人生に必要なものがすべて詰まっている!?横山秀夫の傑作短編集

警察の中でも物語でよく描かれる刑事ではなく、人事担当などの警察官を主人公にした「まったく新しい警察小説」。警察という特殊な組織に生きる普遍的な人の心情や想いを事細やかに綴っていて、組織に生きざるをえない私たちの心に深く染み入る物語です。表題作は松本清張賞受賞作品で、全4編を収録。

署内で一括保管されていた30冊もの大量の警察手帳が紛失する・・・という出だしの表題作は、日本推理作家協会賞（短編部門）受賞の、心を震わせる物語。そのほかにも女子高生殺しの前科を持つ男が匿名の殺人依頼電話に苦悩する「逆転の夏」や、公判中の居眠りで失脚する裁判官を描いた「密室の人」など、全4編が収録された短編集です。

殺人事件の時効成立寸前に展開が二転三転する表題作は、刑事たちの執念と葛藤に心をわしづかみにされます。そのほかにも、笑わない青鬼やずば抜けた直感力を持つ天才など、F県警強行犯係の男たちの強烈な闘争心と矜持を圧倒的な熱量で描いた全6編を収録。本格ミステリと警察小説が見事に融合した連作短編集です。

「臨場」とは事件現場に臨み、初動捜査に当たること。「終身検視官」の異名を取る警察官が主人公の全8編の短編集。死者からのメッセージを的確に読み取り、誰もが自殺や病死と思い込んだ案件を殺人と見破ったり、殺人と思われた案件を「事件性なし」と覆したり・・・。主人公の真摯な生き様に、胸が熱くなります。

主人公は「ノビ師」と呼ばれる忍び込みを得意とする泥棒で、次々と事件に巻き込まれていく全7編の連作短編集。警察官視点ではなく泥棒視点からの異色の物語は、新鮮で先の展開が読めずハラハラドキドキさせられます。心に深い傷を負った主人公が事件を通して自分を見つめ直す、ハードボイルドな物語でもあります。