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みんなのレビュー279件

みんなの評価4.2

評価内訳

279 件中 1 件~ 15 件を表示

大学の先生が書いた歴史書にしては珍しいベストセラー。でも売れるだけのことは確かにある!

2009/09/11 20:07

65人中、25人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る

本書は、桜蔭高校から東大文学部へと進学し、現在、東大文学部で日本近現代史を講義している加藤(野島)陽子氏が、神奈川の名門栄光学園に出向いて年末のクリスマスからお正月にかけて5日間にわたっておこなった特別講義の講義録である。参加したのは中学1年生から高校2年生の17名だが、大学生でも付いて行くのが難しい専門的な講義に結構付いていっているように「見える」のは、さすが栄光学園といったところか(と、いっても、まあ話の多くは「ふーん」程度で、基礎資料の読み込みと理解無しには心底理解したとは言えないのは当然であろう。ただ、間違いなく言えることは、この講義は今後の彼らの学習にあたり重要な道標になるに違いないということだ)。

それにしても本書は刺激的な発見に満ちている。キーワードは「問い」だ。歴史には必ず原因があって結果がある。この「問い」を大切にし、「なぜ、そうなったのか」をひとつひとつ明らかにしていくことに歴史学習の面白みがあり、醍醐味がある。ところが、ともすれば歴史とは結果の羅列に終始し、「なぜ、そうなったのか」が曖昧なまま放置されている。あるいは「当然、そうだったろう」という思い込みが罷り通り、当時の事実はかけ離れた共通認識が通念となっていたりする。本書は丹念に歴史を紐解くことにより、こうした「なぜ」の解明に相当程度成功しているといえるのではないか。

例えば日清戦争だ。当時の日清関係を「昇り竜の日本と、衰亡の一途をたどる清」と捉えがちだが、事実は大きく異なると著者は指摘する。清は、19世紀末には清仏戦争でもフランス相手に互角に戦い勝利を収めているし、今の新疆ウイグル自治区で起きたヤクーブ・ベクの独立運動もロシアに先駆けて大軍を派遣し、鎮圧に成功している。当時の中国は、海軍力では英仏に劣るものの陸軍力では互角以上の実力をもった軍事大国であったというのだ。だからこそ日清戦争における日本の勝利の価値があるのだが、ただ、ではその後、清の国力が急速に衰えていったのかについては本書は何も応えてはくれない。

日露戦争がなぜ起きたかについても朝鮮半島の確保を死活的利益と捉える日本の真意をロシア側が最後まで気がつけなかったところにあったという指摘には「なるほど」と思った。また満州における日本の優位を決定した要素のひとつに諜報の勝利があったわけだが、これには少なからぬ中国人が積極的に日本軍に貢献した事実があったことも指摘されている。日露戦争でフランスがロシアを応援したのは日清戦争でロシアに貸した金(ロシアはこのカネを清にまた貸しして清はこれで日本への賠償金を払った)が貸し倒れにならないようにするためだったし、ドイツがロシアを焚きつけたのはロシアの軍事力を東方に向かわせることで自国の安全を確保しようとするためだった(このためにドイツは黄禍論という人種差別論まで持ち出している)という話は、欧州というのはつくづく自己チューでアジアを蔑視する「嫌な連中」という思いを新たにする。日露戦争に対し戦費調達=増税を嫌がる日本の保守層=地主層が最後まで反対だったというのも目から鱗の指摘だ。

第一次大戦が勃発するとドイツの山東半島の権益狙いで日本が日英同盟を根拠に参戦を希望するがエドワード・グレイ外相率いる英外務省はこれに反対するもチャーチル海相率いる英国海軍はこれに賛成だったんだと。理由は日本に華北の山東半島くらいくれてやれ、その代わり英国の権益が集中する上海、香港、広東には手を出すなという気持ちかがあったからなんだと。

日本の満州進出に関しても対満州投資の85%が国がらみの投資案件で、従って健全な批判が起きにくい素地がはじめからあったという話もうなづける話だ。一方、意外な発見だったのは松岡洋右で、私はこいつはてっきり思い込みの激しい独りよがりの誇大妄想狂で、ヒトラーとスターリンに手玉にとられ日本を滅亡に導いた馬鹿と思っていたが、少なくとも1920年代までは、かなりまともな国際感覚をもった外交官だったことが明らかにされている。ただ、じゃあ、こいつがその後どうして「十字架上の日本」などというキリスト教徒が聞いたらただ不快感を増すだけのお馬鹿な演説をキリスト教徒ひしめく国際連盟でぶって、日本を国際的孤立へと追いやったのか、このあたりの松岡洋右転落の軌跡も明らかにして欲しいものだ。

