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書店員レビュー一覧5ページ目

丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。81100件目をご紹介します。

検索結果 100 件中 81 件~ 100 件を表示

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

ゆっくり十まで (角川文庫)新井 素子 (著)

ゆっくり十まで(角川文庫)

新井素子のショートショートを堪能

新井素子さんの軽快でするする読めてしまう語り口がたまらない可愛くてちょっと不思議な15の物語。
表題作「ゆっくり十まで」は温泉が好きな男の子と温泉が苦手な女の子のまさかまさかのスケールの物語が展開してしまう。そのまさかな展開を女の子のちょっとしたおしゃべりにまとめてしまう、それを読ませてしまう新井素子さんの一人称語りの魔術。
かつて少女小説ではじめて新井素子さんの衝撃に出会った方にはよりたのしい再体験ができる一冊。
おすすめは「第3章 されど、愛しい人間くん」。日常で何気なく目にしている無機物たちにちょっと話しかけてしまいたくなる危険で愉快な6作品が味わえます。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

私の人生の本 アレクサンダル・ヘモン (著)

私の人生の本

分断されたときどうするか

ユーゴ内戦で故国を失い、英語で書くことを選んだ作家が「私の人生」についてつづったエッセイ集です。偶然により包囲をまぬがれた著者ですが、紛争の結果、すべてが内戦の以前/以後で区切られることになる体験をします。過去の見え方までもが、作家の人生においては、一変してしまったのです。
私の祖父も多くを話しませんでしたが、戦争によって行方知れずになった家族のことは、常に考えていたように思います。分断は、多くの人に影響を与え、ふたつの人生をどうやってつなぐか、人々は探し求めます。
もしかしたら「両方の人生をつなぐ」ということは、実は難しいのかもしれません。永遠につながらないのかもしれません。しかし、作家はそのあとも、書き続けています。その事実こそ、読者をこれほどまでに勇気づけるものはないと考えます。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

私のおばあちゃんへ ユン ソンヒ (著)

私のおばあちゃんへ

幸せな呪文

六人の韓国文学女性作家が描く、おばあちゃんについてのアンソロジーです。様々なおばあちゃんがいますが、共通しているのは、「時間」が限られている女性だということ、そして、誰かにとっての「時間」を経た女性の姿だということ。アクティブだったりたくさん喋ったり、静かで優しいだけではないおばあちゃん像もたくさんあります。「老人」の世代だけをあぶり出すのではなく、全時代の女性たちを「おばあちゃん」という側面からなぞることで、どう生きていきたいか、どんな人間になりたいか、ということを探る試みでもあります。未来を持ったすべての人に読んでほしい書籍だと思います。年を重ねることの素晴らしさ、皺のあることの美しさを教えてくれます。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

鬼と踊る 三田 三郎 (著)

鬼と踊る

おがくずみたいなパーツしかない

生活を組み立てたいが手元にはおがくずみたいなパーツしかない

この歌を読んだ瞬間、思わず笑ってしまった。
三田三郎さんは自堕落な生活を自虐的に詠うのだが、それがまるで自分のことのように思えたからだ。ちゃんとした生活をしなきゃ、と今まで何度思っただろうか。きっと、私の手元にもおがくずみたいなパーツしかない。

 キャンプとか誘われないし星々の代わりに仰ぐ天井のシミ
 冷蔵庫の裏のホコリは見えないし見えないものは存在しない
 不味すぎて獏が思わず吐き出した夢を僕らは現実と呼ぶ
 赤ちゃんの泣いている声で目が覚める 僕だって生まれたくなかったよ

日常の些細な不幸せをユーモア溢れる感性で笑いに変える。しかし、その歌は時に少しの哀しさを滲ませていた。それでも、この歌集を読むと、こんな自堕落でどうしようもない人生も楽しければいいかと思わせられる。

 死神から誘いが来ても今日はまだ「行けたら行く」と答えるだろう

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

(幻冬舎文庫)川上 弘美 (著)

