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ジュンク堂書店 書店員レビュー一覧

ジュンク堂書店 書店員レビューを100件掲載しています。120件目をご紹介します。

検索結果 100 件中 1 件~ 20 件を表示

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

私の「結婚」について勝手に語らないでください。 クァク・ミンジ (著)

私の「結婚」について勝手に語らないでください。

ここにいるよ、と旗をたてること

韓国で話題の非婚ライフ可視化ポッドキャスト
「ビホンセ(非婚世)」制作兼進行役のクァク・ミンジさんによるエッセイ。
いつまでたっても結婚しない人にあれこれ言ってくるのは、おとなり韓国も同じ。
結婚する意志はないと伝えると、
「そう言いながらいつかは結婚するんだろう」と
うんざりするような言葉を投げかけられながらも
非婚を貫く彼女の日常が綴られている。
自分と仲良くすることは、自分の取扱いを知ること。
意見は違っていても誰かを愛することはできること、
そしてこんなふうにここにいるよ、と伝えてくれる彼女の言葉に
自然と勇気をもらえます。
あれこれ詮索してくるお節介な人たちも、本当はみな、
作者の祖母のように「しあわせかい?」「そういう道もえらべるのかい?」と
ききたいだけなのかもしれません。
いろんなバリエーションを見ることで、それを見た人は
好きに選択していいんだと知ることができるから。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

山亭ミアキス (角川文庫)古内 一絵 (著)

山亭ミアキス(角川文庫)

誰かのための9つの命

意図せずに人々がたどり着くのは不思議なホテル、山亭ミアキス。
そこで働くスタッフはいささか個性が強すぎる節はあれども、心にしっくりくる美味しい食事に、疲れをとかすような温泉はまぎれもなく極上のもの。
ふかふかのベッドで眠り、朝は青い湖のまわりをゆっくり散歩すれば、日常のしがらみや苦しみから抜け出せる・・・・!なんてこともあるのでしょうか。
この山亭ミアキスに迷い込む人々は、まるで選ばれたように誰もが重たい何かを肩や胃の腑に抱えこんでいます。
すごく良い人でもなく、すごく悪い人でもない、でもどこか自分勝手なずるさを持っているな、と思うような人間たち。彼らに既視感を持ってしまうのは、自分も彼らと同様にそういったずるさや弱さを持って生きているからにちがいありません。
けして現実逃避はさせてくれない山亭ミアキス。
ここを訪れれば、傷みとともに、何かを得て帰ることができるのかもしれません。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

みどりいせき 大田 ステファニー歓人 (著)

みどりいせき

すべることばたち

「読みにくい」「びっくりした」そんなイメージの小説を想像していました。
実際は真逆でした。
確かに、若者の話し言葉が多用されています。しかし、そこにあふれる言葉たちを読んでいると、ずっとそこにいたい感覚がたちのぼってきます。自分が幼児だった頃のことを思い出します。
「ごめんかった、まじ」「ゆーれいの貸し車」「なんか、思考がめくれてく感じ。たまねぎみたい」
ひらがなの羅列。見たものを隣の子にそのままいう感じ。頬をすべってゆく風、虫や雲をみんなで見たこと。
【ひかるは、きゅうじゅうくらいまでながいきするきしかせん】
登場人物たちが常に話題の根底に置いているものが「死」です。そのイメージについてみんなで話すとき、「死」という言葉でさえも、様々な色たちによって彩られている気がしてきます。小さい子供たちが話しているみたいなのに、逆にすごい年寄りが話しているような気もする。言葉と言葉がざわめく。ひらがなになっただけなのに、あいだに空白を持たせただけなのに、言葉が、本に載っているものではなくなろうとしている。
上手く消化しようとするけれど、なかなか、できません。ただ言葉たちが目の中をすべるのを眺める心地よさにあふれている、そんな小説です。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

小さな町・日日の麵麭 (ちくま文庫)小山 清 (著)

小さな町・日日の麵麭(ちくま文庫)

