かたみ歌(新潮文庫)
著者 朱川湊人
不思議なことが起きる、東京の下町アカシア商店街。殺人事件が起きたラーメン屋の様子を窺っていた若い男。その正体とは……「紫陽花のころ」。古本に挟んだ栞にメッセージを託した邦...
かたみ歌(新潮文庫)
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商品説明
不思議なことが起きる、東京の下町アカシア商店街。殺人事件が起きたラーメン屋の様子を窺っていた若い男。その正体とは……「紫陽花のころ」。古本に挟んだ栞にメッセージを託した邦子の恋が、時空を超えた結末を迎える「栞の恋」など、昭和という時代が残した“かたみ”の歌が、慎ましやかな人生を優しく包む。7つの奇蹟を描いた連作短編集。(解説・諸田玲子)
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時の過ぎ行くままに
2010/11/16 08:35
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この春、母が亡くなりました。
満開の桜を見せてあげたかったけれど、それは叶いませんでした。けれど、ようやく咲きかけた桜を母はひとひらふたひら見ただろうかと思うことがあります。
愛する人がいなくなるということは、そういうささやかな悔いが残る思いがあるものかもしれません。でも、きっとそのあと、満開の桜を見にそっと母は私たちのそばに来ていたようにも思います。なにしろ、賑やかなことが大好きは人でしたから。大きな口をあけて、楽しそうに何度も手をたたいて笑っていたのではないかと。
昭和40年代の東京の下町。都電の線路そばにあるアーケードのついた「アカシア商店街」。その近くには「何でも、あの世と繋がってるっていう噂のある」覚智寺という古寺があって、そんな街におこる不思議を描いた連作集が『かたみ歌』という作品集です。
その頃のこの国は成長期にありましたがまだまだ成長段階でしたし、その分どこかにこの作品で描かれているような人情が残っていた時代でもありました。
そんな時代背景があるからこそ、これらの作品で描かれる不思議がけっして奇想天外なものには思えないというところもあります。
死者がそこにいてなんの不思議があるでしょう。
そういうことを人々は純粋に信じていれた時代だったといえます。
夕暮れになれば、長く伸びた大きな影は人さらいの恐怖でした。子供たちはそんな恐怖にやせ我慢しながらも家路につきました。小さな裸電球のあかりでさえ、恋人たちは温かみを感じてもいました。貧しいけれど、それらはなんとなく幸せだった風景です。
死者を遠くに追いやらない風景です。
悲しみを受け入れる風景だったのです。
「日々誰かが去り、日々誰かがやってくる。時代も変わり、流行る歌も変わる・・・・けれど人が感じる幸せは、昔も今も同じようなものばかりですよ」
登場人物のこのせりふは心に沁みますが、それからもっと時代が変わり、「人が感じる幸せ」も変わってしまったと思うのは、私だけでしょうか。
この春、亡くなった母はこんな人情話が大好きな人でした。
◆この書評のこぼれ話は「本のブログ ほん☆たす」でお読みいただけます。
懐かしい昭和の薫りを醸し出している『かたみ歌』
2010/11/14 14:39
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:サムシングブルー - この投稿者のレビュー一覧を見る
『かたみ歌』は東京・下町にあるアカシア商店街を舞台にした7つの連作短編集です。
アカシア商店街という名の通り、レコード屋の流星堂からは「アカシアの雨がやむとき」の曲が流れ、商店街は賑わい、まだご近所づきあいのあったころのお話です。
第1話『紫陽花のころ』は、三十年前に都電の線路沿いにある古いアパートの二階に越してきた小説家志望の青年が体験した話です。第1話を読み終えて、温かさと同時に異質な怖さを感じ、不思議な感覚を受けました。
全編に登場するアパートのすぐ隣にある寺・覚智寺と、古本屋・幸子書房の気難しい店主はキーパーソンです。
そして最終話『枯葉の天使』になって、新たに古いアパートの二階に越してきた若い夫婦を通して、ずっと謎だった古本屋の店主・川上の話が完結されています。
