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Skywriterさんのレビュー一覧

投稿者:Skywriter

149 件中 46 件~ 60 件を表示

深海に挑む冒険者達が見出した、地球の魅力と冒険の楽しさが濃縮された一冊

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 パイロットと聞くと、どうしても遥か天空を駆ける人々を思い浮かべるだろう。そこにあるのは高さとスピード、そして孤高である。
 
 しかし、正反対の世界にも冒険の世界がある。いや、むしろ、空という、ある意味で開発されつくした世界ではなく、本書が取り上げるような違う世界だからこそありうる冒険というのも確かに存在するのだ。
 
 というのは、知ってのとおり人類は月まで到達している。その距離およそ38万キロ。ところが足元の、海底1万メートルの世界はほぼ人跡未踏の状態に留まっているのである。1万メートルというと、たかだか10km。その距離を歩くとするとわずか2時間30分で事足りる。その”近場”に、人類はほとんど足を踏み入れることができないのだ。障害となるのは距離ではない。圧倒的な水圧である。
 
 水中に10メートル潜るごとに、1気圧分の圧力がかかる。100メートル程度の深さであれば人間も生身で耐えられても遥か深みには耐えられない。海底に潜るというのはそれだけ大変なことなのだ。おまけにたかだか数百メートルも潜れば、そこには太陽の光も届かない闇の世界となる。
 
 高圧の闇の世界。そこに何があるというのか。漆黒の闇の世界を前に、多くの人は何もない世界を思い浮かべてしまうだろう。しかし、そこには地上からは想像も付かない不思議な世界が広がっているのである。本書は、そんな深海に潜る人々の話をまとめている。
 
 深海に潜るための船、それを操る人々、そして深い潜行から何かを知ろうとする人々。本書ではそれぞれの立場から深海の探検に何があるのかが生き生きと描かれている。本書に出てくる誰もが熱い情熱を持って課題に取り組んでいる上、一般に知られていない冒険であれば面白くないわけがないのだ。
 
 深海2000に始まり、6500メートルまで潜れる深海6500を駆使しての調査には、思いもかけないことが多い。とりわけ、科学者の誰もが予想すらしていなかった発見の数々には、読者も興奮を味わえると思う。
 
 私が面白かったのは、科学者が飽くなき好奇心を発揮して、無人機ですら到底できないような作業を有人で行わせること。科学者曰く、無人だと危なすぎてやってもらえない。それを黙って有人でやってしまうというのは凄い。
 
 また、チームごとにも争いがあるのも面白い。あいつらにできたら自分達にできないわけがない、という自負。世界の一線に立つ人は誰でもきっと持つものなのだろうが、はっきり表明されると気持ち良い。しかも結果が伴っているのがすばらしい。
 
 深海の持つ魅力をたっぷり味あわせてくれる一冊。海に興味がない方でも、表層近くの水に隠された奥の世界を知る喜びを知らしめてくれるだろう。文句なしにお勧めできる冒険の書であると思う。

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歴史にifを持ち込むことで近現代の日本の成功と失敗を何がもたらしたのか明らかにする良書

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 歴史にifは許されない、という。しかし、現時点で採ることのできる政策・政略が一つしかないわけではなくて数多の選択肢がありうるように、過去の時点でも選択の余地はあった。決して選択の余地がない一直線の歴史をなぞってきたわけではないのだ。そうである以上、当時の現実に即してifを考えるのは無意味ではないだろう。特に、過去の事件や事故から教訓を得ようとする場合には。

 それには当時の客観情勢を知ると共に冷静で緻密な論理展開が不可欠になる。自分に都合の良い歴史を作り上げるよりも実際の歴史を研究するほうが難しいだろう。ひょっとしたらifを考えてなぜ他の選択肢を選ばなかったのかを考えることは現実の歴史研究よりも難しいかもしれない。

 歴史にifを持ち込む、という蛮勇ともとられかねないことに挑戦し、日本の近現代史における11のifを取り上げ、それによって日本の歩んだ成功と失敗を浮き彫りにしているのが本書である。

 取り上げているのは日清戦争(北京を攻略していたら)から太平洋戦争開始まで(真珠湾を攻撃していなかったら)までの50年間。この50年が戦争の連続であったことに改めて驚かされる。

 日清・日露戦争での薄氷を踏むような勝利における政略と軍略が一体となった見事な国家運営の影で、その時すでに軍の暴走の種が蒔かれていたこと。やがて中国を蔑視する軍部の独走は大陸における底なしの消耗戦に日本を引きずり込み、断固として政治が主導権を取り戻さなければいけない時期にもまともな指導がなされなくなる。一部には2.26や5.15のようなクーデターもあるが、本書が指摘するように近衛や広田といって人々が目先の勝利に酔い、大局的な判断をできなかったことも大きい。