人々のささやかな日常が集められた短編集

はじめて小山清の作品にふれた時、ただ日々を生きる人々を描いているだけだと思っていたのに気づけば最後まで読んでしまっている自分にびっくりしてしまったことを覚えている。日常の描写にこんなにも引き込まれた読書体験は初めてで、それまでは手を出すことのなかった作家の作品も「読めば面白いのかもしれない」と読むようになり新しい本と出会うきっかけを作ってくれた。
「小さな町」は戦時下に下谷の竜泉寺町で新聞配達をして過ごしていた主人公の日常が綴られている。新聞配達の管轄に住まう人々はじめ付き合いのあった人々との日々のやりとりが目に浮かぶ描写は思い出話を聞いているような心地よさで読み進めてしまう。

小山清は太宰治のもとに原稿を持ち込んだことがある。「風貌」で語られる太宰治との交流で語られた小山の作品を読んだ太宰が送った葉書に書かれていた一節「周囲を愛して御生活下さい」。小山清の作品に引かれた身にはあまりにも腑に落ちる言葉で、そんな小山の目を通して描かれる日常を読めるよろこびを噛みしめてしまった。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

棚からつぶ貝 (文春文庫)イモト アヤコ (著)

棚からつぶ貝(文春文庫)

つぶ貝に愛をこめて

コモドドラゴンと競争したことはあるだろうか?
このエッセイの著者は競争したことがある。
太い眉毛とセーラー服がトレードマークで、芸人・女優・そして母として活躍するイモトアヤコさん。
本著では自身が成し遂げた様々な実績よりも、彼女が大切にしている人々への愛がひたすらにつづられている。
自分のずるさも弱さもさらけだし、人からもらった優しさを自覚でき、そしてその人への愛を力いっぱいに叫ぶことができるイモトさん。
読み終わったとき、自分もいつもそばにいてくれる人たちをちゃんと大切にしよう、そう改めて思えた。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

続きと始まり 柴崎 友香 (著)

続きと始まり

人がいなくなった場所で

震災やパンデミックの間で、生きていく人々を描いた小説です。
本の中に、学校が好きだった、なぜなら誰かいるから、今日話せなくてもまた明日でいいかって、というような描写があります。ずっと人がいるのって、貴重だよね、ということ。
学校だけに限らず、人が常にいる職場やお店も、そうだと思います。
非日常になったとき、人がいないことの重みを私達は感じる。
小説のラストで、はちみつの入った飴をなめるシーンがあります。そのはちみつは、ウクライナでとれたはちみつでした。このはちみつを採取した人も、今もうその場所にはいないのかもしれない。
生きている限り過去には戻ることができないし、未来にも行けない。私達にできるのは常に思い出すこと、想像することだけです。その軌道を、何回も描写した小説です。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

世にもあいまいなことばの秘密 (ちくまプリマー新書)川添愛 (著)

世にもあいまいなことばの秘密(ちくまプリマー新書)

あいまいな言葉を理解することで日本語が面白く思える本である

私たちの生活の中で、あいまいな言葉は多く存在し、
その曖昧さによって言葉のすれ違いが起きている。
筆者は、あいまいな言葉に対し、
異なった解釈をすることで生じる言葉のすれ違いを対処できるようになるには、
言葉を「多面的に見る」ことが必要であり、
その際に役立つのは、曖昧さがどういうときに起こるかについての知識であると述べている。
つまりは、曖昧さの要因がわかっていれば、
相手が何を言いたいのか推察でき、あいまいな言葉によるすれ違いを防げるということである。

本書は、なぜ異なる解釈が起こるのか、
あいまいな言葉を9つの特徴に分け、詳しく、面白く解説されている。
それぞれの特徴は例題を用いて説明しており、
よく私達が生活の中で耳にしたり、自ら言ったり、見たりする会話や文章が多く使われている。
また、例題の解説後には問題も設けられており、より理解しやすい内容となっている。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

カッコの多い手紙 イ ラン (著)

カッコの多い手紙

つかずはなれずの距離感

韓国の京畿道九里市生まれのラッパー、スリークと
韓国のソウル生まれのアーティスト、イ・ラン。
手紙を書くとどうしてもカッコが多くなってしまうのふたりの往復書簡。
銭湯でのタトゥーの話、同居している猫の話から、
フェミニズム、ジェンダー、ヴィーガン、創作についてなどなど、
交わされる話題は多岐に渡り、コロナ禍で寄る辺ない気持ちのなか
出会ったふたりのあかりを探すようなやりとりにこちらもはげまされる。
手紙に出てくる人物(猫も)たちは会ったこともないはずなのに
古くからの知り合いのような気持ちになるのは不思議。
どうかともに暮らす猫たちがしあわせでありますようにと
気づけば祈りながら読みすすめていた。
手紙の中でイ・ランも触れているスリークの曲「私のもの」はいろんな人にきいて欲しいです。
読み終わった頃にはきっと久しぶりに誰かに手紙をかきたくなっていることでしょう。(もちろんカッコの多い手紙を)

