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第10回 今泉力哉監督の本と映画の話 映画『アイネクライネナハトムジーク』について

映画『アイネクライネナハトムジーク』出演者&監督によるロングインタビュー。
「人生を変えるような出会い」となった本の話をはじめ、映画への思い入れや、仙台ロケ中の裏話などを語っていただきました。

意外なことに、本を読み始めたのは大人になってからだと言う今泉力哉監督。大学卒業後に読んだ一冊に大きな衝撃を受けたようで、そこから小説の面白さに開眼。同時に、不器用な人ばかりを描く自分の作品を「これでいいんだ」と思えたきっかけにもなったと語る。後半では、偉大な伊坂作品を映画化するにあたって気をつけたこと、原作と違うシーンへの思い入れ、主演の三浦春馬さんとのエピソードなど、貴重な話が盛りだくさん。あのシーンがアドリブとは!? あのシーンにはそんな意味が!? 多方面の見方で、より映画を楽しめそうです。

萩原には「高校生らしさ」を出すようにアドバイス

「自分の作るものはこれでいいんだ!」と背中を押してくれた1冊

 僕、意外に思われるのですが、本も漫画もびっくりするくらい読んでいない人生を送っていて。映画以外はまったく通ってこなかったんですよね。大学を卒業した頃に、初めて小説が面白いと思って読み出しました。そのきっかけになったのが、町田康の『告白』。2005年。大学で映画監督を目指して、でも卒業と同時に一度諦めて、1年間映画作りから離れていて。上京してまた映画を志した頃でした。この本は850ページほどある長編なのですが、もうすごい。実際の大量殺人事件をモチーフにしてるんですけど、主人公がとにかくダメすぎ。ギャンブルの話が出てくるのですが、そのはまり方の描写がとてもリアルなんです。僕も当時パチンコに依存していたので、「これこれ!」と思いながら読んでいました(笑)。また、この人だけは裏切らないと思っていた女性が他の人と寝たりしているのですが、それを知って打ちひしがれる様子、そして人が人殺しまで落ちていく様をリズミカルな文体で書かれていて。僕は人間的に弱いところを持っている人に惹かれるのですが、その極致の人だったので、すごく興味深かったですね。

出演者一人ひとりと対話し、演出する今泉監督

 それまで、自分がダメな人に惹かれる理由や、そういう人を描くことについて、あまり深く考えたことがなかったんですけど、この本を読んだ時に、それでいいんだと気づけたんですよね。自分がやっていることの肯定になったというか。僕もそっち側の人間だし、この小説を読んで存在を肯定された僕と同じように、結構そういうものを欲している人がいるんじゃないかなと思ったんです。

人はなぜ人を殺すのか。河内音頭のスタンダードナンバーで、明治時代に実際に起きた大量殺人事件「河内10人斬り」をモチーフにした長編小説。河内弁独特の言い回しや軽快な文章が特徴。第41回谷崎潤一郎賞受賞作。

 僕の監督作『愛がなんだ』もそうなんですけど、映画『アイネクライネナハトムジーク』も主人公が不器用だったり、優しさをはき違えていたり、目の前にいる人を大切にすればいいのにまわりの人に気を使ったり。そんな彼と同じように不器用に生きている人が映画を見た時に、あぁ自分だけじゃないんだと救いになるかもしれない。だから、リア充な人が僕の映画を見ても面白くないかもと思うんです。悩んでいる人、心に隙間がある人に響くものを作りたいんですよね。実は<救い>って勝手に救われる以外には存在しないと思うんですが、自分の映画が誰かを助けたり、何らかのプラスになればいいなと思っています。

伊坂作品を面白く見せるため、細部にこだわった

伊坂さんの原作映画、いつか撮ってみたいと思っていました

 その当時、伊坂幸太郎さんの本もよく読んでいました。『グラスホッパー』『チルドレン』『重力ピエロ』……けっこう読んだなぁ。その伊坂さんから映画の話が来た時、すごく嬉しかったけど怖いなとも思いました。映画館でバイトしていた時、伊坂さん原作の映画はほぼ見ていて、うまくいってる作品と、うまくいってないかも?な作品があるなと思っていたんです。そして、自分が監督するんだったら、こうしたいなとも考えていて。今回はそれを意識して挑みました。

 まず1つ目は、情報を出すタイミング。小説だと、声も聞こえない、顔も見えないからこそ後から分かっていく面白さがある。でも映像だと最初から見えてしまう。だから映画でもできる時間の操作や情報を出すタイミングを気にしていかないと、面白くならない。そこにはすごく気をつけていました。

 そして2つ目は、セリフ。伊坂さんの小説って、セリフがすごく特徴的ですよね。読む分には面白いんだけど、実写だとキザになるものもある。だから全員が小説の言葉を話すと作り物っぽくなるので、決まった人に言わせようと思ったんです。今作だったら、主人公・佐藤の友達である一真やその娘の美緒がそういったセリフを話していい人で、佐藤はそれを聞く立場。そうするとリアルになるかなと。