しかし、連作集を読み終えてもう一つ、「幸子書房」の短編を読んだ思いがしました。その川上老人のかたみ歌はなんだったのでしょう。
「シクラメンのかほり」で始まるたくさんのかたみ歌たちは物語のエッセンスとなり、懐かしい昭和の薫りを醸し出していました。
今、心が乾いた時代と言われています。良き時代を懐かしむだけでは何も変わりません。いろいろな本を読むことで、自分と向き合い、自分を好きになれたら、家族や他人に優しくなれると思います。
本書は朝日新聞の読書面「本の舞台裏」で知りました。次回は直木賞受賞作『花まんま』を読んでみようと思います。
「かたみ歌」という短篇があるわけではない
2019/06/09 09:38
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たあまる - この投稿者のレビュー一覧を見る
「アカシア商店街」のある街の7つの物語から成る短篇集。
「かたみ歌」という短篇があるわけではない。
それぞれの物語は少しずつ重なり合ってつながり合っている。
それぞれに流行歌が出てくるので、時代が分かる。
その歌をリアルタイムで聞いていた読者には、切実に時代性が分かる。
「シクラメンのかほり」
「愛と死を見つめて」
「モナリザの微笑」
「黒ネコのタンゴ」「いいじゃないの幸せならば」
「世界の国からこんにちは」「圭子の夢は夜ひらく」
「瀬戸の花嫁」「みなし子のバラード」
「心の旅」「赤とんぼの唄」、
岡林信康に吉田拓郎、
そして全篇を通して「アカシアの雨がやむとき」。
といっても、歌が主人公ではない。
この街に暮らす人々の哀しさや切なさとそれぞれの歌が、響き合ったり、そぐわなかったり。
歌はあくまでもバックグラウンド。
でも、とても重要なバックグラウンド。
古本屋の主人が重要な役回りなんだけど、有名な野球選手と同姓同名という設定。
で、最後にそれがだれか分かったときも、時代をひしひしと感じた。
還暦を過ぎた私たち世代だからこそ楽しめる部分がある。
けど、もちろんそれ以外の世代も楽しめるはずだ。
時代設定だけに頼らない、しっかりした短篇集である。
不思議な出来事が心の琴線を刺激するノスタルジック・ホラー
2011/04/27 17:13
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和40年代、東京下町都電線路沿いのアーケードのついた『アカシア商店街』
近所の覚智寺には、あの世と繋がっているという噂がある。そのせいかこの辺りでは不思議なことが、以前から起こっているとか。
本書は『アカシア商店街』周辺の住人が体験した、不思議な出来事が7編収録されている。
そのどれもがもの悲しく、しかし仄かに暖かい。その気持ちを揺り起こすのは、『アカシア商店街』界隈で起こる不思議な出来事である。
電柱の影でラーメン屋を見つめる男の境遇が、若い男女の心に変化をもたらす【紫陽花のころ】
少年の死を予告する文を貼り続ける学帽の子の謎【夏の落とし文】
古本屋の本の栞を通して紡ぐ、恋の文通【栞の恋】
死んでなお帰宅する暴力亭主と、それを待つおんなごころ【おんなごころ】
肉体を失った猫の魂との、ひとときの暖かなふれ合いを描く【ひかり猫】
死ぬ者に現れる、朱鷺色の兆しを見つけた男の恐れ【朱鷺色の兆し】
死んだ妻との邂逅を待つ古本屋の主人の元に、幼い使いの天使が訪れる【枯葉の天使】
7編の中で【栞の恋】が、もっとも暖かで心地よくさせてくれた。
文通という古い交流の手段が、心の通った純粋な思いを読むものに届けてくれる。気持ちのこもった栞を届ける、本という仲立ちの存在が、琴線を心地よく弾いてくれるのだ。そして、意外な結末によって、驚きとともに言いようのない幸福感に満たされる。
この作品は、堀北真希主演でTVドラマ化され(世にも奇妙な物語『栞の恋』)、栞の文通相手に恋心を抱く女性の気持ちを、原作よりも切なく描き出していた。
しかし良い作品が集まっているだけに、欠点も気になる。
もう少し言葉少な目にすると、理屈っぽさが、心地よい余韻に変わるのだが。
また、昭和の雰囲気を、当時の流行歌に求めているのが残念。これらの歌を知らなければ、この作品の昭和の雰囲気は伝わらないかもしれない。