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

幸せな家族 そしてその頃はやった唄 (中公文庫)鈴木悦夫 (著)

幸せな家族 そしてその頃はやった唄(中公文庫)

もはやホラーなジュブナイルミステリ

あるところに幸せな家族がいました。
お父さんは有名な写真家です。
お母さんはいつも優しいです。
長女は美しく聡明です。
長男はいばりんぼうです。
そして末っ子の僕は、たいくつが苦手です。

保険会社のテレビCMのモデルに選ばれた「幸せな家族」のもとに撮影隊がやってきたのは、雪のふるひな祭りの日のことでした。
そこからはまるで嘘のようです。
ひとり、またひとりと人が死んでいくのです。
それはもう坂道を転げ落ちるように、誰もがこんなことはおかしいと思いながらも、不可思議な死の連鎖はとまりません。
主人公である小学六年生の少年の目線で描かれた「幸せな家族」の崩壊を、不気味で不謹慎な「その頃はやった唄」がはやしたてます。
完璧なひとつの円だったものはぐしゃぐしゃとほどかれ、それが元あったなにかに戻ることはきっともうないでしょう。
私はこの幸せな家族の心に深く潜ることは叶わず、終わっていく姿をファインダー越しにただ眺めることしかできませんでしたが、最後まで目を離すことはできませんでした。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

トゥデイズ 長嶋 有 (著)

トゥデイズ

明日のフレーズ

長嶋有さんの小説で、とても好きな部分があります。それは、登場人物が体験した日常のささいなことがフレーズ化され、自分の日常の中でも、大きく輝きを増すところ。
今回新作を読んでみて、「あっ、ふえている」と思いました。
家族の輝きが、フレーズ化が、ふえている。
今までは働くOLであったり、主婦であったり、アルバイターの輝きであったりしました。でも今回の『トゥデイズ』では、生活する夫婦に加え、成長していくちいさなこどもの輝きが折り重なっている。
そのことに気づいたとき、すごいなあ、と思ったのです。
壁や柱にできる小さな虹。ヘッドフォンのバッテリー残量を知らせる小さな女の人の音声「バッテリーレベイズロウ」。反対のメニューを答える子どものために、両親が考える「目玉焼きか卵焼きか」の質問。
マンションの中で毎日同じように見えながらも、変わっていく「フレーズ」。
自分の小さい頃にも、そのような「フレーズ」が、あったのかもしれません。
親は、もしかしたら今も、覚えているかもしれません。妹がうまれて、初めて病院から家にやって来たとき、いつも薄い色の食べ物しか買わなかった母がなぜか買ってきたゼリーのおやつの毒々しい色。(自分のためのゼリーだったのかもしれません)。寒かったマラソン大会のときに見た飛んでいる鳩、両親が喧嘩したあとに子どもたちに買ってきた、クレヨンとスケッチブック。
「フレーズ」はとめどなくあふれて、でもいざ思い出そうとするとなかなか出てこず、いつか死ぬときに走馬灯としてそれを見るのかもしれません。
「フレーズ」は人生でいつか失われこそすれ、自分が新しい「フレーズ」を、つくっていくのかもしれません。そのことを考えると、この小説の登場人物のように、「明日」についてぼんやりと、考えてしまいます。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

青天 包判官事件簿 (中公文庫)井上祐美子 (著)

青天 包判官事件簿(中公文庫)

中国時代物、ミステリがお好きな方に

中国・宋の時代を舞台に描かれるミステリ短編集。

謎を解くのは清廉潔白、裁きは公平、晴れ渡った空の如し。「包青天」と謳われる名判官。中国では庶民の味方として長く親しまれている。日本でいう水戸黄門や遠山の金さんのような人物。