本書の白眉は熱河侵略を機に、日本が連盟規約を盾に国際的侵略者の汚名をしょいこんでいく転落の過程だろう。日本の軍部は妙に「法律家」的条約解釈が好きで、法律解釈の屁理屈に屁理屈を重ねては満州侵略を正当化していく様は戦後の憲法九条解釈と自衛隊の関係を髣髴とさせる「知的アクロバット」そのものだが、この手の話は「法律の話は法律の話として、実質は同なんだ」的な政治家的「腹を割った話」で決めていくべき代物だ。それを法解釈云々で切り抜けようとするところに今も変わらぬ官僚の限界を見る思いがする。

胡適なる人物を紹介したのも本書の功績だろう。ただ、あんまり胡適を「すごい、すごい」と過大評価するのは如何なものか。確かに彼の「日本切腹中国介錯論」(日本の全民族は滅亡の道を歩んでいる。中国はそれを介錯するのだ)という見立てには背筋が寒くなるような迫力を感じはするが、だからといって「(日本と違って)中国の政府内の議論を見ていて感心するのは、政治がきちんとあることです」などとシナを過大評価するのはいただけない。中国にあったのは政治ではなく蒋介石一派の私利私欲による生き残りの議論ばかりであって、だからこそ中国国民党は滅亡し、共産党に敗北してしまったのだという当時の中国の暗黒面はバーバラ・タックマン著『失敗したアメリカの中国政策 ビルマ戦線のスティルウェル将軍』に書いてある通りだ。胡適の夢は破れ、彼は台湾に亡命し、彼の地で中国の転落と日本の躍進を歯噛みしながら眺めて晩年をすごしたはずだ。著者はタックマンの著作を読んでいないのではないか。

あと、もうひとついただけないのは、日本が捕虜にした米兵の死亡率とドイツが捕虜にした米兵の死亡率を比較し、さもドイツが文明的で日本が残虐であったかのごとき結論を誘導している部分だ。例えばドイツが捕虜にしたロシア兵の死亡率や、逆にロシアが捕虜にしたドイツ兵の死亡率をも調べないと、「日本だけが野蛮」ということにはならないと思う。ちなみにウィキペディアによればドイツ軍の捕虜になったロシア兵の数は550万人でうち350万人が死亡し、死亡率は60%にも上るという。これってちょっとすごくないか。ドイツ軍はアメリカ兵捕虜とロシア兵捕虜では扱いが相当違ったみたいですなあ。

著者は娘と同じ桜蔭の出身だ。娘には50歳近くになって「生まれてはじめて男子校に足を踏み入れた」などとならぬよう、今のうちから開成、麻布、筑波大附属駒場あたりの学園祭に足を運ぶよう忠告しておいた(笑。

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歴史の考え方を教えられた

2010/11/19 11:33

15人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:玉造猫 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 本書は、神奈川県の私立の学園で、中学1年から高校2年までの歴史研究部のメンバー20人ほどを相手に、東大教授加藤陽子さんが行った授業をまとめたものである。まず感じたのは、中高生対象と聞いてふつう予想するのとは違う内容の濃さだった。歴史の知識を生徒に講義するのではない、ある事柄についてそれが何を意味するのかを自分で考えさせる。生徒さんたちがまたけっこうしっかり食いついていく様子が魅力いっぱいだ。

 序章から、こんな展開でいきなり戦争の本質に食い込んでいく。
 加藤 そもそも戦争に訴えるのは、相手国をどうしたいからですか。
 生徒 相手国に、こちら側のいうことを聞かせるため。  
加藤 いいですね。政治の方法、外交交渉などで相手を説得できなかったときに力で相手を自分のいいなりにさせる、ということですね。
生徒 相手国の軍隊を打ち破って、軍事力を無力化する。
加藤 これもなかなか鋭いです。――戦争についての最も古典的な定義は、クラウゼヴィッツが書いた「戦争は政治的手段とは異なる手段を持って継続される政治にほかならない」というものでしょうか。――では戦争というものは、敵対する相手国に対して、どういった作用をもたらすと思われますか。戦争で勝利した国は、敗北した国に対して、どのような要求を出すと思われますか。
 生徒 負けた国を搾取する。占領して、敗北した国の構造を変えて、自分の国に都合のよいような仕組みに変える。
加藤 イラクに侵攻したアメリカが、やろうとして、なかなか果たせなかった、そして今でも果たせない願望ですね。とてもいいポイントをついています。それでは、そろそろ答えをば。
 そこで長谷部恭男『憲法とは何か』から、ルソーの「戦争は国家と国家の関係において、主権や社会契約に対する攻撃、つまり、敵対する国家の、憲法に対する攻撃、というかたちをとる」との言葉が出てくる。頁の下にルソーの顔写真がまんが風の吹き出しで「戦争とは相手国の憲法を書きかえるもの」と言っている。
 ついで、アメリカが日本に勝利して日本の憲法を書きかえるとなった、では戦前の日本の憲法原理とはなんだったか、と加藤さんは問い、天皇制、国体と答えを引き出していく。
 序章をここまで読んで、わたしは、高校生の時こんな風に歴史を語る先生に出会いたかった、と思い、歴史とはこのようにして考えていくことなのだと思った。
 ここまでで45頁。こうした生徒とのビビッドな対話を挟みながら講義は約400頁、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、満州事変と日中戦争、太平洋戦争と続く。ほぼ10年おきに戦争を行ってきた日本近現代、そのときどきの戦争をなぜ、どのように、日本人はというより日本の指導者層は選んだか。つまりどのような国の経済、国際政治の条件で国が戦争を選んだか。