某(幻冬舎文庫)

変わり続ける愛しきもの

性的に未分化で、染色体が不安定な人間に限りなく近い生物がときどき存在している、という。
なにも記憶がない状態で気づけば病院の受付にたっていた主人公は、医師からあなたはそういった存在であると告げられ、
治療の一環として「誰か」になってみることを提案される。
主人公は名前と設定をきめ、まずは「丹羽ハルカ」という女子高生となった。
ハルカとして学校に通い人間関係を育みそして一定の時を過ごすと、じゃあ次は、とまた違う「誰か」へと姿を変える。
記憶がなくなるわけではない。
それでも変化してみれば性別も性格も、ときには扱う言葉さえ違う、全く別の「誰か」だ。
最初はからだとこころのようなものの間に空洞のようなものを感じたが、変化をくりかえし、生きる場所を変え、新たな人間関係を結び、生活を営んでいくなかで、その空洞は小さくなって消えていくようだった。
姿を変えても、かつて自分だったものの記憶が全く消えるわけでない。
それでももうそれは今の自分とは違うなんて、まるで何度も死んでは生まれ変わっていくようだ。
新しい人生をえらぶ、それはとても自由でうらやましいことだけれど誰かと一緒にいたいと願い始めたとき、変化することがただの循環ではなく意味を持ったものに変わっていく。
たんたんと一定の温度でたゆたう物語は心地よく、そして少し寂しい、まるで魂が旅する様子を俯瞰しているようだった。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

あやかし長屋 嫁は猫又 (講談社文庫)神楽坂 淳 (著)

あやかし長屋 嫁は猫又(講談社文庫)

妖怪と人間が織りなす江戸の物語

猫の妖怪・猫又のたま。猫の姿にも人間の娘にも化けられる。
匂いで人間の感情を読みとれるたまは犯罪の芽となる嘘や悪だくみも見つけてしまう。大好きな岡っ引きの平次のために日々情報収集を欠かさない。

江戸で盗賊と妖怪が手を組んだ事件が起こる。妖怪には妖怪を。町奉行直々に盗賊の取り締まりを要請されたたまは仲間の妖怪たちと作戦を練ることに。
人間と妖怪の間には壁がある。登場する妖怪たちは人間社会に馴染んで和気あいあいなやりとりをしているのでうっかりしてしまうが、ふいにおそろしいほどの情の深さや憐れみのなさ、人間には到底理解できない妖怪らしさを見せつけられる。だからこそ妖怪が絡む事件には妖怪の手が必要。たまたち妖怪のはたらきは見逃せない。

さてたまが大好きな岡っ引きの平次。岡っ引きといえば乱暴で強請りたかりで稼ぐ者がほとんどな中、強請りもせず穏やかな性分でなかなか稼げない。人間の女にはもてないから自分が平次の女になってやっている、という気持ちのたま。好物のうなぎの匂いに平次と一緒に食べようと思い、贈ってもらった簪を一生大切にしようと思う。平次の気持ちに一喜一憂、とにかくかわいらしい。読めば読むほどたまがんばれという気持ちになってしまう。
応える平次のやさしさもほほえましい。たまたちが暮らす妖怪しか住んでいないあやかし長屋の住人たちの活躍も楽しく読める妖怪捕物帖。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

これはただの夏 燃え殻 (著)

これはただの夏

過ぎていく夏

夏は必ず秋になる。楽しかった出来事には必ず終わりがくる。

テレビ制作会社の非人道的な労働環境下で働いてきた「ボク」。なんとなく独身で、自分より好きだった人はもういない。そんなボクにこの夏、バグが起きる。
取引先の披露宴で知り合った「優香」、唯一、まともにつきあえるテレビ局のディレクター「大関」。そして、雨の日のマンションのエントランスで別冊マーガレットを読んでいた小学生「明菜」。
ボクはひょんなことから明菜の面倒をみることになってしまう。
明菜たちと過ごす楽しい時間。今まで手にしたかったけれど、手に入れられなかったものが目の前を駆け抜けていったような気がした。
しかし、この夏も終わりがくる夏だった。