宋の国土の南端に位置する端州(たんしゅう)に赴任したばかりの知事・包拯(ほうじょう)、字を希仁(きじん)という。三十代半ばとまだ若く、身につける服も質素、言葉遣いも丁重で威厳には欠けるが仕事ぶりは真面目。時々不注意から墨で書類を汚したり仕事の合間にぼんやりしているのはご愛敬。そんな評価をしていた役所での世話係・孫懐徳(そんかいとく)だが「生きた牛の舌が切り取られる」事件をきっかけに新しい知事の厄介な一面も知ることになる。

舞台は宋代の中国なれど、その時代や地方の特色も分かりやすく描かれている。古代中国の知識に不安があっても楽しめるので中国時代物がお好きな方はもちろんミステリ好きな方にもおすすめの一冊。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

八重歯が見たい チョン・セラン (著)

八重歯が見たい

嫌な予感はあたるもの

『ジェファはヨンギを九回も殺した。』
頁をめくると強烈な出だしにギョッとする。ジェファは一度見たら忘れられない特徴的な八重歯を持つ作家。ヨンギはその元恋人。
もちろん実際に殺しているわけではなく、自分の書いた小説の中で何度も何度もヨンギを殺している。
あるときは龍のしっぽに押しつぶされて、またあるときは宇宙の時空間の接着面に挟まれて。もちろんヨンギはそのことは知らない。
ある日、ヨンギの身体に不思議な現象が起きる。ジェファの書いた文章がタトゥーのように浮き出るのだ。
付き合っていた時も、別れたあともすれ違ってばかりだった二人が交錯するとき、事件は起きる。
テンポ良く進む文章の中に潜む不協和音に気づいた時、その正体にゾッとする。
恋愛は絶望とあきらめだらけの、まるで貸し借りの契約のようなものかもしれない。
でもひざを突き合わせてお互い向き合った時、少しずつ良い方に変わっていくのかも
しれないなと、そんな気持ちにさせてくれるかなりパンチの効いたラブストーリーだ。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

分断を乗り越えるためのイスラム入門 (幻冬舎新書)内藤 正典 (著)

分断を乗り越えるためのイスラム入門(幻冬舎新書)

読めばムスリムへのイメージが変わる本である

新型コロナのパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻という世界規模の災厄の中で
ムスリムはどう動いてきたか、どう考えてきたかを取り上げなから、
イスラムについてわかりやすく説明している。

一見、厳しくも怖いイメージのイスラムだが、代表的な教えは、
「アッラー以外に神はいない」と信じ、一日5回の礼拝、弱者のために喜捨をすること、
ラマダン月に断食すること、一生に一度メッカに巡礼することとなっている。
もちろん戒律を破るとそれなりの罰はあるが、それは私達が法律を破ったときと同じことだ。
ムスリムはこれらの教えを異教徒へ強要しない。
逆に、西欧文明が悪いというのではないが、
西欧は、自分たちの思い込みや、絶対的な優位性を持つ自分たちの規範性を異教徒へ押しつけ、従わせようとしてきた。
そうしたことで、今日のムスリムとの共存が難しくなってきたのである。
その分断を、イスラムを正しく知ることで乗り越えようと筆者は説いている。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

ブキの物語 シュザンヌ・コメール=シルヴァン (著)

ブキの物語

もやがかかったもの

民話の本です。カリブ海の島国で収録された多くの民話。
小さい頃から昔話を読む時、なぜでしょう、祖母の家の、使い古された毛布がいつも頭に浮かびました。毛布にはたくさんの外国の動物が描かれており、なんの動物だったかはもう忘れましたが、多くの外国昔話を知った時、いつもその外国の情景ではなく、毛布の模様が頭に浮かびました。
載っているたくさんの民話は、かなりの悲劇もありますがどこか明るく、不思議です。ハイチではものごとがすぐに忘れ去られるんだ!という、それを言って良いのかしらんという記述も堂々とあります。面白いのは、民話に出てくる人たちのうち、「何者だかわからない」人がいるということ。コンペ・アンヴォワジュテなる人物がそうです。彼は、カニを探しに穴に手を突っ込んだ人物に、自分が「コンペ・アンヴォワジュテ」だと告げますが、「コンペ・アンヴォワジュテ」が動物なのか植物なのか人間なのかは、最後まではっきりとしません。ただ、彼の「当然さ」というせりふで、なんだかカニを探しに来た人物よりももっと強烈な存在がいるとわかるだけです。
いつからか、物事には起承転結があって、謎の人物の正体は最後には明かされるものなのだと思っていました。動物の顔や性質も、昔話の最後には判明するのだと思い込みました。でも、そうではないおはなしがずっと昔からあったことを、この本は教えてくれます。私が見た毛布の動物たちの顔もぼやけたものでなく、最初からもやがかかっているものだったのかもしれません。

