紙の本
スケールの大きな人類史
2016/11/07 15:18
10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Takeshita - この投稿者のレビュー一覧を見る
さすが世界中でベストセラーになっている本だけあって面白い。人類は虚構を想像=創造し、それを集団で信じ行動してきたことに進歩の鍵があると言う。話題は歴史、環境問題、女性、家畜への眼差しまで多岐にわたり、西欧中心主義に偏らない公平さがある。著者が尊敬するジャレット、ダイアモンドにも似ている。それにしつも30代の若さでこれだけの本を書いたと言うのは大したものだ。
紙の本
常識に切り込む刺激的な一冊。
2016/10/31 23:05
9人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:わびすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
以前読んだ「一万年の進化爆発」は刺激的だが言説が嘘臭かったが、同じような先史時代を扱った本書は過激だが、嘘臭さがない。データの扱い方や、論の持っていきかたなどの要因や、やはり世界的に評価されている本書の力を感じる。農耕による社会の変化が決して必然でも、人々の幸福を増すものでもなかったという言説はやはり刺激的。下巻ではどのような話になるのかとても楽しみ。
紙の本
虚構の世界
2019/05/21 11:37
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:nobita - この投稿者のレビュー一覧を見る
確かに池上さんが褒めるだけの本だった。農業は時間に追われたり、宗教・貨幣などは実体がない。今の消費生活もまさに幸せの虚構である。ポツンと一軒家を見ているが彼らは自分の気持ちに正直に生きており実体のみがすべてであるように思う。羨ましい生活である。
一方私は有機テレビやステッククリナーが欲しいと思っている。考えてみれば、購入すればテレビ視聴や掃除に縛られるだけ。又車もデザインに凝るのはこれも虚構そのもの。走る棺桶・走る凶器まさにそれをカムフラージュするデザイン。早くかつての自分を取り戻そう。
紙の本
既存概念を覆す
2017/08/16 08:47
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:スーさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
色々な人が推薦しているので、購入してみました。今まで私が理解してきた常識を覆す、とても新鮮な内容でした。たしかに著者の説にには説得力があります。下巻もすぐに読みたくなりました。
紙の本
ホモ・サピエンスが繁栄したのは虚構を共有したため
2017/04/29 18:37
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コスモス - この投稿者のレビュー一覧を見る
ホモ・サピエンスが繁栄出来たのは、虚構を共有し、共同体を形成できたため。逆に言うと、国民国家、人権、正義とか道徳心の基準とか・・・、いろいろなものが虚構であることを示しています。
人類は虚構を共有できたから発展できたが、それが原因で不幸な思いをしている人がいるのかもしれない。
(下巻とレビュー内容は同じ)
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コアラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
7万年前にホモサピエンスの脳内で生じた「認知革命」がすべての始まりである,すなわち宗教や貨幣といった共通の虚構を信じる力を得たことが人類飛躍の鍵となったと出張する大著。上巻では,1万年前の農耕革命とそれによって生じた余剰と貨幣に焦点を合わせて,人類が文明を大きく発展させて地球の支配者になった経緯を,最新科学も援用しながら描き出している。農耕によって本当に人類は幸せになったのか?他の生物にとってはどうか?等,いろいろと考えさせられる内容である。とりあえず目から鱗がぼろぼろ落ちた。
紙の本
文化の発展は幸福をもたらすか
2020/05/05 11:22
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:サンバ - この投稿者のレビュー一覧を見る
※ネタバレあり
ホモ・サピエンスは、認知革命を経て他の人類と「言語」という点で、決定的に優れた存在となった。何千人の集団を束ね、一つの行動に向かわせる想像を作り出すことができ、ネアンデルタール人や他の動植物をあっという間に淘汰した。農業革命で、余剰作物を元手に勢力を増やし、ナワバリ意識の増大とともに、生物学的な成功を手にした。これ以降の文化の発展でその傾向はさらに強くなっていく。
しかし、前にはなかった不安に苛まれ、家畜と同じように農業あるいは科学の下で働くホモ・サピエンス。その幸福とは何なのか。
サピエンスの歴史を辿り、未来を見据える中で、止まらない発展の方向を変えうるのは、私たちなのだと教えてくれる。