すべてを読み終えたとき、『これはただの夏』というタイトルが切なく感じられるだろう。過ぎていく夏と会えなくなった人、始まらなかった恋も。これは私たちのただの夏の物語。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

魂の不滅なる白い砂漠 詩と詩論 ピエール・ルヴェルディ (著)

魂の不滅なる白い砂漠 詩と詩論

レンズがにごるとき

「私のことを見るときは、幻影をもたらす1枚のレンズを通して
であるように」というようなことを詩人は書いています。
目の見えない人でもレンズを通すとものが鮮明に見えることが
あります。もしくは反対に、鮮明に見えないようにするよう
黒いレンズをかけて光を遮ることがあります。
本を読むとき、詩をよむとき、使う私達の目の光を詩人は「星」
と呼びます。レンズは、どのようなときに曇り、鈍くなり、反対に
どのようなときに研ぎ澄まされるのでしょうか。
自分にレンズがあり、他人もそうであることを普段は忘れて
います。本を読んだのに、すさまじく怒られたような気分になったのは、そのことを
ルヴェルディによって指摘されたからだと思います。
「矢を飛ばすのは素材ではない」という彼の言葉を、これからも
忘れず、読んでいきたいと思います。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

火のないところに煙は (新潮文庫)芦沢 央 (著)

火のないところに煙は(新潮文庫)

終わらない怪異

ふと、煙に吸い寄せられただけ。
少しだけ扉をひらいてしまっただけ。
それにしては、あまりに容赦がない。

本著『火のないところに煙は』は作者である芦沢央氏自身が登場するフェイクドキュメンタリー風の連作短編小説であり、
普段は実話怪談専門だ、という方にも自信をもっておすすめしたい、良質なホラーミステリ作品である。
「小説家芦沢央」の元に集まった怪異は理不尽さと不可解さに満ちていて、
最終話をよみながら、耐えきれず途中で何度もページをめくりなおした。

いちどはじめてしまったこの物語は、そう簡単には終わらない。
不穏の底へとぐいぐいひきずりこんで、いやな予感がするころにはもう手遅れだ。
あのひともこのひとも、とうに巻き込まれてしまったあとなのだから。
恐怖は自分の後ろで佇んで、こちらが振り返るのをじっと待っている。

この物語があくまでフィクションである、ということに胸をなでおろしているが、
心の中に巣食うざらりとした疑念は、どうしてもしばらく払拭することができなかった。
読了後はぜひ裏表紙の血痕についても注目していただきたい。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

踊る自由 大崎 清夏 (著)

踊る自由

世界が踊っているのだから

「新しい住みか」から3年。中原中也賞を受賞した「指差すことができない」以来、1冊ごとに新しい世界を見せてくれる大崎清夏の新詩集。

喋っているうちに 私は
どうしてもその人に触りたくなったのですが
それは法律で禁じられている行為だったので
かわりにその人を じっと見ました
『触って』

1ページ目の『触って』から大崎清夏の世界にすっと引き込まれてしまう。まるで著者に見られたくないものを見破られてしまったような、そんな不思議な感覚になる。だが、それは嫌な感覚ではない。私たちはいつでも見られたくないものを誰かに見破ってほしがっているのだ。

この詩集の中で「踊る」という言葉が何度か登場する。この「踊る」とはなんなのだろうか。この詩集を読み進めていくと少し答えがわかるような気がする。
踊るとは生きること、そして、愛し合うことだ。
愛は決して特別なものではなく、喜びや寂しさと共に日常に常に存在し続けているものだと、この詩集は気づかせてくれる。私も踊りたい、世界が踊っているのだから。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

夜が暗いとはかぎらない (ポプラ文庫)寺地 はるな (著)

夜が暗いとはかぎらない(ポプラ文庫)