 作戦計画はあれども、戦略も政略もない。同盟国ドイツの目先の勝利に釣られて現実離れした行動を次々に採って自滅していく姿には慄然とさせられる。目的をしっかりと定め、それを達成するためには何が必要なのかということが語られることのない異常さ。それが本書から痛いほど伝わってくる。

 その結果として、避けようとすれば避けられたはずの日中戦争の泥沼および太平洋戦争が起こってしまった。アメリカによる禁輸措置などに至る前にできることは沢山あったのだ。そのことがifを考えることによって浮き彫りになっている。太平洋戦争という大失敗へと導いた小失敗の数々から、戦略的な行動とはどのようなものかが実によく分かる良書であると思う。太平洋戦争に興味がある全ての方に強くお勧めしたい。

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紙の本三国志 正史と小説の狭間

2006/09/16 18:25

三国時代の前夜から晋による統一までの歴史の流れを面白いエピソード満載で解き明かす名著

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 私の読書における原体験の一つは間違いなく三国志である。吉川栄治『三国志』を貪るように読み、横山光輝のマンガは何度読み返したか分からない。興味は高じ、陳寿の『正史三国志』も読んだ。

 正史の三国志は、とても読むのが困難な本である。紀伝体で書かれた歴史書の宿命だろうが、一つの事件や出来事の全体像を知るためにはそれに関わった全ての人の記事を読んだ上で総合的な判断をしなければならない。おまけに、個人の伝の中では、功績は書くが不利なことはできるだけ書かないようにしているという厄介な点がある。たとえば赤壁の戦いにおける曹操の敗北は曹操の記事ではほとんど触れられていない。

 こうした厄介さを全て払拭し、三国時代の動向を知ることができるという点で三国志演義はやはり大傑作である。英雄たちが勢力を伸ばすために相争い、謀略を巡らせ、戦場を駆ける。魅力的な一騎打ちには手に汗を握り、個性豊かな登場人物たちの活躍に心躍らせることができる。

 ところが、演義には演義の問題がある。ストーリーを面白くするために複雑な事象も簡略化され、主人公である劉備と彼の建国した蜀、彼の味方をする人々が実際以上に持ち上げられてライバルである曹操は貶められる。呉は蜀の味方をするときには正義の味方で魏につけば悪役になる、という具合に。また、個々のシーンを面白くするために過剰な脚色が加わってしまっている。

 演義と正史の間には意外と深くて広い溝がある。演義が好きで、だけど正史を手に取るにはちょっと抵抗が、という人には丁度良い本がなかったのが、その一因であろう。

 だが、もうそんな事態を嘆く時代は終わった。本書の登場によって。

 本書は三国前夜から晋による統一までの歴史を、正史に基づいて巧みにかつバランスよく記している。一冊にまとまっているため全てを詳細に、というわけには行かないので、三国志を知りたい人の入門書にはなりえないが、演義の流れを一通り知っていれば刺激的な説を多数目にすることが出来るだろう。

 また、史料の扱いについても詳しく書いてある。陳寿の三国志がどのような経緯で成立したか、先行文献はどのようなものがあったと考えられるのか、といった専門的な知識への言及は正史を紐解くに当たっても貴重なものになるだろう。

 また、客観情勢として寒冷化の影響(これはアジアに限らず世界的な現象だったようだ)や党錮の禁、劉虞と公孫賛の軋轢、董卓政権での文武官の身の振り方など、小説ベースでは語られない話題が沢山ある。

 おかげで劉備を主人公にしては決して見えてこない時代の裏側が透けて見えて大変面白い。

 また、曹操が長い期間にわたって袁紹の庇護にあったこと、かなりの機会主義者で戦略的に目的を立てて冷静に実行していくというよりもむしろ行き当たりばったりだったこと(袁紹の方が具体的で実行可能な戦略を描いていたのに対し、曹操は適材適所を心がければ良い、といったような抽象的目標を掲げていた)こと、更に漢中侵攻には全くやる気がなく、妖怪がいる地だから攻撃を辞めようと言い出すなど、イメージと実像が異なることもまた面白い。

 三国志のファンであれば、読み始めたら引き込まれて更にこの時代を好きになるだろう。

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意外な事実から読み取れる予想外の結論を楽しめる、悪戯心を持つ全ての方へお勧めしたい一冊