 正直に言って、わたしには本書は難しかった。難しい理由はこのマクロのところにあると思うのでやむを得ないと言うか、2度目読んだら次はもう少し理解できると思う。日中戦争、太平洋戦争の項に読み進むと、記述が細部に渡り具体的になって、わたしには分かりやすかった。
 ちなみに章の副題を見ると、日清戦争の項では「「侵略・被侵略」では見えてこないもの」、日中戦争では「日本切腹、中国介錯論」、太平洋戦争では「戦死者の死に場所を教えられなかった国」となっている。

 この「日本切腹、中国介錯」は、わたしは初めて読むことで、衝撃を受けた。
 これは中国の駐米大使だった胡適が1935年の時点で言った言葉という。――中国は3年か4年、絶大な犠牲を覚悟しなければならない。日本に内陸部深くまで侵略され海岸線を封鎖されて初めて、英米とソ連が介入する。中国はアメリカとソ連の力を借りることで最終的に日本に勝利する。今日日本は切腹の道を歩いている。切腹の実行には介錯人が必要である。すなわち「日本切腹、中国介錯」の戦略である――。
 中国は実際に内陸の武漢を陥落させられ重慶を爆撃され、長江が封鎖され天津、上海も占領されたが、降伏しなかった。太平洋戦争が始まり、胡適の言葉通りになった。

 もうひとつ、目から鱗の歴史の発見があった。満州への開拓移民について。
 満州の開拓移民生活の実情がわかり、長野県で応募者が減ってくると、国や県が助成金を出して村ぐるみの分村移民政策を打ち出す。経営に苦しい村は分村移民に応じ、補助金獲得に狂奔する村が出始め、補助金をもらうための開拓民の争奪も起こる。だが中に見識のあった村長もいて、「助成金で村民の生命に関わる問題を容易に扱おうとする国や県のやり方を批判し、分村移民に反対した。」

 さらに、はっとした歴史。太平洋戦争末期、国民の摂取カロリーは1933年時点の6割に落ちていた。農民が国民の41%も占める国で、なぜこのようなことが起こったのか。工場の熟練労働者には徴兵猶予があったが、農民にはなかった。農業生産を支える農学校出身の農業技術者も国は全部兵隊にしてしまったので、44年、45年と農業生産は落ちる一方だった。

 歴史の読み方考え方を、わたしは本書で教えられた。それにしても、5日間でこれだけの授業を受けとめたみなさんがいるということは、日本の中学高校生も捨てたものじゃない。              

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「対話型授業」を日本近現代史でやってのけた本書は、「ハーバード白熱授業」よりもはるかに面白い!

2011/08/21 17:06

8人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:サトケン - この投稿者のレビュー一覧を見る

  「歴史にはイフはない」とは凡庸な歴史家たちの常套句である。歴史が人間の営みの軌跡である以上、その時点その時点における判断と意志決定がその後の歴史の流れを大きく左右していく。その判断と意志決定がなぜ、いかなる状況のもとでなされたかを、当事者意識でもって自分のアタマで考えることこそが、ほんとうの歴史を知ることの意味であるのだ。

 これは政治リーダーだけではなく、日本国民の一人一人に求められていることだ。なぜなら、国民は投票や世論形成など、その他さまざまな形によって意思表示し、歴史の流れを変えることも不可能ではないからだ。

 この「授業」は、受験界でも有名な私立男子校・栄光学院の歴史研究部のメンバーを対象に行ったものだそうだが、ビジネスマンのわたしからみると、ある意味ではハーバード・ビジネス・スクールで用いられる経営史のケーススタディにも近いものがある。歴史を傍観者としてではなく、当事者として考えて見よという姿勢が一貫しているからだ。

 とはいえ、そのときどきの政治指導者や軍事指導者の立場にたって、最善の政策を考えよという授業は高校生にはきわめてヘビーなものだっただろう。大人でも考えながら読むのはヘビーなのだから(笑)。しかし、知的好奇心が強く、向上心のある人間にとっては最高に刺激的な授業であろう。