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

うたわない女はいない 働く三十六歌仙 (著)

うたわない女はいない

滲み出てきたもの

36人の女性歌人がよんだ、「働くこと」をテーマにした短歌。
タイトルは長嶋有さんの「泣かない女はいない」を彷彿とさせます。
長嶋さんの本は小説でしたが、そこに載っていた女性の姿も、やはり職場で働いている部分が印象的でした。
印象的だったのは「前線と窓口のことを呼ぶ上司(戦士になった覚えはないが)」という短歌。
働くことを戦場に例える風潮はよくありますが、それがいかに安易で、考えることを止める言葉なのかということがわかるものです。
他にも「アイドルが規則正しい生活をしているだけで救われる(YES・NO)」という短歌も、心に残りました。
載せられた短歌はひとりひとりの女性たちが、自らの労働の中で考えたものですが、不思議とどれも、自分の中から滲み出てきたもののようでもあります。現在働いている多くの人が、同じように詠む可能性のある歌だからだと思います。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

ジューンドロップ 夢野 寧子 (著)

ジューンドロップ

目に見えない恐れ

生と死をめぐる女の子たちの話です。不妊治療を繰り返す母のもとで暮らす主人公のしずく。自分のせいで妹を亡くしてしまったと感じる近所の女の子、たまき。ふたりは縛られ地蔵のもとで出会い、言葉を交わすようになります。
母親が精神的に不安定な環境の中で育つしずくは、常に偏頭痛に悩まされています。偏頭痛や排卵痛、他人からすると一見は見えないような自分の中の痛み。小説の中でしずくが恐れるのは、それだけではありません。これから出会うだろう、自分の「いもうと」。自分が生まれるときに自殺した「おとうさん」。
しずくが恐れるのは、いつだって「目に見えないもの」なのです。
自分の見えるものさわれるもの、そう、母や、血の繋がらない父が「自分のみえないもの」によって病んでいく様子を彼女は憎み、そうして、「いなくなればいい」とまで願う自分の感情に気付きます。
ジューンドロップ、木が果物を「いらない」と判断し、自ら実を落として間引くしくみ。はじめは、流産した母親の子供についての会話なのかと思っていました。しかし話を読み進めるうち、それはしずくやたまき、「残された」子供自身のことなのではないかと、だんだん思えてくるのです。自分が「間引かれた側」だと思うことは、どんなにつらいだろうか。
最後に生をこの世に新しく受けたきょうだいの存在を知ったしずく。彼女が恐れていたものの存在を彼女は赦しました。それは、自分自身を、死んだ父を赦したことと、イコールなのかもしれません。
死者は生者が思い出し、葛藤することでもういちど、この世に浮かぶのではないでしょうか。お地蔵様やお祈りをする場所で我々が思い描くように。
祈りも呪いも、その源はいつだって同じところにあります。そのことの恐ろしさと尊さを、描いた小説だと思います。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)

黄金蝶を追って (竹書房文庫)相川 英輔 (著)

黄金蝶を追って(竹書房文庫)

誰かの不思議に身をまかせ

海外でも高く評価された摩訶不思議な短編集が刊行されたのは暑さに辟易していた8月のはじまりで、
読み終わったとき私は大人のための夏休みのような物語だなと思った。
きらきらしていて、わくわくできて、でも少し怖い。
人の手など必要がなくなってしまうくらい優秀なロボットが導入されたコンビニ店の店長。
ようやく手に入れたマンションに現れる先住者の残像。
音も人も存在しない8日目の世界を手に入れた水泳選手。
まるで生きているような絵を描くことができる魔法の道具を手に入れた少年。
どれも日常の中で突如あらわれた陽炎のような不思議だ。
私はファンタジーの世界に迷い込む主人公にあこがれる子供だったが、大人になった今はいざその不思議が実際自分の身にふりかかる想像しただけで新しいものに立ち向かう気力はないし億劫だしそれ以前に恐ろしいと思う。
未知への畏れはもちろん彼らにもあるはずだが、それでもその非日常をプリズムのように感じられたのは、登場人物たちの誠実なキャラクター性のおかげなのかもしれない。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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琉球怪談デラックス 小原 猛 (物語)