それでも朝を迎え夜を迎え、暮らしていくのです。

まもなく閉店が決まっているあかつきマーケット。商店街とはすこし違う、平べったい体育館みたいな建物の中に花屋やクリーニング店などかひしめきあっている。戦後間もない頃は暁市場と呼ばれていたらしい。あかつきんというマスコットもいる。水色の着ぐるみ、赤い頭巾に赤いスカート。猫のような犬のような顔で大きな耳はねずみのよう。あかつきマーケット商店街のイベントにはかならず現れお客さんたちからは「あんまりかわいくない」、「微妙」と囁かれる。そのあかつきんが行方知れずになったらしい。
間もなく町のあちこちで人助けをするあかつきんの姿が目撃される。

あかつきマーケットの閉店は決まっているし、いまさら話題作りもない。はたしてあかつきんの中の人間の目的は何なのか。
あかつきマーケットのある町を舞台に人と人のつながりが物語を紡ぐ連作短編集。家族との関係、学校や職場での人間関係が時に生々しく痛々しく描写され読んでいてつらくなる場面もあるが、読後さわやかな後味もある。取り戻せない過去の出来事、これからはじまる未来。変わらないようで変わっていく日常のささやかな変化がとてもいとおしく大切にしたくなる、さまざまな葛藤を抱えつつも日々を暮らす人々の13の物語。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

不在 (角川文庫)彩瀬 まる (著)

不在(角川文庫)

「不在」の意味

両親の離婚後、疎遠だった父の訃報が届き、思いがけず屋敷を相続することになった主人公の明日香。
古くて大きな屋敷には選びぬかれたアンティークたち。
以前は威厳ある空間だったはずなのに、主人を失ったあとでは古ぼけた重苦しさだけが残されている。
愛する人に選ばれなかったという記憶は、強い。
恵まれている生活はかつて確かにあったはずなのに、それでもいま、明日香は手に入らなかったものと現実の間で苦しんでいる。
手に入らないものへの執着はからみついて心を乱す。
そこから離れてひとりでたつことは難しい。
読んでいて明日香の境遇とはまるで違う人生を送っていても、それでも誰かに言われたかったこと、
わかりそうでわからなくて苦しかったことについての答えを与えてもらっているようではっとした。
あらすじだけ読めば重苦しい物語のようで読む前は少し身構えていたが、ノスタルジックさと終始深い森のにおいのようなほどよく冷たい空気を感じ、不思議と読んでいて心地の良さを感じることのできる1冊だった。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

幸運は死者に味方する (創元推理文庫)スティーヴン・スポッツウッド (著)

幸運は死者に味方する(創元推理文庫)

もう2作目が待ち遠しい!

ニューヨークきっての探偵リリアン・ペンテコスト。その探偵助手ウィロウジーン・パーカーはサーカス団員という異色の経歴で、とびきりな観察力と行動力を持つ。母娘ほど年の離れたこのふたりが大邸宅で起こった密室殺人の真相に挑む。

ふたりの出会いは1942年、かなり特殊な状況で一歩間違えばミズ・ペンテコストはウィロウジーンにパイプで殴られていた。それを静止するミズ・ペンテコストの第一声をウィロウジーンはこう表現している「綱渡りの張り綱のように揺らぎのない声」。本作はウィロウジーンの手記という形をとっているので、彼女のすぐれた観察眼を通して登場人物たちを見ることができる。ミズ・ペンテコストは常に冷静で揺るぎなき信念の人であるっことがこの一文でもわかるだろう。前サーカス団員としてさまざまな経験をしているからか、ウィロウジーンの言いまわしは独特で的確でとてもおもしろいので、ぜひそこにも注目してほしい。

ミズ・ペンテコストは事件を解決する探偵として有能なことで知られる一方、弱い立場の女性たちにはその苦境を救ってくれる探偵として信頼を寄せられている。上流階級の依頼人に高額な報酬を要求するのもそのためと言ってもいい。
週に1日は私邸を開放して食事を用意し、理不尽な解雇や夫の暴力に苦しむ女性たちの相談にのる。ウィロウジーンが来てからは護身術の訓練も加わった。そしてここに集まる女性たちは時に重要な情報をもたらしてくれる。