短編小説集。
2010/10/02 22:42
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:龍. - この投稿者のレビュー一覧を見る
短編小説集。
最近の流行といってもよいと思いますが、それぞれが短編で内容が連作というパターン。そして、最後に全ての話がつながるという、まとまった時間がとれない現代人にぴったりの小説形式。
内容は、アカシヤ商店街を中心として、それぞれ短編の主人公が不思議な体験をするという物語。
各短編中に脇役で出てくる、古本屋のおやじさんが最後の話で登場し、この物語を締めくくります。
どの話も現代風人情話(?)ともいえるもので、愛情と細かな感情がうまく描写されています。
イメージ的には、背景はセピア色。
アーケードのある商店街という背景が、そうイメージさせるのでしょうか。
男女間、親子間、家族間さまざまな人間関係の中にある、素朴だけれども複雑な感情を思い起こさせてくれる小説です。
龍.
http://ameblo.jp/12484/
「昭和」のカオリが...ホラー系ですが怖くはない
2012/02/12 17:47
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:のちもち - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和40年代(?)のアカシア商店街を舞台に描かれる人間模様。その場に属する人がそれぞれ主役となり...いわゆる「連作」というカタチの7編から構成される。が、これまで(数冊だけど)読んだ「連作」とは一味違って、みごとに「連らなって」いるんだねー。
これは最初から読み進めていくと、後半かなり面白い。前に読んだことが伏線になり、また意外な事実が後半に明らかになったり。そもそも、すべてを貫く「主人公」が最後に明らかになったり...最初の1編を読んだ時点では正直、「?」という気もしたんだけど、読了ページ数と比例して面白さが増していきます。
テーマとして「死」がひとつのキーなので「面白さ」といってはいけないんだけど、「怖い」題材を使ってはいるものの、すんなり読めちゃいます。人と人の関係、事件と事件の関係、その「妙味」の方が、ホラーとしての「恐怖」を上回る、というか...
舞台が「昭和」なので、昭和30、40年代生まれの人には、それだけでも感じ入るものはあるかもしれません。著者の年齢と自分がそれほど離れていないので、多少「昭和」をデフォルメするための描写もあるように感じられますが、そもそも、商店街、そこに属する人間が「昭和」なんですね。そこに「デジタル」はないんです。「デジタル」がないだけで、これだけ「昭和」の空気になり、「人間」にスポットがあたるんだなあ、って、本筋とは違うことろで「へぇ~」という気がしました。それだけ、「人間関係」が希薄になったのですかねー。それと、本質のところでその「人間関係」を欲している、ということの証明でもあるのかもしれませんが。
読み終わってから、著者が直木賞を受賞していることを知りました。つまり読み始めるきっかけは、受賞じゃなくて、本書の表紙のイメージだけ、でした。昭和っぽいやつね。「現代」に少しだけ疲れを感じたら、読んでみるのもいいかもしれません。特に40年代生まれの人にはお薦めです、強烈にお薦めします。
【ことば】今はふしぎが入り込む場所も、他人同士が言葉を交わす商店街さえぐんと減って、物語が生まれる余地がなくなってしまった。
本文ではなく、「解説」で見られた[ことば]ですが、まさしく『私たちが...失ったものを』懐かしく、しみじみと思い起こさせてくれるのが本書です。その郷愁感のベースがあってその上に、ホラーや展開が存在する。だから怖いけど温かいのですね。
不思議な
2024/09/29 10:28
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hid - この投稿者のレビュー一覧を見る
怖い要素はあるのに、怖くない、不思議な7つの話。
キーパーソンは古書店の主人か。
どれも味わい深いけど、最後の話がよかったかな。
ある商店街の古書店が織りなす昔なつかし不思議話
2016/01/07 20:25