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 経済学、と聞くとなにを思い浮かべるだろうか。ケインズ?アダム・スミス?世界経済?それらについて語られていることを期待して本書を手に取ると失望するだろう。なにせ、そんな話題は欠片もでてこないのだから。
 その事実は章ごとのタイトルを見ても分かる。そして、下に記す各章のタイトルを見て面白そうと思った方は損は無いと思う。
第1章 学校の先生と相撲の力士、どこがおんなじ?
第2章 ク・クラックス・クランと不動産屋さん、どこがおんなじ?
第3章 ヤクの売人はどうしてママと住んでるの?
第4章 犯罪者はみんなどこへ消えた?
第5章 完璧な子育てとは?
第6章 完璧な子育て、その2——あるいは、ロシャンダは他の名前でもやっぱり甘い香り?
 こうやって見てみると、経済学というよりもむしろ社会学という印象を受けてしまう。しかし、社会学についての本ではない。なぜなら、著者の一人であるレヴィットの言を引用すると、「学会で『これはむしろ社会学だ』という意見が出るたび、社会学者の人たちが引きつった顔で首を横に振るのが見える」からだ。社会学には入れてもらえそうに無いとなると、本書が一貫して取り上げているインセンティブと行動を説明するには経済学しかなかろう。
 日本でこれに該当しそうなのはなんといっても『反社会学講座』および『反社会学の不埒な研究報告』だろう。どちらも多くのデータに当たることで常識を覆す意外な現実を教えてくれる。
 違いといえば、お国柄に基づく差だろう。だが、そんな違いは本書の面白さを損なわない。それどころか、内容に若干の違いこそあれ、日本でもオーバーラップするところが多々あることに気づくこともできる。
 たとえば5、6章で取り上げる子育てについての論考は日本でも役に立つと思う。
『〈子〉のつく名前の女の子は頭がいい』などといった本が話題になったが、それと同じようなことがアメリカでも評価されていたりする。
 詳細や結論は本書に譲る。面白そうと思った方はぜひ手にとっていただきたい。予想外で面白い話が沢山盛り込まれていて、驚きを伴いながら、楽しく読める本だと思う。

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史上最大のティラノサウルス・レックス発見と裁判の物語。暴君竜の世界を身近にさせてくれる良書!

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 百獣の王、といえば現生生物ではライオンである(実際には最も強く、かつ威厳に満ちて美しいのはトラなのだが)。しかし、絶滅済みの生物も含めるのであれば文句なしにティラノサウルス・レックスこそ、その座に相応しいであろう。
 そんなティラノサウルスは意外と思われるかもしれないがあまり研究が進んでいない。その一番の理由は、彼らが強大な捕食者だったことに起因する。いつの世も食べる者よりも食べられる者の方が多い。ライオンよりシマウマのほうが多いのと同じだ。ティラノサウルスは、そもそも少数精鋭だったのだ。そして、動物が化石になるのは非常に珍しい。死体がすぐに土に埋もれなければ、風化作用によって骨はあっというまに失われてしまう。ただでさえ少なかったティラノサウルスが、わずかな可能性で化石になって、それを運良く発見できる可能性ともなると極小であることが分かるだろう。おまけに、幸運にも化石が見つかっても、体の一部だけであることが多い。何らかの理由によって他の部位は失われてしまっているのだ。
 だから、どんな化石でも貴重な研究材料である。化石が発見されるたびに彼らの生態について多くの知見が得られのだ。たとえ、それがわずかな断片であったとしても。そんな状況で、ほぼ全身の骨格を保った、最大級のティラノサウルスが発見される。発見者であるアマチュア研究者、スーザン・ヘンドリクソンにちなんでスーと名づけられたティラノサウルスは、研究者の垂涎の的となる。だから、であろうか。スーの発掘は複雑怪奇な裁判闘争へとなだれ込むこととなってしまう。
 本書はスー発掘を指揮したピーター・ラーソンとその妻だったクリスティン・ドナンが体験した、スーの発見から彼らが巻き込まれていった裁判の過程と、これまでに明らかになってきた(あるいはそうであると推測される)ティラノサウルスの生態を丁寧に追いかけている。アメリカの裁判制度になじみのない身には驚くような理由でラーソンらは追い詰められていくが、それでも恐竜、わけてもティラノサウルスへの愛情が曇ることはない。圧巻なのは、これらのわずかな骨から実に豊富な情報を読み取り、ティラノサウルスの世界を我々に見せてくれるところである。恐竜を、これまでよりもっと身近で想像しやすくしてくれたことに感謝したい。恐竜好きはぜひ一読を。

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恐竜よりもずっと以前の生物たちの目立たなくともなくてはならなかった歴史