ふたりの仕事への誇りと熱意、お互いへの敬意と愛情。探偵からはおおげさなものはないが、ウィロウジーンにかける言葉は率直で信頼と愛情が感じられる。
探偵と助手のふたり以外にもとにかく強烈な個性の才能ある女性たちが登場する本作、最後まで気を抜けない展開をどうぞ楽しんでほしい。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

出版禁止 死刑囚の歌 (新潮文庫)長江俊和 (著)

出版禁止 死刑囚の歌(新潮文庫)

ネタバレ禁止!!

幼い姉弟を殺して埋めた罪で死刑となった望月。
彼が牢獄で詠みこの世に遺した短歌はあまりにもショッキングな内容であり、一度は雑誌に掲載されるも遺族感情を逆なでするとしてすぐに出版禁止となった。
今では手にいれることも難しいはずのその記事が時を経て、とある一家惨殺事件の被害者たちの口の中から発見される。
死刑囚となった望月はなぜ幼い命を奪ったのか。
なぜその記事が関係のない事件の被害者の口から発見されたのか。
本著は「柏市・姉弟誘拐札事件」と、それにまつわる人々の数奇な運命がルポタージュ風に語られる、『出版禁止』シリーズの第二弾である。
著者である長江俊和氏はカルト的人気をほこった「放送禁止」という番組の企画・構成・演出者である。
「放送禁止」とはある事情で放送禁止となったVTRを再編集し放送するという設定の、一見ドキュメンタリー番組にみえるが実はフィクションであるというフェイク・ドキュメンタリー(モキュメンタリー)作品なのだが、この手法は小説『出版禁止』シリーズにも用いられており、読み解くにはコツがいる。
このシリーズは読了後、ああ~すっきりした、というよりもまずすべての答え合わせをしたくてたまらなくなり、私の場合は他者の考察を求めてインターネットの海をさまようまでがセットなのだが、秘められたものを自力で理解したその瞬間の、えも言えない高揚感は、たまらない。
「意味がわかるとこわい話」が好きな方にはうってつけの作品といえるのではないだろうか。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

奇譚蒐集家小泉八雲 1 白衣の女 (講談社文庫)久賀理世 (著)

奇譚蒐集家小泉八雲 1 白衣の女(講談社文庫)

若き日の小泉八雲の物語

とある事件をきっかけに、この世ならざるもの、幽霊や妖精がみえるようになったオーランドは学校の休暇を故郷で過ごすという友人に連れられてアイルランドへ。
友人の名はパトリック・ハーン。この友人こそタイトルにある『奇譚蒐集家 小泉八雲(こいずみやくも)』その人。後に日本で『怪談』を書いたように、パトリック少年はこの頃からすでに怪異譚の収集に夢中で、13年ぶりの故郷アイルランドでも死を呼ぶ《女の妖精(バン・シー)》の噂がある館をオーランドとともに訪ねる。家族の死を告げるバン・シーの伝承に旧家の秘密が絡み二人は事件にまきこまれていく。

この世ならざるものがみえる二人といえど、パトリックは幼い頃からずっともう一つの世界があることが当たり前であったのに対して、オーランドはまだまだ不慣れ。こちらの世界かあちらの世界かも実は気づかないこともよくあるようでちょっとおそろしい。
実はこの作品、小泉八雲ことパトリックではなくオーランドの語りで物語が進んでいくので読者もあやしいと思いつつこれが現実なのどうかあやふやな場面に遭遇してしまう。気づかないうちにあちらの世界に引き寄せられているオーランドにはひやひやさせられる。
ただあちらの世界はおそろしいばかりではない。(もちろん油断はできない世界だけれど)まずは序章を読んでほしい。こわくてやさしい世界に引き込まれずにはいられない。