 順序に従って「まえがき」と「序章」から読み始めたが、第3章からはがぜん面白くなり始めた。大衆社会が進展するなか、その当時はまだ男子に限られていたとはいえ、一般人が歴史の動きに、さまざまな方法によって参画し始めることが可能となってきたためであろう。英雄豪傑や傑出した指導者の人物史ではなく、本書の主人公はじつは「日本国民」そのものである。その時代、その時代を、地政学的条件や社会資本の蓄積がいまだ十分ではないといったさまざまな制約条件のもとで精一杯生きてきた日本国民である。それはわれわれ自身であり、われわれの父母や祖父母、そしてそのまた先の世代の話でもある。

 明治維新以来、徴兵制や義務教育の普及によって「国民国家」の「国民」として成長してきた「日本国民」。名もなき市井の一般人が「国民」の一人として「声」を持ち、「声」の集合がチカラを発揮していったプロセスが日本近現代史そのものである。

 このプロセスは、日清戦争と日露戦争からすでに始まっていたことが著者によって示される。国民の意思が何らかの形で反映していたのである。「総力戦」の時代においては、すでに戦争は政治家と軍人のものだけではなくなっていたのである。戦死という多大な犠牲を払うことになる国民の支持なくしては、たとえ軍部といえども勝手に動くわけにはいかなかったのである。「空気」をつくりだしたのは、じつは国民自身による世論であった。

 第3章と第4章がとくに面白いのは、今年(2011年)初頭から始まった中東世界の「民主化革命」や中国の状況を、デジャヴュー感覚でみているような気がするからだろう。フランス革命後もその典型であったが、国民国家は国民統合の求心力を外敵との戦争に求めやすい傾向がある。軍が権力の中心にいて、農民比率の高い社会というのは、近代化をすすめる発展途上国ではよくある話だ。もちろん安易な比較は禁物であるが。

 第3章と第4章にくらべて、第5章がやや精彩を欠くのは、分量的にすくなく、やや物足りない気がするだけでなく、誰もがその破局的な結末を十分すぎるほど知りすぎているからかもしれない。「大東亜戦争」(・・著者は「太平洋戦争」としているが)の結末を知らないという前提で、昭和16年(1941年)までの状況を直観的に理解するのは、じつはなかなか困難な課題なのだ。本書でも、後付けの説明にならないように、著者もかなり努力をして説明を行っているのだが、読者の側にそうとう程度の知的な取り組みとイマジネーションがなければ、ありのままの事実を受け止めるのは難しい。

 本書は、かなり刺激的なタイトルであるが、中身はいたってロジカルなレクチャーと議論がぎっしり詰まった本である。「アタマの体操」として、ぜひ一度は読んでみることを多くの人にすすめたい。

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この国の体

2010/12/29 22:46

7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:kc1027 - この投稿者のレビュー一覧を見る

ルソーは、「戦争とは相手の国の憲法を書き換えるもの」と言った。
憲法とは、ある国が最も大切にしている社会の基本秩序・基本原理を
成文化したものだとすると、戦争とはその社会を成り立たせている
秩序なり原理なりを巡る攻防ということになる。
ということは、戦争を生み出すのは、憲法に代表される「言葉」なのか?

今年の小林秀雄賞を受賞した本書は、日清戦争から太平洋戦争まで、
大国の狭間で日本人が選択してきた戦争の歴史をつづっている。
それは、憲法を持ったばかりの極東の国家が、「天皇を中心とした
日本」という国体をなんとか生き長らえさせようとする物語で、
歴史という物語に固定化されそうな人物たちを、生きた世界の
生きた人間として紡ぎ直す試みでもある。

本書でもっとも印象に残ったのは、国際連盟脱退に至る経緯を巡る章。
満州事変後、国際連盟によって日本と中国の和解案が模索されている
最中、日本は中国熱河地方に軍を侵攻させた。連盟が解決に努めている
ときに新たな戦争に訴えた国は、すべての連盟国の敵とされる。
この作戦はきちんとしたルートで閣議決定され裁可されたもので、
陸軍としては満州防衛のための作戦の1つ、くらいの認識であったが、
結果は全ての連盟国を敵に回す事態であった。事の重大さに気が付いた
天皇や首相は作戦命令を取り下げようとするが、前言を翻すことによって
天皇の権威が下がることを恐れる元老や侍従武官はそれを認めないよう
天皇にアドバイスする。その後、日本は連盟を脱退せざるを得なくなる。

天皇を中心とする国体を維持するための判断が、やがてその国体
そのものを書き換えられる結果を呼び込んでしまった。あとから来る
人間にはその結果がわかっているため何とでも言えるが、主権者の
判断を主権者が修正できなかった国家の歴史は、多大なる犠牲の上に
他国によってリセットされることになってしまったわけである。

果たして現代に生きる我々は、主権者である我々の選択は、
今の国体を維持・向上させる選択をしているだろうか?
誤った選択には修正を加えることが出来ているだろうか?
小林秀雄は、「勇ましいものはいつでも滑稽だ」と喝破したが、
為政者の勇ましい言葉の裏に隠された真の意図を読み取ることが
出来ているだろうか?