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 古生物といえば、やはり主役は恐竜であろう。私も子供の頃から恐竜が好きで、科学博物館に連れて行ってもらったり、児童書を読んでもらった記憶がある。その後熱心な恐竜ファンになったわけではないにしても、恐竜展があったりするとワクワクして覗きにいってしまう。
 恐竜以外の古生物のヒーローといったら、三葉虫やウミサソリ、アンモナイトといったあたりであろうか。そこにアノマロカリスのようなカンブリア紀の怪物たちを加えたら十分だろうか。
 しかしながら、カンブリア紀に多様なデザインをもつ生物が発生してから今までの期間は、生命の歴史にとっては非常に短い時間に過ぎない。多細胞生物が発生する、そのもっと前には気が遠くなるほど長い細菌たちの歴史があるのだ。
 考えてみれば細菌は可哀相な存在である。生命の誕生について語られる際にはRNAワールドだのたんぱく質の世界だの、果ては宇宙空間での有機合成の話まで遡ってしまうのに、一旦誕生してしまった後を語ると途端に細菌の時代を大急ぎで通り抜けて、(たいていは一目散に)恐竜の時代まで行ってしまうのである。これほど彼らにとって不条理なこともあるまい。
 そんな不遇な細菌たちにも日の目を浴びる日がきた。本当に日光に当たったら死んでしまうのだけれども。地球が誕生してからカンブリア紀の爆発的な生命進化までの通史である。生命40億年の歴史の大部分を占める細菌だけの世界。そこにも多くの奇跡とドラマがあったことがわかってとても面白い。話題も豊富で、興味をかきたてられる。火星に生物はいるのか(あるいはいたのか)を知るのに細菌の時代を解き明かすテクニックが使える。あるいは、細菌の活動から全球凍結といった地球の激動の歴史を垣間見ることができる。そんな記述だけでも楽しむことができる。古の時代に思いを馳せて楽しめる、そんな一冊である。
 なお、この本を読んで面白いと思った方には以下の本もお勧めである。
『生命40億年全史』
 生命の40億年の歴史を一冊で語ってしまおうという大変な意欲作。説明の羅列に終始せず、実に面白くまとめ上げたのはみごと。
『三葉虫の謎』
 三葉虫学者たるリチャード・フォーティによる、一冊丸々三葉虫の本。三葉虫もさまざまなバリエーションを持った生物だったのだと実感させられる。
『カンブリア紀の怪物たち』
 バージェス頁岩でカンブリア紀生物進化を発見したサイモン・コンウェイ・モリスによるカンブリア紀の奇妙な生物の紹介。こんなのがいたのかと絵を見るだけでも楽しめる。
『共生生命体の30億年』
 ミトコンドリアや葉緑体が共生によって細胞に取り込まれたとするリン・マーギュリスの著。遺伝子進化とは異なる進化のあり方が面白い。

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彼らはなぜ逆転できたのか/できなかったのか戦史から戦略の本質を追う名著

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

戦争とは勝負の一形態であるから必然的に勝者と敗者を生み出す。中には必然に見える展開もあれば、逆転が見られる展開もある。戦争が始まる前からなんらかのファクターによって勝者と敗者が運命的に決まっているわけではない。勝敗を決するには始まる前の準備段階は重要なファクターではあるが、始まった後のダイナミックな相互作用こそが決定的な要因を占めることの方が多い。戦いである以上、相手があるのだから、当然と言えば当然かもしれない。
では、戦争の理論はどうなっているか。相手の存在をどう扱ってきたのか。本書はここから解き明かすため、戦略論についての歴史を語る。『戦争論』で知られるクラウゼヴィッツは当然として、ジョミニやリデルハートといった理論家達がどのように戦争・戦略を捉えてきたか。どこまで有効で、どこから無理があるのか。
だが、本書の面白いところは戦略の歴史を語っている部分ではない。理論の発展を眺めた後で語られる、実際の戦史こそ面白いのだ。戦史が面白い理由の一つは、一次文献に過度に頼ることで事実としての重みを表現する代わりに一般人から見ての面白さを削減させてしまう悪弊に陥ることなく、簡潔で要点を絞った事実の流れを追いかけていることにあると思う。そこに加えて指導者が何を目標にし、どのように判断して目的を達成したかを書いている。歴史とは人間の営みであるのだから、兵器の性能や兵装などのスペック比較だけでは語りきれない面があるわけで、そこを上手く表現できているのも大きい。
そしてなによりも面白いのは、”逆転”を取り上げていることだ。勝てるべくして勝てた戦いを書くのではなく、なぜ彼らは逆転ができたのか(または逆転されてしまったのか)を描いている。取り上げているのは以下の戦いである。
中国内戦 国民党対共産党
バトル・オブ・ブリテン ドイツ対イギリス
スターリングラード ドイツ対ソ連
ベトナム戦争 北ベトナム対アメリカ
第4次中東戦争 エジプト対イスラエル
どのようにして共産党は物量に勝る国民党に勝てたのか。イギリスは如何にしてドイツの襲来を放棄させるに至ったか。またその狙いは何か。スターリングラードで勝敗を決した要因は何か。ベトナム戦争で北ベトナムが南を制圧できたのはなぜか。第4次中東戦争の狙いは何で、目的を達成するためにサダトはどのようなことを行ったのか。
上記の戦いの概要を、戦闘の狙いと帰趨、指導者の狙いと彼らが構想した戦略上の位置づけがどのようなダイナミズムで作用して行ったのか。それを眺めるだけで十分に面白い。終章において、これらの戦いから戦略に要する10のポイントを選び出す。理論の流れと事例の説明があった後だから、すんなり頭に入る。構成の見事さを感じさせるし、それぞれのポイントを導くにあたっては冷静に思考されたことが見てとれるのが良い。敵と見方の複雑な相互作用の中で、勝敗を分ける中核を見抜く力を得るには何が必要なのか、過去の歴史から学ぶことのできる良書である。併せて彼らの前著であり、日本軍がどのような失敗を犯したのかという研究から失敗に至る経過を追った『失敗の本質』もお勧めしておく。
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生命は宇宙で誕生したとする、異端ではあるが刺激に富んだパンスペルミア説をご存知ですか?

