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シベリア出兵100年を前に繰り返し読みたい良書
2017/06/09 20:06
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:miyajima - この投稿者のレビュー一覧を見る
ロシア革命を勉強すると避けられないのがシベリア出兵。といつつ私にとってはせいぜい米騒動で出てきた記憶程度のもの。あまりに知識がないのでいろいろ本を探したのですが、意外にも新書レベルはおろか研究書も現代のものがほぼ見当たらないということに気が付きました。そんな中で本書は2016年の刊行ということで読んでみました。
なるほど、もともと何も知らないに等しかったので本書の内容はどれも大変に新鮮なものばかりでした。ほぼすべてのページに付箋がついてしまいました。
最大の収穫は、日本では対ソ戦というとシベリア抑留に言及されることが多く、しかもそれは日本人にとって悲劇として描かれるわけですが、ソ連(ロシア)では研究者以外にシベリア抑留に言及するケースは皆無で、逆にシベリア出兵は日本の軍国主義の象徴として今でも歴史書・教科書に取り上げられているという点です。
本書を読む限りではまさしく日本のやったことは侵略に間違いはないんだろうなあという感想を抱きます。そして本書が素晴らしいのは、そもそもなぜこれほどの長きにわたって撤兵ができなかったのかという点について言及がされている点です。
なお、多くの犠牲を払って得るものが無かったシベリア出兵。もともと英仏が第一次大戦でドイツに対抗するために思いついた補助的な作戦に過ぎなかったはずなのに、なぜこの戦争は7年の長きにわたって続いたのか。著者によれば以下の通りです。
・統帥権の独立により軍に対して政府は命令できなかった。参謀本部の権力は絶大であっただけでなくその背後にいた元老山形有朋の権力は絶大であった。
・派兵は戦争ではないという建前なので講和条約を結ぶこともできない。というよりそもそも日本はソヴィエト政府を国家として認めていないので交渉の相手がいなかった。
・山形だけでなく原内閣も北満州や北サハリンでの利権獲得に執着していた。しかも出征して亡くなった兵士の死を無駄にできないという心情も作用した。
というもの。「広大な空間を舞台に神出鬼没の非正規軍に悩まされる」「その敵とつながっているとみなした現地の住民を敵視し、討伐し、結果的に四方を敵に回し兵士も疲弊する」という状況はまさに日中戦争で繰り返されました。これらの教訓が全く生かされなかったことが日中戦争での悲劇につながったという著者の分析は大いに首肯するところです。
著者が強調するように、多くの日本人にとって印象が薄いシベリア出兵。2018年はその100周年に当たります。日本人はこの戦争をもう少ししっかりと総括するべきではないかという思いを強くしました。本書は繰り返し読むべき本とします。
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シベリア出兵
2020/01/12 04:43
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投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
シベリア出兵については、私もあまりよく知らない一人だったので、知らないことの連続で面白かった。出兵の原因はおもにチェコ軍団の救出とドイツに対する東部戦線の再建だが、WW1の終戦後やチェコの独立後も日本は引くに引けず、さらに和平交渉をしようにも、出兵時にソヴィエトを国家として承認していなかったため、交渉しにくいなど、面白いけど笑ってもいられないような話が多く、面白かった。
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忘れられがちなシベリア出兵
2017/06/06 00:37
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投稿者:サラーさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
近代日本史でなぜかあまり触れられないシベリア出兵。それを丁寧にまとめた一冊。あらためて読んでみると太平洋戦争の際に失敗した点につながる箇所もあり、大日本帝国の興亡をキーワードに読み進めている方々にはご一読頂きたい良作だと思います。
日露戦争後の日露関係を読み解くうえでも有効な本。
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大義も成果もない出兵
2022/12/09 23:18
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投稿者:福原京だるま - この投稿者のレビュー一覧を見る