ふんだんに例示を用い、専門用語には必ず理解を促す言葉を選んでおり、誰でも不安なく読み切れる本。
紙の本
歴史に残る大作
2019/11/24 04:06
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投稿者:ライサ - この投稿者のレビュー一覧を見る
歴史に残る大作であり、この本を読んでしまうと他の大半の名作ですら「物足りない」と感じてしまうようになる
サピエンスの特質は「虚構を信じる」「寛大さに欠ける」「残虐」であると
ところで多くの人はこの上巻で挫折したらしい
上巻のが面白いから、と某ユーチューバーは読みもせずに話していたが。
おそらくは下巻になると話が複雑化した上、歴史の流れも度外視して文章が書かれているからではなかろうか。また下巻は世界史の知識がないと読んでも理解できないことが多そうだった
紙の本
新しい人類史
2019/04/24 14:15
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投稿者:sib - この投稿者のレビュー一覧を見る
20日余りで完読。読んでいる途中で日本に対する理解が欠けていると、腹が立った事もあったが、それは著者が日本発行に対するサービスで、にわかに日本記述を追加したためであろうと思うようになった。
今までにない角度から人類史を構築したもので、認知革命、農業革命、科学革命、産業革命と人間の進化についての記述が面白い。その内容が全て真実に合致しているとは思わないが、人間ってそんなに大した生き物ではないよと言われているようだ。
未来の人間に対する予測に対しては、どこまで的中するかはわからない。人間っていうのは時代を経ても、そんなに変わらないと思うのだが。
紙の本
目から鱗が落ちる
2019/02/10 20:02
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投稿者:つきたまご - この投稿者のレビュー一覧を見る
ジャンルとしては「ビジネス書」に入っているらしいこともあり、話題にはなっていましたが読まずに来ていました。複数の知人に勧められて、ついに読みました。
まさか、ここまで引き込まれる内容だったとは!
今まで持っていた考えを、ことごとく破壊されていきました。そういう考え方があるのかと、色々と納得もしました。
それに、今までは断片的にしか知らなかったこともあったのだと、思い知らされました。
下巻が楽しみです。
にしても、また半端なところで上下巻が分かれてしまったものです。原著の章立てと、日本語にしたときのボリュームと、持ち運びやすさを考えると、あそこで分割するしか方法は無かったのでしょうけれども。
電子書籍
生き方を考えさせられる本
2018/10/20 22:46
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投稿者:akihiro - この投稿者のレビュー一覧を見る
農業革命は「進歩」だと思っていましたが、著者は「過ち」と捉えています(メリットも述べてはいます)。本来、人間もほかの動物のように狩猟生活に適した能力を有していたはずなのに、農耕を始めたことで新たな心配事や争いが増えてしまったという意見です。
働き方改革を考える以前に、人間として快い生き方はどのようなものかを考えさせられました。下巻は未読ですが、上巻だけでも読む価値ありです。
紙の本
評判通り、大いに考えさせられた一冊
2018/08/31 23:09
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投稿者:しょひょう - この投稿者のレビュー一覧を見る
話題になっていたので、いつか読もうと思っていたままになっていたが、夏休みを期に上下巻を一気に完読。
既に多くの書評がでているので、今更付け加えることはないが、スケールの大きな人類史を客観的事実をもとに描き、著者自身の価値観を押し付けることなく、読者に問題提起してくる。
産業革命はもとより、農業革命、さらにその前の認識革命のときから、ホモ・サピエンスは他の動物とは違う次元に進んできているのだ、ということのが非常に印象に残った。
読んでよかった、と文句なく思える一冊。また読み返してみたい。
紙の本
認識が新たになる面白さ
2018/05/31 09:27
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投稿者:ヒトコ - この投稿者のレビュー一覧を見る
我々サピエンスが、何種もの人類の中で絶滅せず今日に至ったのは、虚構を想像し共有出来たから。
採集から狩猟、農耕へと食料確保技術の進歩が人口増加と社会の変化をもたらしたとしか理解していなかったが、
それを成し得たのも虚構を信じる力を持てたから、などなど。
宗教も政治体制も経済活動もその虚構を信じる想像力の成せる技だったのか!
農業革命で豊かになったわけでなく、食の豊かさを失いかえって飢饉のリスクを生んだ、
過去の様々な種の絶滅に人類が大きく関わっていた。
自分がこれまで人類の進化や進歩についてプラスに認識して事に思わぬリスクが生じていたとは!