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 パンスペルミア説というのをご存知だろうか。地球の生命の起源が宇宙にある、というやや異端の説である。

 御存知の通り、生物は親が子を生む、あるいは分裂して同一個体を増やすことで子孫を残し、時代を超えていく。これからもそうだし、過去もそうだ。しかし、肝心のスタート地点で、我々はその当たり前が使えなくなることに気付かざるをえない。即ち、最初の生命である。

 地球に生まれた最初の生命について、有力なのは雷や紫外線のエネルギーによって複雑な化学物質が作られ、それがやがて生物へと進化したとするものだ。ユーリー-ミラーの実験等で、アミノ酸のような、生命に必須の化学物質が作られ得ることは示されている。

 だが、それで十分だろうか?そんな疑問を唱える人がいる。地球が生命を育めるようになった(地質学的に)直後から、既に生命が居た痕跡が知られている。余りにも早すぎることから、従来囁かれていた化学進化では説明がつかないのではないか?

 では地球の生命はどこで生まれたのか?宇宙からやってきたという仮説なら、早すぎる誕生を説明できるではないか!実際、宇宙空間で生命に必須のアミノ酸やアルコール類が見つかっているのだ。

 本書では、そんな異端ではあるが刺激には富んでいるパンスペルミア説がどのようなものかが解説されている。著者の想定する、生命誕生の場は、宇宙塵。生命誕生は極めて稀な現象だとしても、宇宙塵はそれこそ天文学的な数存在するので、どこかで生物が誕生したのではないか、とするのだ。

 どこまで説得力を感じるかは個人の感性に委ねられるので、興味が湧いたら読んでみて欲しいと思う。私としては、仮説としてはとても面白いと思った。


 ただ、私の感覚では、本書を楽しく読んだ後でも宇宙空間で生物が誕生したとは到底思えない。進化のダイナミクスは、自然淘汰によって適者が効率よく残ることにある。恐らくは、まだ化学進化の段階であったとしても。目のように複雑な構造ですら、進化に要する時間が僅か数百万年で十分だとされることを知れば、化学進化に数億年の猶予があり、地球には様々な環境があることを考えれば、生命が地上で誕生したと信じるに足りると思う。

 宇宙空間は紫外線や重粒子線から逃れらない空間だ。それはエネルギーにも成り得るが、複雑な化学物質にとっては破壊をもたらす影響の方が大きい。だから、宇宙空間での化学進化は、ある程度、せいぜいが炭素鎖で10~20程度が限界ではなかろうか。仮に運良く生命が誕生したとしても、宇宙空間での物質の希薄さから、宇宙で誕生した原初の生物は数を増やせないだろう。それが進化可能な惑星にたどり着く可能性は極めて低い。

 そう思いつつも読んでいて面白いのだから大したものだ。生命の不思議さを実感させてくれたことに感謝。牽強付会や我田引水に陥らず、冷静に可能性を考慮しているところも高く評価できると思う。

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紙の本移行化石の発見

2011/12/01 22:42

化石に見られるダイナミックな生物進化の道筋を、最新の知識を駆使して伝えてくれる名著

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 例えば、アウストラロピテクス。原始的なサル類と、我らヒトの間を繋ぐこの生物は、残念ながら現在では絶滅してしまっている。しかし、化石を用いれば、我々は彼らの姿をある程度は知ることが可能だ。それによって、遙か昔に森林に棲むサルがどのようにしてヒトへと進化を遂げたのかを知ることができる。このような、祖先と現在の生物を繋ぐ、今はもう絶滅してしまった生物の化石を、移行化石と呼ぶ。

 生物はおよそ40億年前に微生物として生まれ、長い時間を掛けて進化してきた。数度に渡って全地球を襲ったと見られる大災厄(そのうちの一つが、白亜紀後期に鳥へ進化した以外の恐竜類を絶滅させたもの)を生き延び、しばしば激変する環境に耐えてきた。どうやって命を次世代に繋いでこれたのか。その答えが、進化だ。生命に内在する、この偉大な働きによって、どのような激変をも乗り越えてきた。現在、地上で生を謳歌している生物は、生物が辿った道のりのの結実であると言える。だからこそ、移行化石には、今の生物が何故このような姿をしているのかを語る力がある。

