経済社会を目指していくべきだと
本書を読んで強く思いました。

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浅田次郎の生活、人生をたどるエッセイ

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

単行本未収録のエッセイを加筆訂正し、編集。
内容も旅、家族、博打、映画、日本人、競馬、
小説と広範囲にわたる。

著書の補遺やそれにまつわるエピソードがおもしろい。
『天国までの百マイル』がお義母さまの闘病に
まつわることから派生したことなど、ジンと胸を打つ。
浅田次郎、いい人だなあ。

小説家を志した中学生の頃から
一日一冊を自分に課し、現在も続いているのもすごい。
これが多作で、多岐にわたる彼の著作の根幹となっていると
自負するのも当然だと思う。

生活はかなり個人的で、変則だけど
週に5日、書くことと読むことに費やされる。
超人的。

週末、競馬場に足しげく通い、
40年にも及ぶとなるとその知識や、
歴史的レースの思い出なども尽きない。
ここはさっぱり理解できないけれど
競馬好きには思い切り楽しめるだろう。

しかも、収支計算を欠かさず
それによって己の競馬人生が誤ることなく続いてきた
というのもわかる。
冷静で客観的だからこそ、情熱を注げる。

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