難しそうな内容だと思ったが、一般に人にも分る例えなども多く、読みやすかった。
著者の説が全て正しいかどうか別にして、歴史を見る視点にがちょっと変わる一冊です。
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思っていたことをより鮮明にズバッと言ってくれている本。
ただ家父長制度の普遍性と永続性についてはなぜだかわからないと明言している。
卑弥呼やアマテラスについてはご存知ないのかもしれない。
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ホモ・サピエンス、つまりわれわれが生まれて、地球を支配する存在となるに至るまでの大きな歴史を著者の観点から分析・整理したものである。かなり壮大な試みでもあり、また面白い。
著者によると、人類史において、三つの重要な革命があったという。その三つというのは次の通り。
1. 七万年前の認知革命
2. 一万二千年前の農業革命
3. 五百年前の科学革命
まずは「認知革命」について。これは人類を人類足らしめ、他の生物との基本的な違いをもたらした「革命」である。そのためには生物学的に大きな脳が必要なのだが、まずはなぜ大きな脳を持つようになったのか、というところから話は始まる。大きな脳はエネルギーを大量に消費するため、必ずしも生存や繁殖に有利とも言えないという事実がある。ヒトの脳が安静時に全消費エネルギーの25%を消費しているのに対して、ヒト以外の霊長類の脳は全体の消費エネルギーの8%しか必要としないらしい。さらに出産においても頭の大きさは不利になり、おかげで人類は子供が未発達な段階で出産するという代償を払うことになった。その代償を支払った上でも二百万年の間、その大きな脳は石器以外のものを残さなかったように見える。何が巨大な脳の成長を進化の過程の中でその代償を支払ってでも促したのかは明らかになっていない。
「私たちは、大きな脳、道具の使用、優れた学習能力、複雑な社会構造を、大きな強みだと思い込んでいる。これらのおかげで人類が地上最強の動物になったことは自明に思える。だが、人類はまる二百万年にわたってこれらすべての恩恵に浴しながらも、その間ずっと弱く、取るに足らない生き物でしかなかった」
生物は遺伝子の変異の自然選択によって進化するが、その進化の過程において、大きな脳の獲得にはある種の跳躍が必要であったということだ。著者は、それを可能にした理由を「言語」、つまり抽象的な事象=「虚構」について語ることができるコミュニケーションの能力に見る。これが著者の言う人類に生じた「認知革命」である。
「激しい議論はなお尽きないが、最も有力な答えは、その議論を可能にしているものにほかならない。すなわち、ホモ・サピエンスが世界を征服できたのは、何よりも、その比類なき言語のおかげではないだろうか」
少し想像してみればわかる通り、実際に生物の集団において「虚構」を流通させることは思いの他難しく、人類以外の生物で言語に近いものを使うことができるものがいたとしても、「虚構」を語ることができる種がいるとは思えない。
「効力を持つような物語を語るのは楽ではない。難しいのは、物語を語ること自体ではなく、あらゆる人を納得させ、誰からも信じてもらうことだ。歴史の大半は、どうやって膨大な数の人を納得させ、神、あるいは国民、あるいは有限責任会社にまつわる特定の物語を彼らに信じてもらうかという問題を軸に展開してきた」
多くの集団を結びつける「神話」を成立させる能力が私たちを万物の支配者に仕立て上げたのだ。当然、この「神話」には、宗教だけでなく、貨幣や国家、共産主義、資本主義なども含まれる。それ���なければ、膨大な数をひとつに統合して力とすることは適わない。
次に語られる革命が「農業革命」だ。この革命により人類は自らを維持するための食料エネルギーの観点で大幅にその数を増やすことが可能になった。
元々人類は、狩猟採集を行う種であり、そのような種として進化圧に対応してきた。それは人類の生息地が寒冷地であるシベリアにまで拡がっていったことからもわかる。北方にはマンモスやトナカイなどの大型の動物が生息していたため、それらの動物を追って人類がその生息域を北へと広げていったことは合理的だといえる。
「私たちの祖先が狩猟採集した何千もの種のうち、農耕や牧畜の候補として適したものはほんのわずかしかなかった。それらは特定の地域に生息しており、そこが農業革命の舞台となったのだ」ー いくつかの偶然もあり、複数の場所で農耕は始まった。具体的にどのような場所であったかは、ジャレット・ダイアモンドの名著『銃・病原菌・鉄』にも同様の論理が展開される。その論理は、なぜ特定の場所で文明が栄えたのかの理由にもなっている。