そう考えると、今の宰相が唱える最小不幸社会というのは、ぜんぜん
勇ましくない。流血なしに、しかも改憲の可能性もかなり低い憲法も
書き換えることなしで、不幸じゃない社会を築き上げるには、
言葉の肉体性とでもいうような、生きた人間による洗練されたライブな
言葉が必要なんではなかろうか?高校生への講義をベースにした本書は、
勇ましくなくたって若者を魅了する生の言葉に溢れていて、知性の
闘争である人間の歴史に、自分が飛び込む勇気まで、与えてくれる。

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一所懸命勉強して、一所懸命伝えようとすると、こんなにすごい本が出来る。

2010/02/25 22:09

17人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:みどりのひかり - この投稿者のレビュー一覧を見る



 一所懸命勉強して、一所懸命伝えようとすると、こんなにすごい本が出来る。
 「昭和史」半藤_一利著も読み応えがありましたが“それでも、日本人は「戦争」を選んだ”はそれを超えます。

 満州事変、日中戦争、太平洋戦争は、何ゆえに軍が暴走を始めたのか。次に引用します。


 統帥権独立という考え方は、山県有朋が、西南戦争の翌年、一八七八(明治十一)年八月に、近衛砲兵隊が給料の不満から起こした竹橋騒動を見て、また、当時の自由民権運動が軍隊内へ波及しないように、政治から軍隊を隔離しておく、との発想でつくったものです。自らこの年、参謀本部長となった山県は、軍令(軍隊を動かす命令)に関することはもっぱら参謀本部長の管知するところ、との規則を定めます。山県の動きを見ていると、どうも、自由民権運動に恐れをなして、軍隊への影響を止めるようにしたということだけでなく、自らも指揮した西南戦争における、西郷との戦いの教訓が大きく影響していると思います。軍事面での指導者と政治面での指導者を分けておいたほうが国家のために安全だ、との発想、これは反乱を防ぐためにも必要なことだったでしょう。
 先に、レーニンの後継者がスターリンにされたことで人類の歴史が結果的にこうむってしまった災厄を話しましたが、この西郷の一件と統帥権独立の関係も、人類の歴史が結果的にこうむってしまった災厄の一つといえるかもしれませんね。日中戦争、太平洋戦争のそれぞれの局面で、外交・政治と軍事が緊密な連携をとれなかったことで、戦争はとどまるところを知らず、自国民にも他国民にも多大の惨禍を与えることになったからです。


ここで、レーニンの後継者がスターリンにされた、というところも引用しますと、


 [後にボリシェビキ(多数派を意味するロシア語)といわれるグループの]人たちは、一七八九年に起きたフランス革命が、ナポレオンという戦争の天才、軍事的なリーダーシップを持ったカリスマの登場によって変質した結果、ヨーロッパが長い間、戦争状態になったと考えていました。
 そのことを歴史に学んで知っていたボリシェビキは、ロシア革命を進めていくにあたってどうしたか。これは、レーニンの後継者として誰を選ぶかという問題のときにとられた選択です。ナポレオンのような軍事的カリスマを選んでしまうと、フランス革命の終末がそうであったように、革命が変質してしまう。ならばということで、レーニンが死んだ時、軍事的カリスマ性を持っていたトロッキーではなく、国内に向けた支配をきっちりやりそうな人、ということでスターリンを後継者として選んでしまうのです。


 過去の歴史に学んで同じ轍は踏むまいとするわけですが、別の悪い事態を生んでしまう。これについて考える時、思いうかぶ本があります。

歴史は「べき乗則」で動く

複雑系_図解雑学

 ロジスティック差分方程式やカオスのことが出ています。

 カオスは生物や物理といった自然界のことだけでなく、歴史や政治や経済においても考えておかなくてはならないことでしょう。

 “それでも、日本人は「戦争」を選んだ“には、人口のことも出て来ています。自国の人口増加に対して植民地支配ということに解決の道が求められたことが若干書かれているのですが、著者加藤先生はどの程度人口問題を重要視していたのでしょう。あまり書かれていません。

 人口増加にどう対処するか、武器の進化に伴い未開の国との軍事力の差が圧倒的になったことが、ヨーロッパの帝国主義、植民地支配を可能にし、多くの被害者の国がつくられて来ました。日本もその被害者の国になるところを、武器の近代化に成功し、かろうじて植民地にならずにすんだ。みじめな植民地にならないよう急ピッチで軍事力を整え、日清、日露の戦争を戦ってきた。(加藤先生は、これらの戦争はヨーロッパのA郡の国々とB郡の国々の代理戦争だという。日清ではAはロシア、Bはイギリス。日露ではAはドイツ・フランス、Bはイギリス・アメリカ。なるほど、そういうことだったのか、とも思う)
 だがそれをやっていくうちに日本にも人口の大幅増加が訪れる。ヨーロッパの国々がやったように、日本も植民地に自国の増えすぎた人口を吐き出す政策をとるようになる。はじめはヨーロッパ列強に植民地化されないための戦いだったが、やがてそれだけに留まらなくなる。ここでも、諸外国との軋轢が生じてくる。