第一次世界大戦の連合国側の作戦の一つとして始まったはずなのに世界大戦が終わり、他の国が撤兵しても日本だけがずるずると駐留し続けたうえに最後にはほぼ成果がなく撤兵したシベリア出兵の経過がわかる。損失が出るほど成果なしで撤兵はできなくなっていきずるずると続いていく様は現代でもいろんな場面で起こり得ることだなと感じた。
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忘却の彼方から
2017/03/19 12:38
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投稿者:ニッキー - この投稿者のレビュー一覧を見る
シベリア出兵というと高校あたりの日本史の教科書にちょっと出てくる程度です。しかし、シベリア出兵は、歴史的に重要な事件です。当時の国際関係を知る重要な歯車でもありますし、尼港事件という悲劇もありました。それは、現在の国際関係にも言えることです。
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投稿者:七無齋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本の歴史で近代史でも知られていない事実がある。そうしたことに向き合わなければ未来はない。この本は研究する人の少ないシベリア出兵について時系列でわかり易く書かれている。この時期の日本の動きを知るには最適と言える。
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忘れられた戦争
2016/09/28 03:44
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投稿者:コーク - この投稿者のレビュー一覧を見る
これはシベリア出兵という近代日本の起こした軍事行動中でも、とりわけ地味な印象を抱く事柄を当時の国際情勢や外交などを手堅く纏めた概説書である。
地味さは否めないもののこのシベリア出兵は、現地軍の暴走や、外交の不手際など後の昭和期に頻出する事象が既に現れていたのが非常に興味深かった。
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1920年代前半、日本軍が遠くイルクーツクまで出兵していた事を知る人はあまり多くないと思われる。
この出兵から撤兵に至る経緯や、その間に起こった内外の交渉について、興味深い記述が続く。
昨今の南スーダンでのPKO活動を巡る議論にも示唆を与えてくれる一冊。
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これは読んでよかった。
教科書で触れたシベリア出兵、正直なんでこんなことをしたんだろうと思っていた。第一次世界大戦が起こって、同盟の関係で大陸に行って、でも撤退したのが遅くて批判…てくらいしか触れてなくて、全然意味が分からない。
分からないのは、知らないから。この本を読んで、全部納得した。外交の怖さ、このころからもう、次の戦争、日中戦争や大東亜戦争の足音は聞こえていたのだ。
シベリア出兵が次の日中戦争の教訓になっていないという悲劇、という一文も絶句した。
前回読んだ本に「人類の歴史は教訓が生かされない」とあって、これが戦略のロジック…と思い絶句した。
となれば、またこの国は…なんて空を仰いでしまう。その時私たちは冷静に物を見ることができるのだろうか(できないだろうな)
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第一次対戦末期の激動の時代。世界の力関係も刻々と変わり、昨日の敵が今日の友、政治による駆け引きと、武力による力関係で、不条理なこともたくさんあっただろうと思う。
原敬が総理大臣の頃は、総理大臣は今よりも、全然権限がないこと、などあまり知らなかった。
また、レーニンの革命直後の不安定な状況、山県有朋と原敬の関係など、臨場感のある筆致だった。
軍が内閣と別に権力を持ってること、様々な人の思惑の相違からシベリアからの撤退が遅れるなど、誰かが、強力な意思を持ち、早く判断し、ぐいぐい引っ張れるといいのにと思ったか、それが、ファッショに繋がる考え方なのかも知れない。
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「“用語”が何となく知られている他方で、内容が然程詳しく知られているでもない」というような史上の事案は多々在る。そういうモノに関して「手際よく説く」というのが、“新書”の「望ましい役目」だと思うが、本書はそういう役目を確り果たしてくれる一冊だ。
「シベリア出兵」だが…これは大正時代の第一次大戦の終わるような時期、色々と混迷した当時の世相等が語られる文脈で「さらり」と用語が登場する…そういうような、「軽い扱い」である印象を免れ得ない。が、実際には「7年間」もの長きに亘って、国外で軍事作戦が展開され、出て行った将兵や現地の人達の中に大きな犠牲が生じていた事案で、もっと注目されて然るべきなのであろう…