著者は、結果として農業革命はわれわれに幸福をもたらしたわけではないという。逆に個々人を見れば、生物的特性とのアンマッチなどから来る多くの不幸をもたらしている。では、なぜ農業が広まったのかというと、それが人類の数を増やすこと、すなわちそのDNAのより多くの複製に役に立ったからだ。「小麦を栽培すれば、単位面積当たりの土地からはるかに多くの食物が得られ、そのおかげでホモ・サピエンスは指数関数的に数を増やせたのだ」ー つまり「以前より劣悪な条件下であってもより多くの人を生かしておく能力こそが農業革命の神髄」ということだ 。人類は幸福の最大化ではなく、これまでのすべての生物と同様、DNA複製の最大化によって、その生活様式含めて淘汰されてきたのだ。DNAの観点からは家畜化された牛・豚・羊・鶏は類まれな成功例と言える。そして、これらの例からもわかるように、種の繁栄とそこに含まれる個体の成功とは合致せず、常にDNAが優先されることがわかる。家畜が幸せでないであろうとの同じ意味で、農業革命に励む個人にとってはその革命は必ずしも幸せなことではなかった。著者は皮肉を込めて「私たちが小麦を栽培化したのではなく、小麦が私たちを家畜化したのだ」と書く。
農耕は、当然ながら人類に定住を促した。それは狩猟民族として進化してきた人類に大きな影響を与えることになった。農耕の始まりによって、未来に対する不安が始まった。逆説的ではあるが、未来に対して何らかの手が打てたために未来を心配するようになったのだ。結果として、農耕は人類にとってストレスとなった。人類がその長い過程で数十人からなる集団で過ごす中で進化してきたのと比べて、農業革命とそれに続いた都市や王国がによる大規模な協力体制に対して、人類が生物進化的に適応するにはその期間が短かった。
一方で、その種としての発展に遺伝子の進化を利用することがなくなったことが発展の速度をこれまでにないものとした。それを可能とした「協力のネットワーク」は、「想像上の秩序」であった。その成立のために人類は「神話」を必要とした。人類の生物学的限界を超えた発展は、��認知革命」により手に入れた「共同主観的秩序」によって成立したのである。
「人類は、大規模な協力ネットワークを維持するのに必要な生物学的本能を欠いているのに、自らをどう組織してそのようなネットワークを形成したのか、だ。手短に答えれば、人類は想像上の秩序を生み出し、書記体形を考案することによって、となる。これら二つの発明が、私たちが生物学的に受け継いだものに空いていた穴を埋めたのだ」
著者は、人類が地球上に拡がるために大きな役割を果たした「共同主観的秩序」の例として三つの事例を挙げる。それは、経済面での「貨幣」、政治面での「帝国」、倫理面での「普遍的宗教」だ。人類はこの三つの秩序を発明し、利用し、組み合わせて、地球上でそのフットプリントを拡げることに成功した。
「貨幣」はいつでもだれもがほしがるが、それは想像の中でしか価値を持っていない。それは、もっとも普遍的で強固な相互信頼の制度である。普遍的転換性と普遍的信頼性という二つの原理に基づいている。「宗教は特定のものを信じるように求めるが、貨幣は他の人々が特定のものを信じていることを信じるように求める」のである。
「帝国」は、文化的なグローバル化を求める。著者は帝国の条件として、「文化的アイデンティティと独自の領土を持った、いくつもの民族を支配している」ことと「変更可能な境界と潜在的に無尽の欲を特徴とする」ことを挙げる。帝国は人類の多様性が激減した大きな要因だった。その定義において、現在の資本主義のグローバル化は、あらたな「帝国」の出現にほかならない。
「宗教」は、超人間的な秩序の存在を主張する。宗教は信念であり、そのため、どこにいてもいつでも正しくなくてはならず、すべての人に広めなければならない。そのために、普遍的であり、かつ宣教を求めるものなのだ。人類が、狭い範囲に生活がとどまっていれば普遍宗教は必要なかった。著者は、自由主義、共産主義、資本主義、国民主義、ナチズム、これらはすべて宗教と呼んでもさしつかえない。宗教は対立の象徴として挙げられるが、その前に人類を統一するための重要な要素のひとつだったのだ。
その後に来た、今のところは最後の革命が「科学革命」だ。科学は「無知の発見」から始まった。それまでは、正しさは常にどこかに存在していた。それを知っているとされている人や「神」に尋ねるだけでよかった。人類には知らないことがあるが、それは探究することで知ることができ、それを知ることにより多くのことを手に入れることができる。だから、探究しよう、という精神性が現れたのが科学革命の鍵であった。農耕でも、世界宗教でも、帝国でも、それまで世界の中心地となったことがなかった西ヨーロッパが近代において世界を席巻することができたのは、近代科学と近代資本主義のおかげであった。拡大再生産は資本主義の原理だが、それまでの過去の歴史上はかならずしもそうではなかった。過去の世界では世界はもっと定常的なものであった。資本主義・消費主義の価値体系は根本的にこれまでの価値体系とは違う。以前の倫理体系はそうではなかった。