 本書には、移行化石から得られた最新の知見が満ちている。

 魚から陸生生物への進化をもたらした、ヒレから指への変化。恐竜より先に繁栄を謳歌していた、哺乳類の先祖に当たる哺乳類型爬虫類が聴力を得るために辿った行き当たりばったりで、そうでありながらも驚くほど効果的な骨の変形。恐竜から鳥への進化や、海へ戻ったクジラや馬や象が辿った複雑な道筋。そして、類人猿からヒトへの進化。

 実にダイナミックで、時にはその見事さに感激すらしてしまう。改めて生物の持つ生きる力の強さに胸を打たれた。進化の謎と魅力にからは暫く目を離せなさそうだ。進化論に興味が有る方には是非お勧めしたい。

 なお、本書に興味を持たれた方には、『水辺で起きた大進化』、『恐竜vsほ乳類 1億5千万年の戦い』、『生命40億年全史』も併せてお勧めしたい。

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ビッグバンから現在まで宇宙がどのように進化してきたのかを、最新の知見から解説する。豊富な情報量と驚くほどの読み易さから、格好の入門書だと断言できる。

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 宇宙がビッグバンで誕生したという仮説は、今では広く知られ渡っている。宇宙論に多少の興味が有る方なら、誕生に続くインフレーション、物質の創成についてもご存知だろう。

 転じて、現在。複雑な構造を持つ宇宙は、星の煌きで目を楽しませてくれることに加え、その自然の驚異に知的好奇心を刺激して止まない。

 宇宙が今も膨張していること、銀河同士がどんどん遠ざかっていること、その一方で銀河団やグレートアトラクターと呼ばれる集団をなしていることもご存知かもしれない。

 では、この間を繋ぐ知識についてはどうだろう。ビッグバンで誕生した宇宙はいかにして銀河団を生むに至ったのか。とかくビッグバン初期か、現在の宇宙の姿かに流れがちな宇宙論の中にあって、この間を繋ぐ本は珍しいように思う。本書はこの宇宙進化に関する最新の知見を紹介してくれている。

 サブタイトルにある通り、その鍵を握るのは暗黒物質である。

 暗黒物質とは、簡単に言ってしまえば望遠鏡では見えないけれども、重力理論からはあるとしか考えられない謎の物質のこと。本書は、暗黒物質がなぜあると言えるのかという初歩から始まり、通常の物質と異なる振る舞いをするが故に、今の宇宙を作る基礎となったことを分かりやすく教えてくれる。

 これにより、宇宙の大規模構造ができたと思うと、なんとも不思議な感じがする。なにせ、我々には見えない、感じられないものが、我々に見ることのできる全てを生み出す元になったというのだから。宇宙についての知がかくも増えていく時代に生まれ合わせたことの素晴らしさを実感させてくれた。


 加えて特筆すべきは読み易さ。何も知らない方むけに初歩からきっちり抑えながら最新の知見まで紹介しているという情報量の多さに加え、それを平易な文章で表現している所が凄い。科学は探究心が生んだ、知的好奇心を満たす最高の手段である。その魅力を、本当に上手く伝えてくれていると思う。きっと、宇宙論への格好の入門書になると思う。興味を持ったら是非読んでみて欲しい。

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異説を含め、21の科学の話題を扱っている。色々な仮説があり、どれがはっきり正しいかはわからない。それでも、それぞれの仮設が予言する世界は魅力に溢れいてる。それこそが科学の面白さだ。

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 なぜ人間は笑うのか。ウェイトレスの脳が他の人とは異なる使われ方をするのは何故か(ロンドンのタクシー運転手は空間把握に使う脳の部位が通常の人より大きいのと同じ原理だろう)。蛾が光へ飛んでいくのはどうしてか。人類は水中で進化した可能性はあるか。ジャンヌ・ダルクに起こったことは何だったのか。ポエニ戦争で使われたアルキメデスの兵器とはどのようなものか。etc,etc・・・

 これらのどれかに少しでも興味を惹かれた方は、是非読んでみて欲しい。きっと、めくるめく不思議の世界を堪能できることだろう。

 生物関連の話題では、アリジゴクとアリの果てし無き抗争や、バクテリアを食い物にするバクテリオファージの不思議も面白かったのだが、何と言っても印象に残ったのは托卵戦術についての話題。カッコウは、托卵先の卵を全て地面に落としてしまう(カッコウの背中にはそのために使われる卵を載せるための窪みがあるという)ので、他の托卵を行う鳥も同じ戦術だと思っていたら大違い。宿主と共生する者もいるという。しかも、その場合には驚くべきことに托卵されたほうが引き受ける側の雛が生き残る可能性が高くなるというのだ。