琉球怪談デラックス

強く生きようとする死んだ人たち

沖縄には一度だけ行ったことがあります。バスに一人で乗ったらいきなりパワフルな知らないおじさんに、「おじょうちゃん、お金をあげようね!」と言われて、無理やり小銭をたくさん両手に掴まされ断りました。その後、動揺して道に迷いました。その後の記憶はあまりありません。
そんな沖縄。小原猛さんの実話琉球怪談と、太田基之さんの漫画がたくさん入っている本です。読んでいると、今までに触れてきた怪談よりも、なんだか「おばけたち」の「生きよう」とする姿勢を強く感じます。すごくおもしろい。死んでいるのだから生きようも何もないのですが、とにかく沖縄の霊は、何かを食べたいと思ったり、ほしいと思ったり、いらないとはっきり言ったり、笑ってしまうようなエピソードが多いのです。まるで、生きている人みたい。
死んだ人にも、思いっきり、生きているときがありました。兵士の霊は死後、生きている人が飲んでいるコーヒーをみて「飲んで・・・みたい」と思います。そうして生者のコーヒーの味を奪い、立ち去る。すごいなと思いました。
沖縄の暑さ、風の匂い、森で頭に絡みついてくる植物、そんな、「生の匂い」が、本土よりも色濃く立ち込める場所にいると、死者も、生者と同じような力をつけるのかもしれません。いえ、もしかしたら生きているときからそんな力を持っていたのかも。スーパーの一角で「神様の通り道がある」と言い、線香をたく人の話を読んでからは、なおさらそう思うようになりました。
思いっきり生きて、死んだ後も思いっきり何か成し遂げたいと、強く願う。こういう人になりたいなあ、と思いました。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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影踏亭の怪談 (創元推理文庫)大島 清昭 (著)

影踏亭の怪談(創元推理文庫)

ホラーとミステリどちらも一度に楽しみたい方におすすめ

怪談作家・呻木叫子(うめききょうこ)が密室の中、両瞼を己の髪で縫い合わされ昏睡状態で発見される。発見者となった呻木の弟はこの怪事件には彼女が取材中の旅館「影踏亭」に出没する霊が関連しているのではないかと手掛かりを求めて調査に出向くが、そこで起きた密室殺人事件にまきこまれてしまう。

この事件、本当に怪異によるものなのか生きている人間による犯行なのか。
現実の事件の描写に交互に差し込まれる「呻木叫子の原稿」で語られる人々の体験した恐怖の語りもあいまって、事件には怪異が絡んでいるとしか思えなくなってしまう。

謎解きの快感とゾクリとおそろしさに震える四篇が収録されている本作。とりわけ四篇目「冷凍メロンの怪談」は冗談のようなタイトルからは想像できない読後感。ぜひ順番に読んで味わってほしい。
すでにシリーズ二作目『赤虫村の怪談』(東京創元社)も刊行されている。

書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー

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うどん陣営の受難 津村 記久子 (著)

うどん陣営の受難

適切に

4年毎に開かれる会社の代表を決める選挙。それに関わる人間模様を描く小説です。
津村さんの小説を読んでいると、食べ物、おいしそうだなあ、と思うことがあります。シズル感や食べ物の様子が細かく描かれているわけでもないのですが、出てくる登場人物が摂取するなんでもない食べ物はいずれもおいしそうなのです。きっと、人物が出会うできごとのあとで、一番彼らが食べたい食べ物が、「適切に」描かれているからだと思います。
今回の小説で描かれるのは、「うどん」。選挙の集まりだといいながら会社の人たちと食べるうどん。それがおいしいこともあり、主人公はわりとまめに、集まりに顔を出すことをやめられずにいます。
毎日何を食べるか、誰に何を話して何を話さないか、誰の味方をするのか、誰の味方もしないのか、決めるのは紛れもない自分自身です。そのことが「適切に」描かれていることもあり、私達は津村さんの本を読むことをやめられないのです。

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