「科学研究は宗教やイデオロギーと提携した場合にのみ栄えることができる。... 科学と帝国��資本主義の間のフィードバック・ループは、過去500年にわたって歴史を動かす最大のエンジンだったと言ってよかろう」
そのことが幸せにつながっているのかはわからないと著者は言う。そして、幸せの概念もこれらの革命によって規定されていると主張する。
「ヨーロッパの帝国は、私たちの知っている今の世界を作り上げたのであり、そのなかには、私たちがそれらの諸帝国を評価するのに用いるイデオロギーも含まれているのだ」
最後に著者は、人類は歴史を通して「幸せ」になっただろうか、そして将来はどうなるだろうと問う。人類は狩猟採集生活に適合するように進化した。それにも関わらず、農業や工業へと移行することとなった。それは生物進化の過程からすると不自然なものだった。大きな影響として、家族と地域コミュニティが崩壊し、国家と市場が台頭した。そして、世界における多様性がなくなった。「過去二世紀の物質面における劇的な状況改善は、家族やコミュニティの崩壊によって相殺されてしまった可能性が浮上する」
「人類にとって過去数十年間は前代未聞の黄金期だったが、これが歴史の趨勢の抜本的転換を意味するのか、それとも一時的に流れが逆転して幸運に恵まれただけなのかを判断するのは時期尚早だ」
「幸せ」という概念も将来にはさらに大きく変わる可能性があることを著者は強く示唆する。将来の大きな変化の可能性として「非死」長寿や若さが手に入れられるようになり、これまで貧富の差に関係なく平等であった死と老が、貧富の差によって手に入れられるかどうかが決まるようになったとき、さらなる不満が噴き出すのではないか。それは、どちらの立場の人にとっても幸せではないだろう。「非死」が手に入ると、少しでも危険を避けようとするだろうし、死はさらに大きな喪失になるだろう。さらには、「幸せ」を生化学的な状態の操作にしてしまうという可能性だ。安全な幸福薬のようなものが技術的には得られる可能性は十分にあるだろう。そして、政治的な異議や倫理的な異議があったとしても、可能なものは実現するのがこの世界の趨勢でもある。
「これまでに分かっているところでは、純粋に科学的な視点から言えば、人生には全く何の意味もない。人類は、目的も持たずにやみくもに展開する進化の過程の所産だ。 … 人々が自分の人生に認める意義は、いかなるものもたんなる妄想にすぎない。中世の人々が人生に見出す人間至上主義や、国民主義的意義、資本主義的意義もまた妄想だ...」すべては妄想なのである。が、最後にこう言ってしまう必要はあるのだろうか。
「文明の構造と人類の幸福」という副題が付いた本書の最後の文章はこうだ。
「私たちが自分の欲望を操作できるようになる日は近いかもしれないので、ひょっとすると、私たちが直面している真の疑問は、「私たちは何になりたいのか?」ではなく、「私たちは何を望みたいのか?」かもしれない。この疑問に思わず頭を抱えない人は、おそらくまだ、それに十分考えていないのだろう」
遺伝子編集技術、ナノテクノロジー、人工知能、といった技術を持った人類に四つ目の「革命」はやってくるのだろうか。人類の認識を変えてしまうほどの「革命」が起��ないとは限らないし、起きない方に賭けることも難しい。すでに、それまでの認識をがらりと変えてしまうような三つの革命を経た上で人類の現在があるのだから。世界はどうやら統一の方向に向かって進んでいるようだが、経済も、倫理も、政治も、どのように統一されるのか、想像することは可能だが、その想像自体が現在の中にとらわれた発想でしかないようにも思う。そして、どうやら変化は加速しているらしい。
あとがきに「自分が何を望んでいるのかもわからない、不満で無責任な神々ほど危険なものがあるだろうか?」と書く。非常に射程の大きな本であった。長いが読む価値がある本。
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Courier Japan記事「人類の繁栄とは“虚構”の上にあるのです」 『サピエンス全史』著者ユヴァル・ノア・ハラリ大型インタビュー
http://courrier.jp/news/archives/63841/
『サピエンス全史(下) 文明の構造と人類の幸福』のレビュー ~ 『サピエンス全史と柄谷行人』
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4309226728