 それにしても、ファージの、ロケットを彷彿とさせる機械チックな外見には見る度に感動を覚えさせられる。ウイルスは生物ではないとされるが、それでも進化によって完全な機能美を手に入れているように思えてならない。こうした奇妙なものを生み出した自然の驚異を知らない方は可哀想だ。科学を知ることが、世界の不思議を更に深く知り、自然への畏怖をかきたてることをこれ以上ない形で立証してくれていると思う。

 最後の最後に取り上げられる話題が、タイトルの元となっているもの。即ち、軌道エレベータである。この奇抜なアイディアは、近い将来(私が生きているうち、くらいの時間軸)では決して実現しないであろう。それでも、宇宙をものすごく身近に感じさせてくれる点で特筆すべきものだ。加えて、カーボンナノチューブの発見によって実現の可能性が高くなった(※従来比)ことも見逃せない。科学を技術へ展開することからも目が離せなさそうだ。

 どれをとっても読むのが楽しい。自然には不思議が溢れていて、それ故に科学は関心を引きつけてやまないということを、きっと実感できると思う。

 本書を読んで気に入った方は、
『そうだったのか! 見慣れたものに隠れた科学』もお勧めしたい。

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温度を測る術を手に入れてからの200年は、科学の知見が積み重なった200年でもあった。温度という切り口から見た世界はわくわく感に溢れている。

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 著者は言う。長さ、時間、温度の3つは日常のリズムを決める。そのうち、長さと時間は昔から尺度が用いられてきたが、温度については計れるようになって、たかだか200年の歴史しかない、と。

 しかし、人類が温度計を手に入れてからの200年で、新たな指標を武器に知の地平が切り開かれてきた。

 本書はタイトルどおり、温度についてかなり広く話題を取り上げている。哺乳類の体温が37℃であることが、地球環境上でどのような意味を持っているのか。熱をコントロールすることで文明がどのように発達してきたのか。地球規模で起こった大規模な環境変動はどのようなものだったか。驚くべき海底の生物層の姿。恒星で起こっていること。そして、極端な低温下で起こる不思議な現象の数々。

 上記を見て頂ければ分かると思うが、本書は単純な科学の本ではない。文明史、考古学、環境史、宇宙論、生物学等を、ジャンル横断的に語っている。温度という切り口から、興味深い話を満載してくれている。

 新たな視点を与えてくれたことで今まで見えていた世界が違って見える。これこそ読書の醍醐味だろう。入門書として極めて素晴らしい本だと自信を持ってお勧めしたい。

 訳も素晴らしい。読みやすくて面白いのですいすいと読み進められる。こんな本を読んでいると、つくづく本を読むのは楽しいなと思ってしまう。早く読み進めたいけど、読み終わったら勿体無い。そんな気分を味わわせてくれた。


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恐竜と同時代に生きた空と海の覇者の姿を、最新の知見で蘇らせていることに感服

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 ”翼竜”の”謎”である。あの、恐竜と同時代を生きた空の覇者。有名なプテラノドンは、翼を広げると8メートルにもなったという。その翼竜の名を冠するとは、なんとも心躍るタイトルではないか。サブタイトルも凄い。翼竜に加え、海の覇者である首長竜と魚竜も顔を揃えている。これで恐竜さえいればもう怖いものは何もないような陣容である。

 ここで念のために断っておくと、翼竜・首長竜・魚竜はいずれも恐竜ではない。恐竜は直立歩行する爬虫類を指すのだから、空を飛ぶ、あるいは海を棲み処とする者は、爬虫類であったとしても恐竜ではないのだ。つまり、本書は他でも取り上げられることの多い恐竜を意図的に外し、その上で古生物にはまだまだ魅力がたっぷりあることを伝えようとしているのである。そして、私の読んだところ、その試みは成功したと思われる。

 古代に生きたこれらのモンスターがどのような進化を遂げて、どのような暮らしをしていたのか?どうやって誕生し、何を食べていたのか。子育てはしたのか。そして、なぜ敢え無く滅亡してしまったのか。

 勿論、まだまだ解明されていないことは多く、本書を読んでも謎はさらに膨らむばかりだ。しかし、書かれた当時の最新の知識を駆使して生き生きと描かれる彼らの生態を知るにつけ、ますます古代への関心が募るのを感じた。古生物学の面白さを余すところなく伝えてくれている良書だと思う。