 この本は、経済、軍事、政治、その他各面から国際関係をよくみていると思う。ただ人口のことも書いているが少ない。

 私は現在地球上にいる、あらゆる生物はどの種の生きものも常に食糧不足に直面している、というこを”歴史は「べき乗則」で動く”や”知事抹殺”に、書きました。

 戦争の一番大きな原因は食っていけないというところにあると私は思う。この本は経済と軍事のことが中心です。歴史の見方としては、これも重要ですが、人口問題への言及少ない。経済問題で戦争が始まるように書かれていますが背後にある飢えの問題をもう少し取り扱ってほしかった。

 この本にはエントロピーの項目はありません。日本、アメリカなどの現在の不景気と中国の発展の背後にはエントロピーの増大ということがあります。温度の異なる二つの物体が隣り合わせに接して熱の伝達が行なわれると、やがて低い方は高くなり、高い方は低くなってお互い同じ温度に近づきます。これはエントロピーの増大です。
 賃金も同じで、低い賃金の国と高い賃金の国があって貿易がありますと、やがてそれらの国の賃金は等しくなる方へと近づいていきます。これもエントロピーの増大です。

エントロピーについては

こちら

こちら

に私の簡単な説明がありますので参考にして下さい。

 エントロピーということを考えると地球規模の経済成長はいつまでも続けることは出来ないのですが、何故か経済が成長することが不可欠のようなことがいわれ続けています。不思議です。

 著者がエントロピーのことに触れなかったのはどうしてなのだろうかと思う。イギリスの元首相サッチャー氏はオックスフォード大学で化学を学びLangmuir- Blodgett膜の研究を行っていたそうだからエントロピーの重要性はよくわかっていたでしょう。

 歴史もエントロピー項を含めて考えなければならないと私は考えていますが加藤先生はどう考えていたでしょう。

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本当は知りたい現代史

2017/01/31 19:27

4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る

高校の日本史の時間にたいてい時間切れになって、教科書を読んでおいて、で済まされてしまう現代史。ところが、本当は現代史こそ知りたい、歴史を身近に感じられる分野なんですよね。そうした中で本書に出会いました。高校生にも読み通せる文体なのがいいです。

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今だからこそ

2016/05/28 10:29

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ぽにょ - この投稿者のレビュー一覧を見る

高校生との対話、授業の中で、太平洋戦争に突き進んでいったかつてに日本の状況を取り上げており、非常に分かりやすい。

かつての状況に似てきている今だからこそ、読んでおくべき一冊。

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歴史学の魅力に触れられた

2021/11/06 09:40

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:makiko - この投稿者のレビュー一覧を見る

日清戦争から太平洋戦争までを題材にして、日本が戦争に進んで行った経緯を様々な角度から事実を分析して読み解いていく内容。埼玉県の栄光学園の歴史研究会に所属する生徒を対象として著者が数日にわたって講義した内容をまとめた本。
歴史が単なる暗記物ではなく、実に魅力的な学問であるということがわかります。直面している課題を解決しようとする際に、我々は過去の同様の事例からヒントを得ようとしますが、歴史を広く深く理解しているほど精確なヒントを得られるので、しっかり歴史を学びましょう、というのが著者の言いたいことだと理解しました。題名からは、戦争に対する反省本の1つかと思いましたが、全然違いました。

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ロシアの始めた戦争が100年前の日本と重なる

2022/05/12 19:18

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:バラガン - この投稿者のレビュー一覧を見る

ロシアの脅威に対する緩衝地帯として、朝鮮半島の支配が必要だった100年前の日本。
ロシアのウクライナ進攻と重なる部分が多くて愕然とする。歴史の勉強がいかに大事か!にもかかわらず同じ間違いを我々は何度繰り返すのか?
今こそ読むべき本です!

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アメリカのせいだと思っていた

2017/11/07 13:13

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:プロビデンス - この投稿者のレビュー一覧を見る

とても内容の濃い本。高校生が賢くて舌をまく。なぜ日本人は戦争に走ったのか、それはやはり日本人が選んだからだった、ということなのか。アメリカ相手に開戦したときに日本人が「晴れ晴れとした気持ち」だったとはしらなかった。しかし、戦争も後期になると、大本営のせいのような。。いや、これも最後の悲惨さが強く記憶に残ってるからなのかもしれない。

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色々と発見のある本でした。

2016/04/20 21:52

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投稿者:けやき - この投稿者のレビュー一覧を見る

政党なんかより陸軍の統制派の方が国民向けの政策を打ち出していたんですね。他にも色々な発見のある本でした。

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「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」タイトルほど堅い内容じゃない、何故か泣ける