この物語の前日譚として講談社タイガから『ふりむけばそこにいる 奇譚蒐集家 小泉八雲』シリーズが2作品あるのでぜひこちらもあわせてどうぞ。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

隣のずこずこ (新潮文庫)柿村将彦 (著)

隣のずこずこ(新潮文庫)

※※※権三郎狸襲来※※※

思わず手にとってしまうタイトルだ。
少女の隣にいるのはトトロではない。
フォルムは多少似通っているかもしれないが、ずこずこと歩いているのは冷たくつるりと固い、信楽焼の狸である。
権三郎狸が村にあらわれるとそのひと月後、巨大な姿となって人を飲み込み、火を吐きながら自分たちの村を破壊して去っていくという。
語り継がれたその物語は、この村に住む者であればだれもが知っている昔話であり、大人であれば狸は災害や疫病の象徴、または何かの教訓として残されたものかなにかだろうと思うだろう。
だが、これは象徴でも教訓でもない、まぎれもなく現実そのものだったのだ。
狸と一緒にあらわれた女はいくつかのルールを伝える。
・女と狸が村をおとずれたその日に村にいた人間は全員一か月後に狸に飲まれて死ぬ。
・どんなに遠くへ逃げようと、回避はできない。
・狸が飲んだ人間のことを、残された人間たちは忘れてしまう。
どんなに理不尽であっても、このルールは揺るがない。
これはパニックになるなと思いきや、「来てしまったものは仕方がない」と村人たちはこちらが戸惑うほどにそれを受け入れてしまうから意味がわからない。
まるで宿題も目的もない夏休みのような奇妙な日常がたんたんと続くが、やはりそれはどこかいびつだ。
読者には主人公「はじめ」以外の思考がわからない。
わからないから知りたい。
でもわからない。
だからよけいにおもしろいのかもしれない。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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狐罠 (徳間文庫)北森 鴻 (著)

狐罠(徳間文庫)

北森鴻の人気シリーズ復刊です!

旗師・冬狐堂(とうこどう)こと宇佐見陶子。
旗師(はたし)とは店を持たない骨董商のこと。自分の鑑定眼だけを頼りに骨董の世界を渡り歩く。なかなかの目利きと評判の陶子は同業者からプロを騙す「目利き殺し」を仕掛けられ贋作を手にしてしまう。
陶子を罠にはめた相手・橘薫堂(きくんどう)は希代の目利きであり美術品の保険にまつわる暗躍の噂もあるくせもの。そんな厄介な大物を相手に陶子は目利き殺しを仕掛け返そうと奮い起つ。
その矢先に橘薫堂の関係者が殺害される事件が起こり陶子はその容疑者となってしまう。目利き殺しに殺人事件の謎解きまで絡みどう収拾するのか、ミステリとしても読み応え十分な作品。

魑魅魍魎だらけの古美術の世界、冬狐堂が橘薫堂にどのような罠を仕掛けるのか目を離せない。プロがプロの仕事をする描写は爽快感があって好奇心をくすぐられる。とりわけ仕掛けの要となる贋作をつくる贋作師の徹底した仕事ぶりにはおそろしくもなる。

この作品ではじめて冬狐堂・宇佐見陶子を知った方に朗報。実はこれはシリーズ1作目、これから徳間文庫から順次刊行される予定になっている。短編集には本作に登場するあの人たちのエピソードもあるのでどうぞお楽しみに。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
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眠れない夜は体を脱いで (中公文庫)彩瀬まる (著)

眠れない夜は体を脱いで(中公文庫)

