大計画！壮大なチャレンジにテンションが上がる長編小説

「名前に鴇（トキ）の文字があること」それが鴇谷春生の誇りでした。彼はある事件により故郷を追われたことを契機に、「鴇の解放」を志します。しかし、飼うか、放すか、殺すのか・・・。自意識にからめ取られた引きこもりの少年・春生ですが、計画は夢想では終わりません。その計画と実行ぶりに、読者ともども引き込まれる物語です。

京大五回生の「私」が彼女に振られて、腹いせに企てた崇高なたくらみ、それはクリスマスをめちゃくちゃにすること・・・。自意識の煮詰まったダメ大学生のこじれた思考が、もはや読んでいて清々しい小説です。スタートからして明らかに間違っているけども、その行動力と影響力たるや！不思議な中毒性があります。

「日本独自の暦を作るのだ」。徳川将軍・家綱より下された命は、前人未到のプロジェクでした。碁打ちの名門に生まれるも、定められた境遇に飽いて算術に血道を上げていた渋川春海が責任者に選ばれ、日本の新たなる礎を作る大仕事が幕を開けます。難しいテーマですが、専門知識がなくても読める、上質なエンタメ小説です。

科学技術の進んだ未来。増えすぎた人類は磨いた技術とともに植民惑星へと移住を繰り返していました。しかし、とある星に向かった一団はトラブルによって技術を喪失、20世紀水準まで落ちた生活を余儀なくされて・・・。移民の歴史をなぞる大河SF作品です。強く生き抜く彼らに襲い掛かる容赦ない展開に、ハラハラします。

地球移民が住む惑星、ナイン。星の最後の子どもであるルナが、冷凍された各時代の人物と接するなかで明らかになっていく「ナインの失敗」。遠大な計画を立てて実行し、成功したその後、ゆるやかに衰退して終わるまでが描かれています。すべて消えてしまうなら計画の意味はどこにあるのか。寂寞とした読後感に心地よさを感じます。