2010/05/09 09:35

23人中、22人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:soramove - この投稿者のレビュー一覧を見る

この本はTV番組「週間ブックレビュー」で紹介されていて、
興味を持ちネットで注文し、地下鉄の移動で読んだ。



「もう戦争しかない」
何故当時の日本人が、
そしてその最高の決定機関の頭脳達が
そんな結論を出したのか。


まずはタイトルに惹かれた、
それから学者である著者が高校生への5日間の講義として
語った内容をまとめたものと知り、
その位の内容なら大丈夫かなと。

大丈夫は大丈夫だった、
特に難解な部分は無かったし、読みにくい部分も少なく、
こういった教養本特有の「分かる人だけ読めば」的なものじゃなく、
伝えようとする熱意さえ感じられる内容だった、
手書きの地図や折々の登場人物の手紙や
実際に語った言葉などは
その時の空気感までが伝わる気がした。

実際にこの講義を受けたかったな、
そうすれば感じ方ももっと違っただろう。

この本を読んでいて、何度もおかしな感情に出会った、
それは当時の東大を出て留学経験まであるような
最高の頭脳を持った人たちが
ある決定をする時、当然自信を持って
良き未来を願っていただろうが、
その決定がのちの日本の敗戦につながることを
自分は歴史の事実として知っているから
堅い文章を読みながら
泣けてくるんだ、これが。


自分でも何泣いてるんだってところだけど、
他国を蹂躙し、ただ自国の繁栄だけを
彼らが望んでいたわけじゃない、
その当時の各国の動きと、国内の要請等々、
様々な事柄がついに「開戦」という言葉を導いたとき、
歴史ってものについて
改めて大切な勉強であり、知識だと痛感した。

もう今は大人なので何年に何が起こったと
暗記する必要はない、
でも近代の大きな流れを知らないのは
やはり間違っていると。


こういう事実に基づいてそれを知ることから
さらにその事実をどう考えるか
中学や高校のいつかの時期に皆で議論したかったな、
大人になるとそんなことを真面目に誰かと
自分の考えを言い合うなんてないからね。


終戦の前から1年あまりで、開戦からの
戦死者の9割が亡くなったと知り、
もっと決断が早ければと感じた、
自分たちが今、選んでいる
この国の政治を動かしている人達はそ
の選択をちゃんとしてくれるだろうか、
もう戦争はないだろう、
でも現実問題として政治の力で救える命もあることも知っている。

こういう本の存在を知ることが出来て良かった。

http://yaplog.jp/sora2001/

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ひとつひとつは妥当でも、つなげると不適当

2010/02/01 19:31

13人中、13人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る

 2007年末から翌年に、中高校の歴史研究部員向けに実施された集中講義の講義録。日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、満州事変・日中戦争、第二次世界大戦と、明治維新以降になぜ戦争が立て続けに起きたのかという問いに対して、日本の安全保障政策、他国の情勢、日本の国内事情を関連付けて説明している。高校生を対象とした講義なのだけれど、受講する高校生の知識レベルも高いので、内容的にはかなり専門的だと思う。さらに口語調なので、個人的には文章の論理性が理解しにくい部分もあった。

 当時の日本の安全保障上無視し得ない国は、ロシアと清だったらしい。特に、シベリア鉄道を敷き、不凍港を獲得すべく南下圧力を強めるロシアは脅威だった。もしロシアが朝鮮半島を勢力下におけば、日本の死命は制されてしまう。シュタインの指南を受けた山形有朋は、朝鮮半島を日本の影響下におくことを目指して策動する。そのためには、過去の経緯から周辺国と朝貢関係にあった清の影響力をも減らさなければならない。このような論理によって、日本は清との戦争に突入した。
 日清戦争は、日本の国内政治にも意外な影響をもたらす。三国干渉の結果、遼東半島を清に返還することになった政府を弱腰と見た世論は、自由民権運動を活発化させ、国政の行方が選挙により定まる方向へと向かうことになる。

 日清戦争で朝鮮半島に足がかりを作り、ロシアに対する防壁を構築することに成功したかに見えた日本だったが、清がロシアに近づく結果を招き、ロシアは満州を勢力下において、朝鮮半島にも手を伸ばしてくることになる。ロシアの強硬姿勢もあり、外交による解決が望めなくなった日本は、満州の巨大な市場を列強諸国に開放するという名目で列強諸国を味方につけ、朝鮮半島支配による日本の安定化を目指してロシアとの戦争に突入する。
 日露戦争に勝利することはできたものの、賠償金を取ることもできない政府に世論は憤る。当時の有権者は直接税15円以上を納める男子に限られていたが、戦費負担の増大により納税負担が増えた結果、有権者の多様化を引き起こし、これは国政の行方にも影響を与えていくことになる。