 伊坂さん原作の映画『アヒルと鴨のコインロッカー』は、それがちゃんとできていて、瑛太さんがその役を担っています。伊坂さんの原作はものすごく面白いだけに、ものすごく映画化が難しい。群像劇や伏線が多いから映像に向いているのは分かるのですが、本当に難しいんです。いろいろと考え、僕も最初は自分で脚本を書きたいと思ったのですが、実は半年すぎても1ミリもできなかった。脚本とは原作を削っていく作業なのですが、こんなに面白い話を僕は捨てられない。そこで『アヒルと鴨のコインロッカー』をはじめ、伊坂さん原作の映画をいくつも手がけている脚本家の鈴木謙一さんにお願いしたら、あっという間にすごくいいものができあがってきたんです。

 映画では、原作から少し変わったところがあります。小説の主題で「あの時、あの場所で出会ったのが君で本当によかった」とあるのですが、後々になって気づく…… その後々っていつなんだろう?というのが僕の中で疑問点としてあって。例えば、それを高校生が言われても、いや高校生だし!ってなると思うんですよね。だから映画では、10年という月日で見せていきました。そこは原作よりも効果的に表現できたので、映像のいいところかな。また、10年経った後、「あの時、あの場所で出会ったのが君で本当によかった」と佐藤が気づくシーンも新しく加えたので、楽しみに見てください。

後半、仙台中を走り回る三浦の演技は必見!

スタッフ一同鳥肌がたった三浦春馬さんのアドリブシーン

 主演の三浦春馬さんに、演技をする上で「相手を使って、芝居してください」と言った時がありました。三浦さんは、もちろん自分のエゴで演じているようなことは一切ないのですが、あるシーンで「気持ちを伝えよう」という思いが強くなってしまって、相手をあまり見れていないと思えた瞬間があったんです。相手役の多部未華子さんがすごくいい表情をしているから「多部さんに頼ってください。その方が楽ですよ」と伝えました。目の前の多部さんの表情を見たら、三浦さんが伝える表情も変わるだろうし、気持ちも作りやすいと思ったんですよね。

 そしてすごいのが、それを受け入れる三浦さん。三浦さんくらいのキャリアのある俳優さんなら、もちろんそんなことは言われなくてもわかっているし、「いや、やってますよ」と言い返してもおかしくない。でも三浦さんはその時に「確かに」って言ってくれたんです。そのことを三浦さんに話してから、演技が明らかに変わりましたね。ネタバレになってしまうので、言えないのですが…… 最後の2人のシーンで、佐藤が家に帰ってきた時に紗季と交わす4つのセリフ。脚本には2つのセリフしかないんです。アドリブで三浦さんが発したひとつの言葉。そして多部さんが返したひとつの言葉。相手に頼ったからこそ出てきたその2つのセリフ。それが出た時に、僕だけじゃなくその場にいたスタッフ全員が感動でゾワッとしたのを憶えています。

駐輪場のコミカルなシーンは今泉監督の演出が光る

山下敦弘監督に出会ってなかったら、今ここにいないかもしれない

 「あの時、あの場所で出会ったのが君で本当によかった」という人、僕にもいます。先輩の山下敦弘監督と出会っていなかったら、僕は今ここにはいない。商業映画の監督は絶対にやっていないと思うんですよね。

 出会ったのは上京したての2004年。映画学校に通っていた時、俳優コースの先生として山下さんが来ていて知り合ったんです。その時期にちょうど山下さんの映画と出会って、どハマりしていたので、エキストラにも行ったりしていました。だけど、『リンダリンダリンダ』の時は出演を全カットされていたし、『くりいむレモン』ではエンドロールで名前の漢字を間違えられていたし、散々でしたが(笑)。最近は1年に1~2回しか会わないんですけど、今でも一番近しい監督ですね。作品の温度とか、どういうものが笑いとして面白いかとか、俳優の芝居のつけ方とか、完全に山下さんの影響を受けています。言うなれば恩師ですね。僕の作品も毎回見てくれているし、会った時は細かく意見をもらったりもします。僕は俳優のアドリブを多用するタイプだったのですが、「俺はあんまり好きじゃないな。そこに頼ってつくること、規模が大きくなるとできなくなっていくよ」って。そういうアドバイスって本当にありがたい。今回の『アイネクライネナハトムジーク』もなんて言われるのか楽しみです。…… ところでこのインタビューの「出会ってよかった人」、映画になぞって女性をあげなくてよかったですか? 奥さんですって言った方がよかったかな(笑)

~読者プレゼント~

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応募期間 10/9(水)まで
※応募には会員登録が必要です

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いまいずみ りきや

1981年生まれ。名古屋市立大学芸術工学部視覚情報デザイン学科卒業。数々の映画を手掛けるなか、13年『サッドティー』、15年『知らない、ふたり』、16年『退屈な日々にさようならを』が、東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門に出品される。今年4月に上映された『愛がなんだ』は、SNSで評判となりロングランヒットを記録。10月期の話題のテレビドラマ『時効警察はじめました』の監督も担当している。

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