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花も木も、祭りも工芸も、言葉も仏も、史蹟も人の縁も、気質も情も、女性の色香も老いの孤独も、すべてその腕に包みこんでしまう古都の魅力と誘惑。
2002/07/02 00:16
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
ずいぶん昔の話で恐縮だが、川端康成の『古都』といえば、昭和を代表するアイドル山口百恵の主演で映画化されて話題になった。そのお陰で、町の大店のお嬢さんと北山杉の里の素朴な娘が実は双子だった…という設定は知っていた。しかし如何せん「川端康成の顔が嫌い」「屈折した性が好みに合わなそう」という次元の低い理由でずっと食わず嫌いをしていたから、今回読んでみて、「ああ、不覚だった」と痛感させられる破目になった。
年も重ねて大人になってきたのだし、苦手なものはひとつひとつ克服していこうという発想で手に取る——まあ何とも変な動機の読書ではある。新潮文庫のカバー袖には、やはり相変わらず好きにはなれない作家の顔写真が掲載されている。正直言ってキモい。
でも、「屈折した性」の方は、時代もここまで来て屈折したものがすべて出尽くしたかという感も否めない。少しずつ読んでいる『みずうみ』なんて、ストーカー小説である。あっぱれ大した先駆者ぶりだと感心してしまう。読了した『片腕』に収められている3篇も、死体愛好症の傾向が読み取れるが、今ちまたにあふれているホラーやミステリーに登場するそれとは段違いである。圧倒的な美意識に貫かれていて見事だ。
さて、肝心の『古都』であるが、ここでは性の嫌悪からくる屈折の陰はほとんど消え失せている。わずかに、主人公・千恵子の父親の昔の遊蕩、その残滓という形でエロっぽい場面が差し挟まれてはいるものの、ふたりの若く美しい女性たちの聖域に落とす陰はない。結婚前のけがれひとつない乙女らの物語は、どこまでも清く澄んでいる。
この小説は、睡眠薬ジャンキーの状態で書かれたらしい。あとがきに明らかにされているが、眠り薬が書かせたようなもの、「私の異常な所産」だという告白、にわかには信じ難い。詩人のアンリ・ミショーが、幻覚剤メスカリンを用いて実験的に描いたデッサンのような「執拗」とは無縁に思える。だがあるいは、古都を美しい要素の総体として描こうとしたことのこだわりを、薬による執拗さの発現と取ることも可能かもしれないとは思う。
結婚相手の話題が取り沙汰される年頃に達した呉服問屋の一人娘・千恵子は、赤子のときに両親がさらってきたという話が信じられず、自分では捨て子だったのだと解釈している。
女友だちの誘いで高雄にもみじの若葉を見に行った日、北山杉の里で、自分そっくりのひな姿の娘を見かけるが、あまり気には留めない。しかし、祇園祭の夜、偶然出くわした娘と言葉を交わすうち、自分が娘と双子の姉妹であることを認識するに至る。
千恵子と苗子という名のその娘は、互いの生活にしっかり根を張っているため、相手の世界を侵さないよう尊重し合いながら交流を深めていく。
春のすみれのエピソードに始まり、淡雪降る早朝に終わるこの小説には、京都の移ろう四季の景色や史蹟、祭りや暮らしが贅沢に織り込まれている。「不覚だった」という思いは、何回も京都を訪れていながらこの小説を読んでいなかった悔いとして湧いてきた。一生のうち1年でいいから住んでみたい土地だと前から願っているのだが、その思いを改めて深めさせられた。
娘たちの身に起きたドラマよりも、その娘たちすら古都の点描でしかないという扱いが見事である。私もまた、小さな点のひとつとして、あの町に存在して溶け込ませてもらいたいのだ。
おもしろかったです。
2021/12/30 19:06
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投稿者:Kanye - この投稿者のレビュー一覧を見る
京都の風景や行事を描きつつ,ところどころで着物や帯の印象的な図柄などが表現されていて,ビジュアルに訴える作品だなぁと感じました。双子の女性に対する恋愛感情というところでも,見た目と内面との関連が描かれているように思いました。
この人はすごい、あたりまえのことを口にしてみた
2021/10/20 21:28
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
川端康成という人は、すごい人だと思う、当たり前のことを書いてしまったが、私が思っていることを文字にしたのだから勝手だ。「片腕」や「眠れる美女」のような、この人は変質者に違いない、こんなことを書ける感性を常人がもっているはずがないと思える作品を発表するかと思えば、「雪国」や「山の音」のような、それ相当に年を重ねないと書けない大人の小説を書き上げる、そして「伊豆の踊子」やこの作品のような風景が目の前に迫ってくる、そして登場人物の一途な気持ちが伝わってくる作品も書き上げる。私はどうしても双子の二人がこの後どうなったのかが知りたい、千重子が誰と結婚したのか、苗子は秀男とどうなってゆくのか、とくに苗子には幸せになってもらいたいとこころから思った