 このような議論が3章以降も展開されることになる。日本の安全保障という基本的な政策を実現しようとして、最善と思われる手を打っていったにも拘らず、それが次の戦争にもつながり、さらに内政にも有権者の多様化という形で影響を与えていくという、これまで自分がはっきりと自覚していなかった歴史のつながりが明らかになり、面白かった。

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このぐらい贅沢に時間を使った授業を受けたかった。

2009/12/28 16:50

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 新しく発見・公開された資料からの知見も入れ、高校生向けの特別講義といいながらも、とても濃い内容である。昔高校で受けた授業では、日本史は近代史の途中までで終わってしまったので、改めて高校時代に戻ったような気持ちで読んだが、かなり高度であった。
 あのころは戦場経験のある教師もいて、ある思いいれから軍服、ゲートルをやめなかった教師がいたことを思い出した。第二次大戦などについては、きっと教える側にも「こう考えたい」「触れたくない」などの気持ちも生々しくてあまり冷静、客観的な教育はできなかった頃でもあっただろうと思い起こす。やっとそれができる世代になってきた、というところでもあろう。

 質問形式で考えさせる講義は、こちらも自分で考えることを促されるのでなかなか良い。しかし、落とし穴もある気がした。短い講義時間なので、講義するものの意図する答えに導くために、なんとなく誘導尋問的になってしまうことである。「はい、それが答えです。」などという言葉に収束してしまう部分を読んでいると考えてしまう。「試験になれた生徒は、自分で考えるというより、こういう答えを要求しているな」と忖度するようになっていくだけなのでは、と。
 歴史は、この講義でも語られているように「どうとらえるか」がはっきりと表にでる学問である。現在の資料や知見に基づいた、著者なりの、現時点での答えである、ということは強調しすぎてもしすぎることはないのではないだろうか。著者の考えを拝聴しながら、自分なりの歴史観、未来への視点を形成できる力をつける、という方向がもう少し感じられたらよかった、と思う。
 それでも、ここまで考えながら読ませてくれるというのは、大変「啓発的」な本であることのあらわれであろう。手段としてはよい形式であったと評価しておきたい。

 以上の様な意味合いで、「歴史の考え方」への著者の考えを述べた序章が私には一番興味深かった。著者は「序章は飛ばして本章の近代史を読んでもよい」と言うが、具体的な近代史の「著者の解釈」を読む前には、やっぱりここは飛ばさない方が良いと思う。

 大学の先端研究者が、高校生へ講義をする。これはどこかであったような、と思ったら『単純な脳、複雑な「私」』。同じ出版社の編纂であった。
 これほど充実した内容で充分時間をかけて講義してもらえれば、理科でも社会でも、どんな課目でもきっとなにかしら興味を持てるものが見いだせるのかもしれない。この企画、他の分野でもぜひお願いしたいものである。
 この本のもとになった特別講義も、クリスマスから翌年にかけてのこと。今年もどこかでこのような講義が行われ、しっかりと受け止める高校生がいることを期待したい。

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表紙には「高校生に語る」とあるが、内容はかなり高度

2009/11/27 20:46

5人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る


 東大大学院教授で日本近現代史を研究する著書が、神奈川県の中高一貫私立校の生徒を相手に5日間行った講義の内容をまとめたものです。

 序章の「日本近現代史を考える」は大変興味深く読みました。
 戦争とは相手国の憲法を書きかえるものであるというルソーの考えは、言われてみれば頷くところの多いものです。
 また過去の記憶である歴史(ソ連に接近した中国が共産化することを許した)を誤用することによってベトナムという新たな戦地に深入りしていったアメリカという解釈も、歴史を学ぶことの面白さと危うさが背中合わせである様子を見る思いがしました。

 序章に続いて著者は、日清・日露の明治期の戦争、第一次世界大戦、満洲事変と日中戦争、そして太平洋戦争と、各時代の日本政府がどのように戦争への参加を決定していったかについて大変詳細に語っていきます。
 その内容はかなり高度なもので、高校生はまだしも、中学生にはなかなか理解が進まないのではないかと心配になるほどです。
 しかし講義を聞く生徒たちからは、これまたかなり高度な内容の質問が発せられ、この生徒たちの学力の高さが伝わってきます。
 本書によって広く日本の中高生が、いかに戦争が選択されていったかについて等しく理解を深めることができるというわけではなさそうに思います。

 私自身、本書を読了しても「なぜ」日本人が戦争に突き進んでいったのかその理由について了解できたとまでは言えません。
 著者自身がいみじくも終盤で記すように、日本人には先の大戦に対して加害者意識よりも被害者意識が強く残っていて、そんな日本の読者にとって本書は、戦争に積極的にコミットしていったのは、やはり「日本人」というよりは「おかみ」であったという意識を強化するだけではないかという気がします。

 ですからタイトルは「それでも、日本は『戦争』を選んだ」というほうが似つかわしいような印象が残りました。

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