まっすぐにあなたと話したい

眠れない夜に「手の画像を見せて」という掲示板のスレッドにたどりついた人々。
彼らはみな、なにかしら外側に関わるもやもやとした劣等感や違和感を抱えていた。
私もからだというものに対してときどき扱いづらさを感じてしまう。
見た目という判断基準はとても強烈で、美しいから近づきたくなったり、逆にその美しさがまるで自分を辱めてくる敵のようにおもえて身構えてしまったりする。
そこに対象自身の心などなくて、あるのは過剰な自意識で素直になれない自分だけなのだとわかっていても、瞬間的に知りもしない相手の心を外見から得たイメージから都合よく想像しては、ギャップを感じたとたんに戸惑っている。
そういう身勝手さは、意識してもなかなか消えてくれない。
いっそのことすべての人がみな同じ姿だったらよかったのに、なんて、つい考えてもしかたがないことを夢みてしまうこともあった。
もっとまっすぐに近づくことができたなら、あるいは理解できないものはそのまま放っておくことができたならば、もっといろんなことがみえてくるのだろうか。
「私を変な子のままでいさせてくれて、ありがとう」
読了後、改めて目にした帯の言葉は、ぐっとくるものがあった。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
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アレックスと私 (ハヤカワ文庫 NF)アイリーン・M・ペパーバーグ (著)

アレックスと私(ハヤカワ文庫 NF)

30年ははやすぎる

これはヒトと鳥との、人間の言葉を使ったコミュニケーションの研究者アイリーン・M・ペパーバーグ氏とその研究の相棒、ヨウムのアレックスの物語。

たまたまヨウムの賢さと愛情深さを知った頃に気になり手に取ったこの本。
読んでみれば著者アイリーンの半生が語られアレックスがなかなか登場しない。それでも男性中心の世界で研究をする、結婚後も辞めず続ける、新たな分野で独自の研究を始めるアイリーンの果敢に突き進む姿とあわせて当時の社会や学会の常識は興味深く引き込まれてしまう。

そんなアイリーンの研究の相棒ヨウムのアレックス。かつて鳥に知性はないと思われていた時代に世間から認められる実験結果を出し、ついには「天才」とまで呼ばれるようになった。その性格はなかなかなもの。自分の思うように周りの人間を動かそうとする。実験が退屈になれば、つまらないことを隠さずいたずらもする。けれど「アイム・ソーリー」、「ナデテ」、「ナッツ、ホシイ」などなど言葉の端々に愛敬があってチャーミング。

すでに有名ではあるけれど、ひとりでも多くの人にアレックスのことを知ってほしい。

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ぞぞのむこ (光文社文庫)井上宮 (著)

ぞぞのむこ(光文社文庫)

世にも奇妙で理不尽な物語

「漠市」という町は少しおかしい。
猫が一匹もいないし、近所に同じ顔の人間が少なくとも44人はいたという目撃情報がある。
閏年の2月28日に「ポンテンペルリンリーン」と言ってはいけないし、アタサワから何かを持ち出すのはおすすめしない。
もしふいに関わってしまうことがあったならば、家に帰るまえに石鹸で手を洗うといいらしい。
そうやって都市伝説のように語られ、忌み嫌う人もいるかと思いきや、実際に通勤で漠市を通る人にかかれば「ただの普通の町だ」と笑われる。
ただ、そう笑った人も最後にはきまってこういうのだ。
「でも、住もうとは思わない」と。
漠市に関わるにはコツがいる。不明瞭ながらもルールがあり、そこに住むならそれを理解し守らなければいけない。
まるでグレムリンのようだ。愛らしくて魅力的な生き物だけれど、ルールをやぶってしまえば凶悪でおぞましいモンスターに姿を変える。
漠市に存在する得体のしれないものたちは、うまみを与えることもあるが、理解が足りなければ悪気がなくても最後には必ず手痛い代償が待っているのだ。
この物語に登場する人々に「ものすごく悪い人」はでてこない。けれど少しずるかったり、少し都合がよかったり、少し誘惑に弱かったり、少し運が悪かったりする。
彼らは「ものすごく悪いこと」をしたわけではなくても、意図せず漠市に関わってしまっただけで、世にも奇妙な体験に翻弄されていく。
漠市は理不尽でおぞましく、そして妙に魅力的でもあるのだが、彼らの「少し〇〇」な部分に自分を重ねてしまったあとでは、私もけしてそこに住もうとは思えなくなっていたのだった。

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