女性ならではの緻密な心理描写にゾクッ・・・桐野夏生の戦慄サスペンス小説

どこにでもありそうな地方都市で、つらい夜勤パートに励む主婦たち。苦しい日常に耐え忍ぶ彼女らの心の内で、ついに何かが壊れ、ふとしたはずみで殺人に手を染めてしまい・・・。ごく普通の主婦が凶悪犯罪者へと転がり落ちてゆくさまは、私たちの誰しもが知らず知らずのうちに溜め込んでいる心の闇をあぶり出しています。

1990年代末に実際に起こった「東電OL殺人事件」を土台とした長編ミステリー。頭脳明晰、名門女学園卒という勝ち組の人生を歩んでいるはずなのに、なぜかうまく生きられずにもがく女性たち。地位や名声を手にしても決して満たされることのない彼女たちの絶望と孤独が、読み進めるほどにズシリと重く心に響いてきます。

1人の幼女の謎の失踪事件によって引き裂かれてしまった幸せな一家。失踪した娘の幻影を追い探し続ける母親と、犯人探しをあきらめきれない元刑事。2人は、それぞれに薄暗い葛藤を抱えながら事件の足跡をたどっていきます。悔やんでも悔やみきれぬ後悔、やり場のない怒り・・・。登場人物の心情がリアルに迫ってくる佳作です。

クルーズ船事故の生存者たちが流れ着いたのは、絶海の無人島。31人の男たちのなかに、女がたった1人。実在の事件「アナタハン島事件」をベースに、サバイバルの極限状態のなかで、人間が欲望や闘争心をむき出しにしてケモノに戻るさまをさらけ出した問題作。生と死をかけた熾烈な心理戦では、人間の醜さがにじみ出ています。

舞台は、壊滅的な原発事故によって誰もが欲望のままにやりたい放題となった仮想世界。この世界を動かすカギを握る少女「バラカ」をめぐって人々の思いは入り乱れ、世界は混沌の渦のなかに。次々に登場するキャラクターたちのそれぞれの心中が丹念に語られ、読み進めるごとにどんどんリアリティを増していく物語です。