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
少し昔の商店街と、ある古書店を中心に進む、彼岸と此岸の物語。表紙絵からもっとほのぼのした商店街物語かと思ったら、しょっぱなから結構ハード。グロテスクな描写などはないけれど、心がちくっと痛み、背筋がちょっぴりぞーっとする話もあったり。一番好きなのは『栞の恋』。女性と男性が古書店の一冊の本を介して、栞でメッセージをやりとりするという初恋的一編。女性があわい恋心を抱いているその男性の正体とは。大人へなりかける途中で、こんな恋ができたら素敵だな。最終話は全体をまとめるきれいな仕上がり。想いが通じてよかったね。
優しい読後感
2015/02/13 17:44
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:papanpa - この投稿者のレビュー一覧を見る
短編集の形式ではあるのですが、アカシア商店街、覚智寺、古本屋の幸子書房を中心とした、大きく纏まりのあるお話。
良くあるショートショートかと思っていたのですが、話が進むにつれ、引き込まれていきました。
各話に大きなどんでん返しも、驚きもないのですが、不思議と優しい読後感。
各話で評価する本ではないと思うのですが、あえて言うと、私は「ひかり猫」が一番良かった。
昭和ノスタルジーがこの世とあの世をつなぐ――ほっこりあったか短編集。
2010/11/22 09:09
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:惠。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
いろいろな方が読まれていて、気になっていた連作短編集。ハジメマシテの作家さんだ。
物語の舞台は昭和30年代の東京、下町にあるアカシア商店街。
この街にある覚智寺には、不思議な言い伝えがある。このお寺のどこかが「あの世」と繋がっているというのだ。
そんなお寺があるせいか、この街では度々不思議な現象――あの夜とこの世が繋がる――が起こる。しかしそれはおどろおどろしいものではなく、恐ろしくもなく、どちらかというとちょっと哀しくて、可笑しくて、そして切ない。
本書に収められている5編の短編には、必ず誰かの「死」が登場する。その「死」には強盗事件や自殺なども含まれるのだが、不思議なことに陰惨でも残酷でもない。いやむしろあったかい不思議な読感が漂う。
帯が大々的にうたうほど泣けはしなかったけれど、じんわり淡々と伝わってくる何かがある。この「じんわり」具合が読む人を選ぶような気もするのだけれど(人によっては「ぼんやり」とした印象を受けるかもしれない)、わたしにはこの塩梅がとても好ましく思えた。
昭和というどこかノスタルジックな雰囲気をまとう文章。そのノスタルジーとあの世とこの世を繋ぐ哀しみが見事にマッチしていて、アカシア商店街で起きる「不思議」を――普段、非現実的なモチーフを好まないわたしでも――すんなり受け入れてしまった。
本書の最後の作品『枯葉の天使』で、ある人物がこんなことを言う。
「面白いものですね、世の中と言うものは。日々誰かが去り、日々誰かがやってくる。時代も変わり、流行る歌も変わる……けれど人が感じる幸せは、昔も今も同じようなものばかりですよ」
昭和が終わって早20年。平成もいつか終わりが来る。でも、その次の時代になってもわたしたちが感じる「しあわせ」とは、根本的には変わらないのかもしれない。
『かたみ歌』収録作品
・紫陽花のころ
・夏の落とし文
・栞の恋
・おんなごころ
・ひかり猫
・朱鷺色の兆
・枯葉の天使
切なさを感じる1冊
2012/03/24 20:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひっこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
アカシア商店街というノスタルジックな昭和時代を背景に、人間の哀しさと愛おしさを表している短編集。単なる幽霊物語ではなく、各編を通して人間の生死の世界を往来できれば、愛おしい人と永久に一緒にいれるのに・・・そんな切なさを感じた。