古都
2021/02/27 17:20
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投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
観光名所として有名な祭りや寺院だけでなく、京都に住んでいる人の目線で描かれているような気がする。最も京都に住んでいるわけではないので、本当にそうなのか、分からないが。
作中の京都弁は作者とは別の人物の協力を得ているとあり、本当にリアルで、人によって方言が異なる箇所もあり(「かにして」と「かんにんして」など)、とてもよかった。標準語が登場する小説では言葉遣いでその人物を書き分ける事は容易に出来るだろうが、方言でそれができている点に感動した。
柔らかく切ない物語
2019/07/30 04:00
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投稿者:pixel - この投稿者のレビュー一覧を見る
美しく切ない物語。恥ずかしながら川端さんの作品を初めて拝読したのですが、日本語ってここまで美しいのか…と心に沁みわたるような文章でした。
旅行でたびたび訪れた京都の風景が思い起こされます。この本を読んでいたら違った風景で京都を歩いたように思います。
物語の続きはどうなったのか…とついつい気になるのでした。
(睡眠薬でほぼ記憶がない作品だとあとがきで知り、びっくりです)
美しい京都の情景が浮かぶ
2017/03/26 22:04
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投稿者:ME - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の作品は難解なイメージがあるが、それほど難解ではなく、京都の春から始まり冬までの四季や祭に沿って物語が進むので読みやすい。美しくせつない物語であるが、50年以上も前に書かれたため、理解しにくい場面や単語も出てくる。
京都の描写
2015/12/05 13:33
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投稿者:earthbound - この投稿者のレビュー一覧を見る
川端康成は京都に暮らしてこの作品を書いたといわれています。
京都の魅力と姉妹の運命の描写が素晴らしいと思います。
BSーTBSの番組で本作品が紹介されていて、川端康成を久しぶりに読んだのですが、やはり文豪ですね。
ただただ美しい
2016/05/13 01:04
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投稿者:しん - この投稿者のレビュー一覧を見る
京都の自然と祭事の記述が、とても美しい。それに京ことばが彩を添えていて、自分なりに黙読している声に、肩の力が抜ける感じがした。色々と京都について楽しく学べるというだけでも、この本は一読の価値があると思う。物語の展開も、遅すぎず早すぎず、丁度いいと感じた。古風な中にも、現代に通じる恋愛模様。現代調の作品に飽きたら、ぜひ、息抜きにどうぞ。
美しい
2024/11/03 19:44
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投稿者:みみりん - この投稿者のレビュー一覧を見る
綿矢りささんの「手のひらの京」を読んで、解説で「川端康成の「古都」も連想させる」とのことだったので読んでみた。
川端康成さんの紡ぐ言葉の選び方が美しい。昔の作家さんの作品で残っているものは、やはり残るだけの意味があるのだと思う。
古都
2021/02/28 21:08
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投稿者:雨読 - この投稿者のレビュー一覧を見る
古都は杉林をイメージします。
主人公の千重子は捨子ではあったが京の商家の一人娘として美しく成長した、祇園祭の夜、自分に瓜二つの村娘苗子に出逢い、胸が騒いだ。
二人は双子だった。
互いにひかれあい、懐かしみあいながらも永すぎた環境の違いから一緒には暮すことができない切なさ。
古都の移ろう四季や、名所を織り込む風情ある小説である。
同じ顔を持ちながら
2020/10/12 23:51
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
対極的な道のりを歩んできたふたりが出会う祭りの夜が幻想的でした。京都の四季折々の美しさと、運命の皮肉とのコントラストも秀逸です。