 最終章は、人類を含む哺乳類の祖先である、哺乳類型爬虫類にページが割かれている。恐竜よりも前に誕生した哺乳類型爬虫類は、遅れてやってきた恐竜の覇権の時代は逼塞を余儀なくされていた。それでも、驚くほど哺乳類としての特性を持ち、恐竜や翼竜、首長竜に魚竜といった、陸海空を制覇した爬虫類の天下が終わるのを虎視眈々と窺いっていたのだ。今でも謎に包まれた巨大爬虫類の滅亡の後、一気に地球の覇者となったわれわれ哺乳類の成り立ちを知ることができるのも本書の大きな魅力である。

 古生物学が明かす、驚くべき事実の数々が記されているので、この時代に興味がある方には文句なしにお勧めしたい。ちょっと古い本なので、手に入りにくそうなのは残念。


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紙の本オスとメス=性の不思議

2010/03/27 00:09

性と繁殖の世界の不思議を通して生物の生の世界を垣間見せてくれる良書

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 身の回りの生き物を見ていると、オスとメスがいて、性を介して繁殖していることが当たり前のように見える。犬や猫やネズミといった哺乳類、ニワトリやカラスといった鳥類、カブトムシやクワガタやカエルといった他の生物も然り。

 見ても違いが分からないとしても、交尾のときにメスがオスを食べてしまうと言われるカマキリ(実際はほとんどのオスは逃げるらしいが)、中々見る機会は無いが、女王アリとオスアリといったことも知られている。

 それなのに、本書はまず性と繁殖は本来無関係、と説く。では何のために、こうまで性は多くの種に採用されているのか。その答えは、バクテリアの接合から見えてくる。言ってしまえば、感染症対策である。

 意外ではあるが興味深いつかみに始まり、気がついてみれば生物の繁殖戦略を広く眺めるという、知的好奇心をくすぐる旅に出ていることになる。孔雀に見られるようにオスが過度に華麗になる理由は何か。魚類では、小さいときはメス、大きくなるとオスというように性転換をする種があるが、それは何故か。オスが子育てをする種がいるのは何故か。

 これらは全て性戦略の問題で説明できることを、本書は示している。だが、本書の面白さは、この性戦略を通して、様々な生物種がどのような生を過ごしているかが見えてくることではないだろうか。繁殖こそ生の目的であり理由であるのだから、性を見つめることは生を理解することなくして語れない。だからそこに面白さがあると思う。

 本書のラストにおいて、では人間社会において性はどうあるべきか、という問いかけを行っている。性差は作られたものという生物学的な差を認めない態度も、他の動物種の行動を安易に人間に当てはめる態度も、共に間違っている、というのが著者の結論になっている。それは私も賛成したい。

 性をどうするかは、社会的な合意の下で営まれるのだから、自分の浮気を正当化するのに生物学的な理由を述べるのは正当ではないと思う。遺伝的、生物的な理由による性差を理解しつつ、互いを認め合っていければこれに越したことはないのだろう。


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紙の本脳は意外とおバカである

2010/01/17 23:26

人の判断がどれほど好い加減で目先のつまらぬ利益に惑わされているか、多くの実験から明らかに。脳のおバカさに驚きと面白さを感じさせてくれる。

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脳はかなり上手く機能している。我々が外界をきちんと認識し、場や状況に相応しい対応ができるのは脳の力だ。小説や芸術を理解し、映画を楽しみ、スポーツで汗を流す。脳がきちんと判断を下していなければとてもできない芸当ばかりである。

 ところが、脳は意外とおバカらしい。

 うぬぼれやで、目先の欲望に弱く、何の根拠も無いことでも容易に信じ込む。そして困ったことに、自分の欠点を正視することができない。脳にはそうした側面もある、と本書は指摘する。

 本書で取り上げられている多くの実験によってこれらの論は固められている。その実験の内容と、驚くべき事実の数々は、それ単体として知的好奇心を満足させてくれると同時に戦慄させられる。なにせ、ここでおバカさを暴露されているのは読者自身の脳のことでもあるのだ。

 もう一つ魅力なのは、そんなおバカな脳であっても、問題提起のされ方によって冷静な判断も出来る、ということが明らかにされている点。これは、仕事で部下と接する、あるいは子供と会話するにあたって役に立つ面があると思う。詳細は是非本書を読んでみて欲しい。

 ただ、本書は「脳」がタイトルに冠されているが、基本的には心理学の話であることは頭に入れておいた方が良い。平易な言葉で心理学の魅力を語っているので、心理学の世界を知るには良いが、脳の細かい話は別の本に当たった方が良いと思う。

 本書では無意識やら目先の情報やらに囚われてしまう心の姿が暴露されているが、一方で人の性格が遺伝によってかなりの部分が規定されていることもまた、明らかになっている。ラボ実験で示されるとおりに目先の利益に飛びついてしまうおバカな脳と、遺伝で規定される性格によってかなり一定の判断を下す現実の世界の間を結びつける今後の研究が楽しみでならない。


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