こういうようなことを踏まえて本書は登場したようだ。事態が発生したのが1918年ということで、間も無く“100年”ということにもなる…2014年頃、発生から“100年”ということで「第一次世界大戦」にスポットライトが当たった経過が在ったが、著者はそういう事柄も意識して本書に取組んだようだ。
価値ある一冊で、多くの方に薦めたい。
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終章で纏めているように「大陸における既得権益の維持と拡大を図ろうとした結果、出兵地域は拡散していったと考えられる。出兵の大義名分が二転三転したのも、拡大・縮小する戦線に、何とか辻褄を合わせようとしたためだ。そもそもチェコ軍団の救出という利他的なものだった大義名分は、満蒙権益の擁護など、次第に日本の利他的なものへ堕ちていった。」に尽きます。ほんとうに昔から政府も軍部もスケベ心が見え見えなのです。マスコミも戦績が良い時は好戦的だが、戦争が長引くと、手のひらを返したように反戦を声高に叫びます。今昔変わりなし。
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我々日本人にも印象が薄い「シベリア出兵」を体系的に理解できる一冊。かくいう私もシベリアというとWW2後のシベリア抑留のイメージが殆どであり、本件については学生時代に知った程度であった。
WW1やロシア革命との関係や共同出兵した連合国との軋轢などは興味深かったし、以後の日中戦争、太平洋戦争へと突き進む素地がこの時にできていたように思う。
最近新書の中では中公新書を選択する確率が高くなってきている。それだけ好奇心をそそられる本が多い。
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ロシア革命による混乱に乗じて各国が利権を得ようと介入したシベリア出兵。自分が生まれる前に他界した父方の祖父(富山)はこのシベリア出兵に従軍していた。朝鮮の光州でも商売やっていたので、大陸に何か思うところがあったのだろうか……。早稲田大学教授の本野英一先生のお祖父さん(本野一郎)登場(当然だが)。うちの祖父は単なる兵隊さんだが、こちらは時の外務大臣。ロシア通として知られ、シベリア出兵に積極的であった(ただし、1918年に57歳の若さで胃癌で亡くなった。寺内正毅も途中で死亡。原敬も死亡。山県有朋も死亡。加藤友三郎も死亡*。是清は生き残ったが、責任者が次々と死んだことも出兵が長引いた一因か。*加藤友三郎は1923年に死亡なので完全撤退までは生きられなかった)。
北サハリンからの撤兵も含めて7年間にもわたる海外での軍事行動で失われた将兵の数が3,333人(軍属のみの戦病死者)というのは意外に少ない気がした。もちろん、内戦で死んだロシア人の数(8万人という推計は過大かという著者の指摘)に比しての話だが。また尼港事件などでの民間人犠牲者は含まれていない。
ともかく他国の内戦に干渉するという、今も繰り返される軍事介入の典型。利害関係者が非常に多岐にわたるにもかかわらず、そして新書という限られたスペースにもかかわらず、大変わかりやすく書かれており、オススメ。当時の国内での動きもシベリア出兵というファクターを1枚噛ませると見えてくることも多々あり、勉強になった。
余談だが今年は大和和紀「ハイカラさんが通る」の劇場版アニメも公開されるとか。あれもシベリア出兵が時代背景……というか、まさにそれがなければわけわからない物語。今の若い人もこの本を読んで、「ハイカラさんが通る」を観に行かれることを強くオススメしたい(違)。
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著者は言う。日本人には、シベリア抑留はよく知られているが、シベリア出兵のことはよく知らない人が多い。そして、ロシア人は、シベリア抑留のことはよく知らないが、シベリア出兵はよく知っていると。
たしかに、ロシア革命後に列強各国がシベリアに兵を進めたということは、歴史的事実として知っていたが、その原因や経過などは知らなかった。また、「あとがき」にも書かれているが、一般向けの本もあまりない。
そういうわけで、興味を持って読み始めた。ボリシェビキに対する干渉戦争という理解は間違いではないが、日本が出兵したのは、第一次大戦の西部戦線でドイツと戦う連合国が強く働きかけたものであること、出兵に当たって日本政府はアメリカとの共同出兵を条件としていたこと、各国軍が撤退した後も含めて日本軍は7年間も駐留を続けたこと、など知らないことがたくさんあった。そして、統帥権に基づく軍部の独走、現地でのゲリラ戦に対する苦戦、傀儡政権の擁立目標など、後の日中戦争と同じようなことがシベリアでも起きていたのに、その経験を後に生かすことができずに同じ愚を繰り返してしまったことにも驚かされた。他方、撤兵に向けた政治的努力や世論の反対があったことが太平洋戦争とは違っていた。
2018年にシベリア出兵から100年の節目を迎えるに当たり、日本人の記憶に薄いシベリア出兵について分かりやすく書かれた本書の意義は大きいと思う。